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【ミステリ小説】家族テレパシー《18年後気付く》

    ~あらすじ~
    東京の普通の家庭で育った日菜子。
    大学生で自由な兄(雄太郎)の事が理解出来ないでいる母。
    夏休みの夜、日菜子が家で今まで見た事がないモノを見た。その同時刻に離れた場所で兄に起きてい不調。
    離れて離島に住む祖母は何かを感じていた様だった。
    日菜子と雄太郎、祖母はそれぞれ違う場所で奇妙な繋がりをする。不思議なことは、本当か嘘かは本人にしか分からない。
    そして日菜子は18年後、あの夏の夜に見たものが何だったのかふと気付く事になる。
    どこの家庭でも起こりそうな当たり前で当たり前ではでない話。

    ~家族テレパシー~

    ◇はじめに

    みんな、自分の思う常識が正しいと信じて、生きて生活をしている。だからこの話を信じて欲しいとかは思わない。
    思わないけれど、もし、私がこの話を初めて聞く立場なら…こんな事もあるんだねっと思う。
    だって、この世の中には不思議な事や、まさかな出来事が時々起きているから。
    あなたは、どう思うかはわからないけど…

    ◇日菜子と家族


    駅前の募金活動している人達、よくもこんな暑い日にずっと立ってられるなぁ…。自分の為の集金でもないのに…。私には無理…テレビの天気ニュースに映りこんだ背景の人達だ。

    世の中の事なんてわかっていないのにわかったつもりになっていた小娘だった。

    当時、私(日菜子)は19歳。もうすぐハタチ。

    夏休み、これと言って毎日が遊びで忙しい訳でもなく、夏の暑さに弱い私はエアコンが効いた涼しい和室にいる時間が多かった。

    私は東京に住む4人家族、両親と2人兄弟の末っ子。

    両親は、忙しく働く50代。

    父は働き者で色んな事を知っていて友人知人も多く、仕事にまじめで家と会社の往復の毎日。家に仕事と愚痴は持ち込まない、私からしたら優しくて良い父。

    母はエレガントなタイプでしっかり者。数年前から働きに出ている。
    薬剤師の資格を持っている母は、資格を活かしたいと週に何度かパートへ行っている。

    兄(雄太郎)はたぶん、23歳。
    大学4年の兄は、勉強が出来るのか出来ないのか知らないけれどちょこちょこ忙しそうに過ごしている。

    生活はどちらかと言うと余裕的で家は家族4人で暮らすには部屋が余るほどだった。

    特別仲が良い訳でもないが、悪い訳でもないごく普通の家族。
    必要な会話はするし、たまにはふざけた話もする事もあった。

    私の家族は、みんな自由独立タイプだった。
    集まれば仲がいいけれど、一歩外に出ればそれぞれの世界。

    だから、家族の事をお互いよく知っているようで、実はよく知らない。

    夕食時も一緒に食べてテレビの話題なんかで話して笑ったりするけれど、外での近況報告はあまりない。

    それぞれが外ではどんな人間関係でどんな立ち位置なのか、どこら辺でいつも遊んでいて、寄り道していて金遣いは荒いのか、学校での成績は何番目なのか、何てことも知らなかったし、聞こうという流れもほぼなかった。

    よく言えば、信頼されているからこそのプライベートまでは入って行かない、聞かない、程よい距離感が保てている家族、逆を言えばややドライな家族なのかもしない。家族でもすべてを知る必要はないと。

    なので、時折、友達が
    「パパとドライブしてお買い物いったの」とか
    「お兄ちゃんと映画行って、ご飯食べた」とか
    「塾の帰りお兄ちゃんが迎えに来てくれて~」なんて聞くと

    『すごい仲良しなんだなぁ…ウチじゃありえない…』と思う事があった。

    でも、きっとほとんどの家族は、友達の家族の様に特別仲が良いか、私の家族の様にややドライな一面もあるけれど仲が良い、そんな感じなのだろうと思っていた。

    ・・・あなたの家族は?

    ◇雄太朗

    当時22だった。

    4人家族だけど最近は1人になりたい時間が多い。

    就職活動も上手くいかない。周りの友達は内定決まってるヤツが多い中、なんで俺は決まらないんだ?
    そもそも、受かればどこの会社でもいいという感じでただ就活していたが、6月からはもうなにも活動はしていない。

    何も言わない父親、母親とはなるべく顔を合わせたくない。

    妹は、、、なにも考えずに今を楽しんで過ごしているみたいだ。数年前は俺だって同じだったんだ。

    家族の中では、父親だけがきっと俺を理解してくれているだろう。

    今年になってからやたら俺の行動に関心を持つ母親が面倒だ。
    もう大人なんだから勘弁して欲しい。

    バイトをしても、口を挟んでくる。

    就活が上手くいかなかったらバイト先でそのまま就職したらいい、バイト先の店長はそう言ってくれた。

    でも、きっとこれを話したらまた何か揉めそうだ…

    なんで俺ってみんなみたいに就活がうまくいかないんだ?何が問題?

    でも、ラッキーだとも思う。店長が俺を信用してくれているから。

    日菜子、お前もいつまでも自由だと思うなよ…

    ◇母 あき子

    それなりに幸せで普通の家族の母をしています。

    夫と二人子供がいます。上の子は長男で雄太郎、下は娘の日菜子です。
    日菜子が大学を卒業したら週4日の仕事を辞めるつもりでいます。

    今年に入ってから長男の雄太朗が気がかりです。

    大学を留年して…なんだかよくわからないんです。

    昔は不器用でも可愛いと思えた息子でも、成人して大人になっても、何を考えているのか分からない行動をする時が母親として疲れて嫌になります。

    娘の日菜子は…雄太朗を見て育った為かしっかりしている娘です。人当たりも良くて、器用な子でもあるので、手がかからず助かります。

    年明けから雄太朗がアルバイトを始めたのだけれど、ちょっとひっかかる地元の飲食店。

    昼はご飯屋、夜は居酒屋。

    ただ私が気に入らないのは経営している人…経営元がよろしくないという話は地元の知る人は知る話。
    そういう事を知らずにアルバイトをそこで始めてしまうのが、まだまだ学生…情報に疎いというか…世の中をまだ知らないというか…

    アルバイトするだけならまだ許せるけれど(本音は辞めて欲しい)、なんだかそこでアルバイトを初めてから少し様子がおかしい事が増えたんです。

    バイトへ行くと言ったまま帰ってこなかったり、帰ってきたと思ったら雪駄(せった)を履いて帰ってきた。しかも新しいもの。靴はどうしたのよ!

    ある時は、帰ってきて丸一日ずっと寝たままで、しかも部屋ではなくトイレから鍵をかけて出てこなかったんです。

    雄太朗は優しく育った子だけれど、はっきりものが言えずにニヤニヤしてやり過ごそうとするところがあるからバイト先で良いように使われてるんじゃないかと気になってます。

    そこの居酒屋を辞めて欲しいけれど、22 になった息子に母親がそこまで言うのは、と思い、、、とどまっています。

    幼い頃から私立学校に通っているのだから将来、就職の事もちゃんと考えて欲しいと思うのですが、私はおかしな母親なのでしょうか?

    普通ですよね?

    ◇おばさん達の話

    私(日菜子)は、親戚や近所のおじさんおばさんに良く可愛がられていた。
    母が忙しかったというのもあり、近所の親戚のおばの家には小さい頃、小学生から中学生までは自転車に乗ってよく遊びに行っていた。

    離れた大阪の親戚のさち叔母ちゃんには、よく手紙を書いていた。私は手紙を書くのが好きな小学生だった。
    自分が書いた手紙が2,3日で大阪まで届くというのがわくわくして楽しかった。
    手紙が着くと、さち叔母ちゃんは電話で「お手紙ありがとう」と連絡をくれたり可愛い便せんにお返事を書いて送ってくれたりもした。文通友達のような関係だった。

    良くテレビや、親戚のおばさんたちの話で、「母親は息子がかわいいのよ」と言う話をよく聞いていた。私の前でそんな話をしていたのが、当時の感じだった。
    でも私は中学2年、3年辺りから、なんとなくその意味を理解していた。

    学校から帰って来て適当に冷蔵庫にある物を食べておやつを済ます私、兄が部活から帰って来てアレコレ食べ物をテーブルに並べてあげる母。
    高校生の時の私は、少し冷める気持ちもあった。でも特に気にはならなかった。
    スポーツ部活を毎日頑張る兄と、週1回の美術部の私とでは扱いが違ってくるのもなんとなく理解できたからだ。

    同性同士の母と娘よりも、異性の母と息子の方が母親的には常に気がかりで、かわいいものなのだろうと。

    大人になって男の子を出産した私の友達は 

    「男の子は、私の言う事を素直に聞いてくれる小さな彼氏💗」と言っていたのも、そういう事なんだろうと…。

    正直、私はちょっと引いた。

    息子は息子であり彼氏ではないだろう…と思ったから。

    でも、世の中、男の子を生んだ女性たちは、そう感じるものなんだろうとも思った。私の頭の中が古いのかもしれない。

    なので、私は母が私よりも兄に対して、より世話を焼いていたのは、やはり息子は可愛いという事なのだろうと思った。

    出来が悪い子の方がかわいい、と言う言葉もあるように、異性だからこそ理解が難しい、わからない所を埋めたい という母性が働くのかもしれない。

    ◇私の思う兄

    そんな兄、雄太郎は、大学を1年留年した。
    理由は知らなかった。仲良い家族でもプライべートには無関心な関係だったから。
    しかし、なんとなく両親の話を聞くと、どうやら大学の他に何か興味を持ったものがあったらしい。
    その為、単位の取得が出来なかったらくめでたく留年した。

    でも、この春からいい加減兄が就職活動をしないといけない事は私もわかっていた。

    けれども、就職活動しているようにも見えなかったし、だからと言って既に内定がもらえたようにも見えなかった。
    そんな兄を心配していたのは母だった。

    「卒業後はどうするのかしら…」 
    ある時母と二人でお茶をしていた時に、ふっと出た母の言葉だった。

    年明けからこの半年の間に母と兄の意見がぶつかる事も多々あり、私はちょっと見世物でも見るように少し離れた所から2人のやり取りを見ていたこともある。

    正直、家の空気は悪かった。

    そして、私は兄の事をちょっと変わった奴と認識していた。

    兄が大学の教授にプレゼントをしたいと相談されたことがあったが私はその大学の先生を知らないから適当に「バラの花でもあげたら?」と言うと、どうやら男性教授だったらしくよせばいいのに、本当にバラの花をあげたという…

    他には、お金がないと言いながら父財布から勝手に借りたお金で賭け事をする姿を私は見ていた。
    私が見ている事に気が付くと「後で戻しておけば大丈夫だから」と言っていた。本当に戻していたかまでは知らない。

    バイト先で出会った人にもすぐに影響を受けるタイプで、ある日には玄関に雪駄があった。母は、その雪駄をとても嫌った。

    私の家は、どちらかと言うと雪駄は似合わない家だった。

    どちらかと言うと母は品の良いマダムなので、雪駄が誰の影響で履きだしたのかもモヤモヤして気に入らなかった様だ。

    私は、雪駄を普段履きしている人を見たことがなかった、ここは東京だし雪国でもない。むしろ雪駄を初めて見た。
    下駄ならまだしも、、、雪駄??と理解できなかった。

    しかし、この’’うちの兄はちょっと変’’という感覚は私だけで…両親はきっと何とも思っていないだろう。
    母も今の兄の事が理解できないだけだと思っていたに違いない。

    いや、私が冷静に第3者として見たら、

    変わっていますよ、あなたの息子。

    ◇祖母について

    私から見た、母方の祖母は、腰が曲がった小さなおばあちゃん。

    髪がきれいで、もとから白髪(はくはつ)のようなつやつやした白髪(しらが)だった。

    鹿児島の離島に住んでいて、小さなころから毎年夏休みには祖母に会いに家族で飛行機とフェリーを乗り継いで行っていた。
    東京からは遠いので、行くときは1週間は最低滞在した。
    幼稚園や、小学校低学年の時などは2~3週間滞在したりした。
    次第に塾や、部活などで忙しくなってきて長期祖母の家に滞在することが減ってき、もうここ数年は帰っていなかった。

    たまに、母は祖母と電話をしているようだった。
    小さい頃は祖母から電話が来ると母が「日菜子に電話代わるね」と言って、私と祖母が話す機会があったが、そんなこともいつの間にかしなくなっていた。
    祖父は、私が小学生の時に亡くなって、祖母は1人で離島の家に住んでいた。

    今思うと、私は冷たかったと思う。おばあちゃん、ごめんね。

    ◇夏の夜に


    そんな兄と私は夏休みのある日、家にいた。
    私は、お昼過ぎリビングでテレビを見てた。そろそろお昼ご飯でも食べようかという時間だった。
    その時兄が自分の部屋から出て階段から降りてきた。

    兄「ちょっと出かけてくるわ」

    私「どこ行くの?」

    兄「駅前かな~…」

    私「ふぅ~ん、いってらっしゃ~い」

    ごく普通のやりとり。兄は普段と変わらない姿、服装で出て行った。夕食時には帰ってくるんだろうなぁ、と思い母にも伝えた。

    しかし、兄はにな食事の時間になっても帰って来なかった。

    3人で夕食を食べたこ終えた頃、家の電話が鳴った。
    私が出ると、大阪に住んでいる親戚のさち叔母ちゃんだった。

    叔母「もしもしぃ、久しぶりやね。日菜子ちゃん元気?」

    私「わぁ、さち叔母ちゃん〜!お久しぶりだね、元気だよ。毎日暑いねぇ」

    叔母「ホンマやわぁ、暑くて溶けそ!無理したらあかんで!あのぉ、ちょっとお母さん居る?代わってもらっていい?」

    電話を母に代わると、母は初めは高かった声のトーンが少し下がって


    「すみません、もぅ。。。うんうん、雄太郎ったら…じゃあ、お願いしますね。本当に。。。お手数おかけします」


    と言っていた。

    電話が終わってから私が、どうしたのかと聞くと、母はため息交じりに

    母「お兄ちゃん、大阪に行ったみたい。」

    私「え?ちょっと駅前に行くって言ってたけど…大阪に行ったってこと?」

    母「もう何考えているんだかわからないわ…」

    母は呆れていた。父も呆れていたように見えた。
    しかし、父は何も言わなかった。最近の母と兄の関係を男同士なりになにか理解があったのかもしれない。

    私は、やっぱり兄はちょっと変わった奴なんだと再認識した。

    居場所が分かっているプチ家出。
    その家出先が大阪のさち叔母ちゃんの所だなんて、、、可愛い家出だ。

    その夜は静かに過ぎていった。
    夏休みと言う事もあり、私は夜遅くまで毎日起きていた。
    寝る時間は大体1時、2時だった。

    翌日、兄がいなくても特に変わらずに時間は過ぎた。

    私は昼間に地元の友人と会っておしゃべりをして帰宅して、夕方すぎには両親も帰宅して3人でご飯を食べた。

    順番にお風呂に入って、両親はいつもと同じ時間に寝室へ行き寝る。
    遅くまで起きている私には特に何も言ってくることはなかった。

    両親が寝室へ行ってからも、私は1人まだ寝ずに和室で転がってテレビを見ていた。

    特に見たいテレビがあったわけではないが、音がなく過ごすのは嫌いなのでただテレビをつけていたし、せっかくの長い夏休みなら、普段とは違う生活をしたかった。
    でもそれが、ただ遅くまで起きている事だなんて、夢がないつまらない19歳だ。

    いつもは読まない本を読むとか、語学の独学とか、どこか旅してみるとか、美術館へ行って新しい感性に触れるとか…そんな賢い過ごし方当時の私は頭になかった。

    こうして、この日も何も得るものがない無駄な時間は過ぎていった。

    午前1時半になる頃、そろそろ寝る準備でもしようと畳の上で寝転がったまま2回3回転がって、なんとなく和室の先の廊下を見た。

    この廊下は14,5mほどあり、電気がついていないと当然暗い。
    和室の襖(戸)は20センチほど開いたままで、和室の電気の光がこぼれて廊下の手前側は少し照られていた。

    エアコンに当たり続けてだるくなった体。

    うつ伏せになったままテレビをリモコンで消し、体を起こそうと、肘をついて起き上がろうとした。


    その時



    水っぽい目やにでも眼球に貼りついたのかと思うような違和感を感じた、


    目の前にボワっと何か見えた。



    20センチほど空いている襖の先。

    ほんの1,2秒。

    目をこするとすると、廊下の先から何かがこちらに向かってくるのを感じた!!



    しかもそれは、白く、廊下から和室の隣にある書斎部屋へと走って行った。

    一瞬その形も見えた。
    人のような、でも人ではないような形だった。


    しかし、私はその時はただの見間違い、遅くまでテレビをつけていたから目が疲れているんだと思って何も気にしなかった。

    廊下を出て、洗面所へ行き、歯を磨いて自分の部屋に行きエアコンをつけて寝た。
    さっき見た物の事なんかは、ただの気のせいだと自分に言い聞かせて目を閉じたら即、眠りに落ちれた。怖さなんか無かった。

    兄がちょっと出かけてくると言ってから3日目。
    この日も、普段と変わらずに1日が過きて行く。

    家族みんなそれぞれの時間を過ごす。
    仕事へ行く両親、昼食はコンビニで済ます私。
    夏休みくらいはと洗濯物を畳んでみたり、掃除機をしてみたり、こんな日もたまにはある。

    夕食時には両親と私3人で過ごして、食後のテレビを見て夜の時間が過ぎていく。


    また最後まで起きているのは私、一人。
    この日も午前1時半を過ぎていた。
    和室でゴロゴロしていた私は、寝る支度、歯磨きをしようと洗面所へ向かった。


    鏡を見てちょっと肌が荒れてるなぁと思って自分の顔をまじまじ見たりしながら歯磨きを始めた。

    ふと、歯ブラシを咥えたまま廊下の方へ振り返ってみると




    あいつだ!!!




    昨日見た、全身白い影のようなものが家の中をまた走っていた。

    私は昨日見たものは、気のせいじゃなかったと確信を持った途端に怖くなった。


    1度目は気のせいで済ませることが出来ても、2度目の方がより恐怖を感じた。

    声を出せずに『え…』と思ってから5秒ほど体が動けなかった。

    『あれはなに!?    なんで走ってるの??』


    例えるなら、サーモグラフィーの人型のようなものが家の中を走っている。

    サーモグラフィーは、体温によって赤や青で表されるが、私が見たものは白い。

    それはまさに、白い影。

    白い影が家の中を走っていた。タッタッタッタと足音が聞こえそうな足取りで走っていた。
    白い影はリビングの方へ行き1周した後、また廊下へ出てきて玄関の方へ走って行った。

    私は小さく震えながら歯磨きをすぐに終わらせ、口も適当にゆすいで急いで洗面所を出た。
    階段を1段飛ばしで上り自分の部屋に入りタオルケットを頭から被った。

    いつもならエアコンをつけて寝るのにそのことさえも忘れてベッドに飛び込んだ。

    この日、寝付くまでに時間がかかったのを覚えている。

    でも、目をつぶるしかない私は頭の中で流行りの歌を歌いながらついさっき見たものは気のせいだ!と忘れようとした。

    私はどうやら、いつの間にか疲れて寝むっていた。
    気が付くといつもと同じ朝、次の日が来ていた。

    私が起きると、両親はすで仕事へ行きいなかった。
    当然、私の朝ごはんはない。
    高校を卒業したらあとは自分で、という暗黙のルールだった。
    ガキじゃないんだし、自分で出来ますよ、という私の態度もあった。

    夏休みと言うのもあって、朝と昼が一緒のご飯なんて普通だった。
    コンビニで何か買った食べたり、家の冷蔵庫にあるものを食べたり。

    不思議と昨夜見た白い影の怖さは消えていて、『アレはなんだったの?』くらいのもの位なっていた。

    そして、この事を誰かに話そうという気さえなかった。
    というか、日中、家に1人。誰かと話す事もなかった為、昨夜の事は夢を忘れるかのように、忘れていった。

    この日からは、少し早く寝るようにした。

    夜12時すぎに自分の部屋に行きエアコンをつけてベッドで横になる。
    別に、夜遅くまで起きているのが怖くなって早く寝るわけではないけれど、起きていても特にいい事なんて起きないから早く寝る事にしただけだ。

    目をつぶって寝ようとしたけれど、なんだか眠れない…
    部屋の時計の針の音が チ、チ、チ、チ、チ…と聞こえてくる。


    『私の部屋、こんなに秒針の音って聞こえるものだったかなぁ…』

    この夜、昨夜の様に影らしきものは見えなかったし、足音も聞こえなかった。

    早く寝る事に抵抗があって寝付けなくてもエアコンが効いて気持ちよくなってくると眠れた。

    ◇兄の帰宅

    兄が大阪に行ってから1週間過ぎた。確か10日ほど経っていた。

    私は自分の部屋で勉強をしていると、誰かが階段を上ってくる音がした。
    ノックもせずに兄の雄太郎が入ってきた。

    私「あ、、、おかえり」

    兄「よっ! ただいま!元気だったか?」

    私「まぁね、てか、お兄ちゃん駅前って言ったのに大阪行ってたんじゃん!」

    兄「ん~~なんかねぇ~気が付いたら電車乗ってた!」

    私「ふうぅん…」

    飛行機で行ったのか、電車で行ったのかなんて興味はなかったので聞かなかった。

    私は机に視線を戻して本の続きを読もうとした、数秒後。

    『あのねっ』
    『あのさっ』

    私と兄は同時に話そうとした。

    私は机に座ったまま、兄は立ち話をまだ続けるかの様に私の部屋のドアの所にいた。

    私「何なにぃ、お兄ちゃんからどうぞぅ~」

    口元を緩めながら言った。
    私は内心、兄がどんな話をするのか、どうせ大阪で楽しかった話をするのだろうと思った。

    すると兄は、兄は少し眉間にしわを寄せてなぜか少し小声で話し出した、

    兄「大阪着いて、さち叔母ちゃんの所に行ったんだよねぇ。さち叔母ちゃん元気だったよ。
    なんか、いきなり大阪に行った俺の事も、『そんな事もあるでしょ』って言って、次の日も一緒に出掛けてくれてたこ焼き食べに行ったり、ちょっとした観光に連れて行ってくれたんだよね~」

    私「さち叔母ちゃん優しいもん〜!
    いいなぁ~」

    兄「でも、その観光してさち叔母ちゃんの家に帰った夜、ご飯食べてお風呂入って、ゆっくりしてたんだけど、

    なんかねぇ、急に体調が悪くなっていって、早く寝な!っていわれて横になってたんだけど、どんどん震えが止まらなくて…熱が出てさぁ…解熱薬貰って飲んで寝てたんだけど、全然効かなくて、すげぇ高熱で40度。

    ほんと、自力じゃ起き上がれなくて…視界もぼやけてきてさぁ」

    私「?!」 

    一瞬引く私…


    兄「さち叔母ちゃんも、これはヤバいヤバいって、言って叔母ちゃんと叔父ちゃんに支えられながら車で救急病院に行ったんだよねぇ…そしたら病院で熱はかったら上がっててさぁ~41度!」

    私「えぇ…それお母さん知ってるの?」

    兄「ううん、知らないよ。お義母さんから離れたくて大阪行ったし、叔母ちゃんもお母さんが余計心配して、俺とまた揉めたら大変だからって、この事は言わないでおこうって事にしたんだよね。
    だからお母さんは知らないよ。だから内緒だぞ!日菜子、言うなよ。」

    そう言って、兄は私のベッドに腰かけた。本当は私のベッドに座ってほしくはなかった。

    私「うん…わかった、言わないよ。それでどうしたの?」

    兄「病院で点滴とか注射打ってもらって、ちょっとずつ熱も落ち着いてきて結局2日入院して3日目に退院したんだよね。」

    私(お兄ちゃんが出て行って、次の日、夜中に救急病院…2日入院したって…⁈あれ…なんか…引っ掛かる…)

    私は兄の話を聞きながら、自分のここ数日の事を思い出していた。しかし、兄の話はまだ続いた。

    私「それは、大変だったね。さち叔母ちゃんも気を使ってくれたんだねぇ。私、41度の熱なんて出た事がないからわからないけど、高熱すぎて死にそうだね…生きててよかったねぇ」

    兄「本当、死ぬかと思った!!本当い震えが止まらなくて、意識も朦朧としてさ…」

    そんな事になっていたとは…確かに両親には、特にお母さんには言えないよなぁ~と思った。
    ただでさえ、普段からお母さんは心配してたし、さち叔母ちゃんにも迷惑かけて、挙句の果てに救急病院に入院って…そんなこと言ったらどうなっちゃうんだろう…

    兄は話をつづけた。

    兄「そんで退院して、叔母ちゃんの家でゆっくりしてたら叔母ちゃんちの電話が鳴って、鹿児島のおばあちゃんだったんだよねぇ、それでおばあちゃんが
    『そっちで誰か具合悪かっただろぅ?そろそろよくなったのか?大丈夫かぁ?』って言ってたんだよ。」

    私「え?鹿児島の??なんでおばあちゃん…そんな事わかったの⁈」

    兄「さぁ、でも、『誰か苦しんでいる気がして、電話した』って、おばあちゃんが言っていたよ。俺もさち叔母ちゃんも、ちょ~っとビビったよねぇ~」

    私「そんなことってあるの???」

    おばあちゃんからの電話の話を聞いて、私も驚き、少し鼓動も早くなった。


    こんな小説みたいなことが本当にあるんだと思った。


    ちょっと鳥肌が立った。
    私はもう既に机に向いて座ておらず、兄と向かい合って話を聞いていた。兄が私のベッドに座っている事にも、何も思わなくなっていた。

    兄「でさぁ~」 兄の話はまだ続いた。

    ◇答え合わせ

    てっきり、大阪のお土産話を聞かされるとばかり思っていた私は、やや動揺していた。そして、兄の話に興味持っていた。

    私が、あの日、深夜に家で見た、白い影のような得体の知れないモノを見た時、兄は高熱にうなされて、しかも40℃超え! 救急病院に入院していたなんて!!!
    しかも、退院してからおばあちゃんが大阪のさち叔母さんに電話してきて、体の具合はそろそろ治ったか?…って。

    そんな事ってあるものなのかな?
    ただの偶然??
    それともなにか…

    私は少し複雑な表情をしていたかもしれない。でも、そんな事はお構いなしに兄の話は続いた。

    兄「でさぁ…その電話が終わって、なんかわからないんだけど、おばあちゃんに会いに行こう!って、思って次は鹿児島に行ったんだよねぇ」

    あ、この人は本当に本能だけで動いているのか?と自分の兄の事を思ったが、でも、きっと素直な気持ちでただおばあちゃんに会いたくなったんだろうと。
    そう、考え方によっては兄は純粋なのかもしれない。

    私「え?鹿児島に??よく飛行機のチケットとれたね、てかお金あったの?!」

    当時は今ほどインターネットも普及されていなかったし、航空券を買うのも慣れていない人には少しハードルが高かった。

    結局、飛行機のお金はどうしたのかは教えてくれず、流された。
    なんせ、あの離島まで1人で行ったのだから驚いた。
    鹿児島空港からも、遠く、住所も知らずに小さな頃からただ母についていくだけの記憶しかないのだから。

    でも、兄はさち叔母さんに教えてもらったと言った。
    これを聞いて、納得した。もしかしたらさち叔母ちゃんがチケット代を助けたのかもしれない。

    兄「おばあちゃんの家に着くころ、家の前でおばあちゃん待っててくれてさ。ベンチに座って。たま小さくなってたよ。」

    …少し胸がチクり痛みが刺した。おばあちゃん…

    夕方にベンチで一人座って、孫が来るのを待っているおばあちゃん…しばらく会っていないおばあちゃんを想像すると寂しい気持ちになった。

    兄「でさぁ、夜ご飯作ってやるって言ってまぁ、4時なんだけど夜ご飯なんだよね。焼き魚をフライパンでねぇ…おばあちゃんレンジは使わないから冷蔵庫にあるものはフライパンで全部温めるってっ、へへ」  ニコニコと話した。

    私「想像つくなぁ…おばあちゃん元気にしているんだ、良かったよ。私もおばあちゃんに会いたいなぁ
    それで、おばあちゃんに会いに行った理由は?」

    私は、内心ワクワクしていた。だって、こんな面白い展開があるなんて思ってもいなかったから経緯(いきさつ)や、その後の展開に期待した。

    兄「いや、本当にただ…さち叔母ちゃんの所に電話が来て、おばあちゃんが、そんなこと言うから、なんかおばあちゃんに会いに行かなくちゃ!って思ったんだよ。会いに行かなくちゃ、よりも会いに行くべきだなって。そんで寝て起きたら、もう’’行く’’って決めてた。」

    私「ふぅ~ん…っで、おばあちゃんはなんで大阪のさち叔母さんに電話して来たかは聞いたの?なんでお兄ちゃんが高熱で辛かった事わかったのかな?」

    兄「別に、俺ってわかってて電話してきたわけじゃなさそうだったけど…でも、聞いたら『なんとなく』って言っていたよ」

    私「・・・?え、なんとなくねぇ…」

    (じゃあ、ただの偶然だったって事?)
    急に私の好奇心はレベルダウンした。

    でも、私は知っている。

    兄が幼い時、体が弱くて体調崩して、入院したことがあった。退院したものの目の離せない時期があった。
    急に痙攣を起こす恐れがあったからだ。
    まぁ、私が知っているというよりは母から聞いたことのある話で、そんな時、おばあちゃんが電話で「雄太郎の具合はどう❓病院の薬を飲んでいるの?それを飲ませるのはやめて、私が薬を送るからそれを飲ませなさい」と言って、おばあちゃんは薬を送ってきたそうだ。

    もしかして、おばあちゃんはエスパー??というような話を聞いたことがある。

    でも、私がそれを聞いた頃には、既に毎年鹿児島には行かなくなっていた年頃だった。

    兄は、おばあちゃんに会いに1人鹿児島へ行き

    数日過ごしたらしい。

    兄「それで、ご飯食べて、その後お茶飲みながら色々話もしたんだよね。お母さんの事や大阪に行って、鹿児島に来た訳とか…次の日おばあちゃんは朝ゲートボールに行って、11時前に帰ってきて、お昼すぎに、仙人の所へ行くか?っておばあちゃんが言ってさぁ、二人で行ったんだよね。」

    私「せ、仙人??、、、」

    (仙人なんて、私亀仙人しか知らないんだけど、、)

    でも、おばあちゃんはエスパーだっていう可能性もあから、仙人という人もこの世にはいるのかもしれない、、、っと、自分でもとりあえず兄の話を聞かなければ!と不思議な気持ちと共に、ただの好奇心で続きを聞きたくなった。

    兄「そんで、結構〜歩いて仙人の所へ言って、おばあちゃんがなんか話してたよぉ」

    私「ちょ、ちょっと待って、まず仙人ってやっぱりおじさん?おじぃさん?」

    兄「うん、おじいさん。白い髭の生えたね。」

    (それは、、、もう亀仙人ではないのか?!!)

    私「それで、仙人はなんだって??」

    兄「おばあちゃんが、俺の事を心配で仙人になんか助言を頼んだ、的なこと言ってて、ただ仙人の人がね、、、方言がすごくて何言ってるのか全然俺わからなかったんだよねぇ〜」

    ニヤニヤしながら語尾をあげて話す兄。

    私「え、でも、おばあちゃんは方言わかるでしょ?」

    兄「それがねぇ、、、おばあちゃんに《なんて言ってる?》って聞いたんだけど、おばあちゃんも《わからない》って言ってさぁ、ハハハ」

    私は、目をパチクリパチクリした、そんな事ってあるの??

    兄「あ、でもね、 」兄は話を続けた。


    兄「おばあちゃんが、仙人の言う事で分かったことが…

    《白い影を見た時は、前から後ろに追い抜かれると魂持っていかれるから気をつけなさい。白の次は黒だ》

    って言ってたって、」

    私は、鳥肌が立った。

    だって、私はこの家の中で夜中、白い影が走っているのを見たのだから!

    私「お、お兄ちゃん、あのねあのね、」声が少し震えた。

    私「私、実は白い影を見たの!!お兄ちゃんが熱出て病院に行った日と、その次の日!!」

    兄は、キョトン としていたが、次に真面目な顔になった。

    兄「そうなの??」

    この時、二人で鳥肌を見せあったのを忘れない。

    私「家の中走ってたの!!夜中に!!あれは、、、じゃあ仙人が言っていたって言う白い影の事かも!?あれは死神って事?!」

    兄「さぁ、それはわからないけど、、、俺は見てないから、、、でも、そっか、、、日菜子は見たんだ」

    (見てないからってわからないって、白い影がどうこうってあなたが鹿児島で聞いてきたんでしょ?!!)

    最後は投げやりな兄。

    兄「あ、そうそうそれで、仙人が御札みたいな紙と、お酒??を部屋に置いとけってくれたよ」

    兄はそう言って、1度自分の部屋に戻り手にそれを持ってまた、私の部屋に来た。

    見せてくれたのは、瓶に入ったら透明な液体、、、本当にお酒なのかはわからないが、仙人がお酒と言うならお酒なんだろう。

    そして、御札のようなもの、

    葉書の横半分の大きさの紙には狐が描いてあった。

    手書きに見えなくもないが、でも、プリントではない狐だった。

    お酒と御札を見せてくれた兄は、

    この事は秘密な、と言って私の部屋から出ていった。

    なぜ、そんな簡単に話を終わらせられるのか、、、私は深堀や考察を楽しみたい気分になったのに、、、

    こうして、夏の夜に私が見た物は、おそらく死神なのだろうと言う事で自分の中で納得した。

    この年の夏、特別遠出をする訳でもなく私の8月は終わった。

    9月、まだ私は大学の授業も始まらずゆっくり起きてはエアコンの効いた部屋で過ごしたり、たまには友達に会ったり、近くの叔母の家に顔を出したりして過ごしていた。

    明らかに、高校生とは違う大学生の夏休み。

    相変わらず、無駄に時間を消費して過ごしていた。

    今思うと、本当に勿体なかった。

    そんなある日、母と二人でお茶をしていた。

    デパート帰りに、買ってきたケーキをおやつに二人で過ごす時間。

    こんな時間は久しぶりだった。

    だいたい、母が仕事の休みで家にいる時、私が外に出かけていたりして、合うようで合わないタイミングが多かった。

    母が買ってきたケーキは美味しかった。

    見た目も味も、コンビニとは違うものだった。

    兄は、私同様まだ大学の夏休み。

    出かけることが増えたようだが、私が起きると既に兄は居ないことも多くなった。

    どうやら、また就活を始めたらしいと、母が言った。

    もう来年の3月には卒業なのだから、今、就活をしている大学生の方が珍しい。

    母「お兄ちゃん、何社か二次面接受かってるみたい。」

    私「ふぅ〜ん、それで今日もいないの?」

    母「ううん、今日はサークルみたいよ」

    私「え?お兄ちゃんサークル入ってたの?」

    母「そうそう、ゼミの人達が入ってるからお兄ちゃんも入ったって。結構前からよ」

    私「サークルって何してるの?」

    母「私もよく知らないわよ、でも川や山へ行ってゴミ拾いとか環境保持のお手伝い的な事してるって言ってたけどねぇ」

    私「そうなんだ、、、あ、それってゼミの学生が多く参加してるって事はもしかして単位も絡んでるのかもね!」

    母「そうかもねぇ、単位なんて、1、2年の頃に3分の2取っちゃえばよかったのに、、、」

    少しだけ不満げな顔をしたけれど、なんだか以前よりは兄についての会話も明るい気がした。

    ついこの前までは、ため息しか出なかったような母。

    最近の兄の行動が、少しマシになったかのような安堵な気持ちが少し垣間見えた。もしかしたらあの居酒屋のバイトも辞めたのかもしれない。

    母「日菜子、あなたは単位大丈夫なの?」

    余計なお世話だった。私は、1年生の時と今年2年で、単位半分以上は取れる見込みで授業を取っていた。

    私「私、お兄ちゃんよりはちゃんと計画立てれて順調だから大丈夫。来年3年生からは週2,3で通う予定だよ。」

    母「あらそう、やっぱり日菜子は違うね!女の子の方がしっかりしてるわよね」

    急な私への味方でもするかのセリフ、、、去年は私の単位など関心もなかっただろうに、、、兄の様に留年するとでも思ったのだろうか?

    母は、私の単位に安心していた。

    こうして、静かに私の19歳の夏休みは過ぎていった。

    □10月


    すっかり夏の暑さは落ち着いて、涼しい日が増た頃、夜テレビを見ていた私と母。
    夜10時になりニュースが始まった。
    それまで見ていたテレビ番組とのギャップから、私たちはテレビはつけたまま視線はテレビを向いていなかった。


    「お母さん、あのね、」

    何を思ったのか、私はそれまで忘れていた話、いや覚えてはいたけれど誰にも話そうと思っていなかった話
    を母にしようとした。


    あの夏の日に見たもの、白い影の話だ。
    でもこの話をするには、兄との約束、大阪での熱が出て入院したという事も話すことになる。
    けれど、兄は無事に先月、就活が終わり無事内定が貰えたことから、きっと大阪での話をしても大丈夫だろうと、思った。

    全てを話さなくても、1部を軽い話に変えれば問題ないと思った。熱が出たと言っても入院したとまでは話さなければ。


    私「お母さん、あのね。不思議な話あるんだけど」

    母「ん?なに?」

    私「お兄ちゃんが2、3か月前に大阪に行ったでしょ?その次の日だったかなぁ、、、その時か夏休みだったし私ぐーたらしてたでしょ?そしたら、お母さんたちが寝たあと、夜にね、なぁ〜んか家の中走ってる人がいたの!!」

    母「えーー?!やだぁ、なに?!どういう事?!ドロボ?」

    私「違う違う、なんかね、白い影みたいな、、、サーモグラフィーで人の形に反応してるような…とにかく、人の形はしてるんだけど、モヤっとした白い影よ!!それが家の中を走ってたの!!!」

    よく考えると、影は本来黒いものなのに、白い影とは矛盾だなと、思ったけれど他に表現がないのだから仕方ない。

    母「えーー?」

    低めの声から語尾が上がる母の反応。

    まさかぁ〜! というような顔をした母だったが、関心はあったようだった。

    私「それで、実はお兄ちゃんが大阪から帰ってきて話を聞いたら、私がその変な白い影を見ていた時 …にお兄ちゃんは大阪で熱が出てうなされてたんだって!」

    母「熱?」

    (あ!しまった!関心は兄の熱に向いたか!!)

    私「でもね、さち叔母ちゃんがお母さんを心配させないように言わないでおこうって気に掛けてくれてたみたいだよ、熱も一晩で治まったみたいだし!」

    なんと私のごまかしは、母に通じた。っと言うか、意外にも母はサラッと聞き流していた。

    私「本当に、その白い影が家の廊下を走ってたの!それから、次の日も見たんだから!同じくらいの時間に!!」

    母「何時よ?」

    私「んー、夜、1時半とか2時だったよ!」

    母「それを見た時、雄太郎が熱出てたって?そんなことあるのかしらぁ??」

    私「でもね、これまだ話は終わらなくて…」

    私は兄が鹿児島へ行って仙人と会ったことも話した。
    そして、仙人が言っていた

    《白い影を見た時、前から後ろから前に通り抜かれたら魂が持っていかれる》と言う話までも話した。

    母は、ちょっとヒンヤリしたようだったが、
    何故かニコニして、ワクワクしているように見えた。

    母「日菜子は、そういうのが見えるの?」

    私「え?そういうの、、、ってお化けとか??、、
    まさかぁ!そんなの見えないよ。そんな力ないよ。」

    母「でも、見えたんでしょ?」

    おかしな話だ、、、そう、あの夏の日、見えた。
    私には、なにかが見える力があるのか??いや、違う気がした。

    母「でも、おばあちゃんも不思議よねぇ…雄太郎が幼稚園の年少さんだった頃もそんなような事があったから、、、」

    っと、母は、私が以前聞いた事がある話をまたした。

    幼稚園で痙攣しがちで、体が弱かった兄をおばあちゃんが送ってきてくれた薬を飲んで、みるみる回復していったというあの話だ。

    あの話が本当ならば、おばあちゃんが飲ませた薬は何だったのだろうか?
    大きな病院へ入院までしていた兄の体調が回復したのだから、不思議な話だ。
    それもまさか、仙人が関わっているのかと思った。

    私は母に聞いてみた。

    私「そのおばあちゃんの薬って、なんだったの?おばあちゃんは何でお兄ちゃんがピンチな時にピンとくるものがあるのかな?もしかして、仙人が関係してるのかな?」

    すると母は

    母「そうそう、あの時ねー。 おばあちゃんが送ってくれた薬!なんて事ない赤玉みたいな粒の薬だったわよ。《病院の薬飲ませるのやめなさい!》って言ってねぇ。すぐその薬を飲ませたのよ。 

    そうしたら、次の日、雄太郎が起きた時に、なんだか顔色それまでと違ってほっぺも色づいて、走り回っても体調が不安定にならなくなったの。
    だから、すぐおばあちゃんに電話してお礼言ったわぁ〜

    その夏に鹿児島へ帰った時に、『仙人って人がいるけど会いに行くか?』っておばあちゃんが言ってくれて、それで雄太郎とおばあちゃんと三人で、その仙人のところに行ったのよー。そうそう、思い出した、思い出した。」 と言った。

    私、「仙人のところに行ったっていうのは、何しに行ったの?お礼をしに行ったわけ?」

    母「お礼もあるけど、そんな仙人がいるのかしら?って思って、、、だって会ってみたいじゃないの仙人って人。確か浜辺を歩いてから山の方にね、歩いて行ったのよねー、結構歩いたっていうのは覚えてるんだけど。結構いい歳のおじいさんだったわぁー」

    やはり、今回の兄のことも、小さかった頃の兄のことも、仙人とおばあちゃんが絡んでいた。

    おばあちゃんと仙人はどこで知り合ったんだろう?
    不思議な事があるなぁと思った。

    そもそもこの時代に仙人が本当に存在しているということが面白く不思議なのである。

    そして母が初めて会った時、既に仙人はおじいさんだった。 兄が3歳の頃におじいさんだった人が。 大学生になった兄が今年会った仙人も同じおじいさんならば、一体、その仙人という人は何歳なのだろう…

    この日以降、この話はなぜか母も私も兄も口にすることがなかった。

    兄は熱が出て入院したという話を、秘密だとさちおばさんと約束したので、当然話すことはなく。 私もなんとなく友達にも話す気にならなかった。

    以前の私なら、こんな不思議な話を知ったら、友達に必ず話をしていたはず。

    けれども、誰にも話そうとしなかったのは私が 経験したこと、見たものが、誰かにとっては作り話に聞こえるかもしれないし、信じられないのは気にしないが否定されると腹が立つと思ったからだ。

    ◇大学4年

    秋も過ぎて20歳になった私は、学校とアルバイトで楽しくも忙しく毎日を過ごしていった。ただただ何事もなく。

    私が大学四年になり、単位も余裕で取得し。 大学には滅多に行かなくてと良くなっていた。 そのため、バスの定期が勿体なく、家から少し離れたコンビニのアルバイトを始め、コンビニバイトに費やす時間が増え、出会う人々も増えた。

    その年の夏に、私は一人の女の子と出会った。

    アルバイトで新しく入ってきた、一つ年が下の女の子 アキちゃん。
    アキちゃんは幼稚園の先生になるのが夢らしい。

    金髪に大きなピアス、長い爪で見た目はちょっとヤンチャな感じがあったけれど、幼稚園の先生を目指していると聞いて、悪い人ではなさそうだった。

    アキちゃんは、見た目とは裏腹に真面目な性格で「いらっしゃいませ」もちゃんと言うし、バイトに遅刻もしなかったし、人手が足りなければ断らずに出勤していた。

    私は、仲良くなれそうな気がして、敬語じゃなくても大丈夫だと言った。

    ある日、昼から夕方までのシフトが被り帰る時間が同じだった。

    アキ「ちょっと甘いもの食べにファミレス行かない?日菜ちゃん時間ある?」

    バイト先の人からこんなお誘いは初めてでバイト時間以外で、アキちゃんと過ごすのも楽しそうだと思った。

    私「うん、いいよ、行こう行こう!」

    二人でファミレスに寄った。

    アキちゃんは、パフェを頼んでいた。すごく甘そうで見ているだけで歯が痛くなった。

    私は、好きなフライドポテトとコーラを頼んだ。

    お互い、大学の話や、コンビニに来るお客さんの話などをして、笑って過ごしていた。

    すると、アキちゃんがいきなりギアチェンジしたかのように言った。

    アキ「私さ、たまに電車で怖いの見るんだよねぇ」

    なんの事かと分からずに私は返した。

    私「怖いものって、痴漢とか露出狂の変態とかそういう類のこと?」

    アキちゃんはちょっと眉をひそめて笑って 手で違う違うと合図した。

    アキ「実は小さい頃からなんだけど、、、 黒い影が普通に街の中にいるのが見えるんだよね、、、
    東京に来てから、特によく電車で見てね、でも混雑してる時はね、あんまり見えないの。

    人がまばらで、空いてて、椅子が空いてる時に、誰かの横にその黒いのがソッと座ってるの。
    こんな話、 誰も信じないと思うんだけどさ、でも私は見てるから信じるしかないんだよねー、、、」

    私はこの話を聞いた時に

    急に3年前の夏の事を思い出した。

    私「アキちゃーん!!私、アキちゃんの言ってること信じるよ。 だって、私も影を見たことあるんだから!」

    アキちゃんが見たものと私が見たものは全く関係ない別のものかもしれないけど、影は影!

    黒い影と白い影。

    もしかしたら、あの仙人が言っていたことが関係しているような気がした。

    白い影を見た時、体を通り抜けられると魂を持っていかれる。白の次は黒、、、

    もしかすると、

    白い影は、魂を持っていったら黒に変わるのかもしれないっと、私は思った。

    私「アキちゃん、その黒い影を見てさ、何のためにその黒い影はいると思う? なんで亜紀ちゃんはちっちゃい頃からそれが見えるの?」

    ちょっと食い気味に私が言ったことで、あきちゃんは少しびっくりもしていたが、私があきちゃんの言う話を信じたというのが嬉しかったらしく、あきちゃんは私に色々話をしてくれた。

    アキちゃんは秋田の出身だった。
    東京に出てきて3年経つが、学校以外で友達が出来たのは私が始めてだと言ってくれた。

    今は東京で一人暮らしをしているが、月に一回、ご両親が東京までアキちゃんに会いに来るらしい。
    ご両親は、心配なのだろう、、、

    そして、アキちゃんの不思議な話も聞かせてくれた。

    どうやらアキちゃんは小さい頃はよく外を見て、電柱の上に黒い猿がいる、向かいの家の玄関に黒い狐が沢山いる、などと言って、母親に「そんな事、家族以外の人に言ったらだめだよ」と強く言われていたらしい。

    しかし、そのアキちゃんが話した向かいの家の人は 黒い狐が見えると言った1週間後に、そこの家の主人は亡くなってしまったという。

    どうやら元気で近所付き合いの良かったお向かい人は、家の中の階段から落ち、体を壊したのにも関わらず病院へ行くことを嫌い、一週間の間、自然に治る事を信じて苦しみながらも痛みに耐えて居たという。 歳も歳だったからと、近所では話がされていたという。

    アキちゃん中学生になると、実際には見えるはずのない動物は、見えなくなったと言っていた、中学になってからはだんだん猿や狐、鳥、猫、たぬきなどの動物だったものが、黒い人の形に近いものになってきた。 と言っていた。

    高校生ぐらいになると立派な人の形になり、街中や電車なので見かけることが増えたと言っていた。 増えたと言っても、毎日ではなく、月に数回だけ見えたと言っていた。

    月に数回だけ見えていたものが、大学のために東京へ上京してからは、もっとよく見かけるようになった。それが怖いと言っていた。

    東京は人口が多いし、電車に乗る人も多いからだろう。

    アキちゃんは、私が真剣に話を聞くので、真剣に私に話をしてくれた。

    すると私が見た白い影についてもアキちゃんは興味を持ってくれたので、私は三年前の夏の話をアキちゃんに話した。

    そして仙人という存在のことも話し、 例の白い影が体を通り抜けると、魂が持っていかれてしまうから、気をつけなさいという話もし、狐の御札とお清めらしきお酒を貰った事もした。

    私は自分に不思議な力はないと思っているし。
    幽霊なども見たことがない人間だから、アキちゃんの話を聞きながら、この世に本当にそんな人がいるんだと思った。

    私も一度だけだが白い影を見たことがあるのだから、他人事ではない気がして、アキちゃんの言う事も信じた。

    二人でファミレスで楽しく話をして、他の人には嘘かもしれないと思われるような話もできた関係になり、アキちゃんとはより仲良くなることができた。

    私も大学以外で友達が出来て嬉しかった。

    それからは、バイト帰りにたまにファミレスへ寄ったり、1度は私の家にも遊びに来たりした。アキちゃんは、私の家の広さに少し驚いていたけれど、私はずっと生まれ育った家なので普通のことだと思った。
    逆に、自然が多い東北、秋田の環境が私は羨ましいと思った。綺麗な空気はお金を出しても持ってこれるものじゃないのだから。

    しかし次第に、アキちゃんは爪が短くなって、髪のカラーリングの派手さも落ち着いてきた。

    そして、幼稚園の教育実習があるため、しばらくバイトに来なくなってしまった。1ヶ月だけバイトを休むと言っていたが2ヶ月過ぎても会えなかった。

    どうやらそのまま辞めてしまったようで、アキちゃんと会うことはなくなってしまった。

    メールアドレスは知ってはいたものの、いつからかアキちゃんから返事が来なくなったので、あえて連絡はせずにただ過ごしていた。

    それでも私はまたアキちゃんがバイト先に来るかもしれないと期待していた。

    3ヶ月ちかく過ぎた頃、バイト帰りに歩いていたら見覚えのある人が立っていた。

    アキちゃんだ!!

    私は駆け寄った。

    「アキちゃん!!久しぶり!!!」

    アキちゃんは、髪色は大人しくダークブラウンで、アクセサリーは相変わらず大きなピアスをつけていたが、爪は短かった。

    アキちゃんは辞めたバイト先付近に近づきたくなかったのか、私の帰り道の途中で、私が通るのを待っていたらしい。

    そして、久しぶりにファミレスへ二人で行った。

    私「久しぶりだね、連絡も無かったし、実習も終わっているはずなのにバイトも辞めちゃったから心配してたんだよね!」

    アキ「うん、実習は上手くいったんだ。単位もいい感じだし問題はなくてね。ごめんね、メール返さなくなっちゃって、、、ちょっと忙しくてさ、、、」

    少しだけ、なにか言いにくそうな様子だった。

    私「そっか、とりあえず、、、元気そうだし、よかったよ!もしかして、何かあったの??ただ私に会いたくなったとか?」

    私は、ちょっと冗談を言った。

    アキちゃんは うんうん っと頷きながら笑った。

    アキ「実はね、実習の後に両親が私に会いに来て、」

    私「うんうん、毎月1回東京に来てくれるって言って
    たもんね!それで?」

    アキ「いつも2泊3日くらいなんだけど、たまにはゆっくりって事で、1週間こっちにいてくれたの。それでゆっくり東京観光しようってなってね。熱海にも行ったりしたの。」

    私は熱海は東京じゃなくて、神奈川だよっと言いたかったが、地方の人からしたら関東という括りで、まぁいっか、と思い訂正しなかった。

    私「良かったね!楽しかった??」

    アキ「うん、両親も楽しんでくれて私も楽しかったんだけど、ね、」

    私「ん?どうしたの?」

    アキ「楽しく過ごして、明日秋田に帰るって前の日に電車に乗ったの。
    そしたら、私の横に父が座って…母が向かいの椅子に座ったんだけど…

    私がちょっとウトウトして、で
    ももうすぐ電車降りるから寝ちゃダメだって、顔を上げたら、


    母の隣に…黒い…」

    私は、アキちゃんの言おうとする事を察した。


    私「影を見たの?!お母さんの隣に!!」


    アキ「うん…」

    数秒の間、私たちは言葉が出なかった。

    アキちゃんは、少し悲しげというか不安な顔をチラっとした。

    私「え、でも影を見たからって、その後どうなるかはわからないし。黒い狐を小さい頃見たって言っていたアキちゃんの話…お向かいさんの事は、たまたま偶然だったかもしれないし。黒い影見たからって必ずしも…」
    必ずしも、の後は言葉が詰まって言えなかった。

    私「アキちゃんのご両親、ちゃんと次の日秋田に帰れたんでしょ?」

    動揺していた。
    なんとなくアキちゃんをなだめてあげたくて。

    アキ「うん、秋田には帰ったの…でも、

    翌週…

    お母さん、倒れちゃったの…

    それで私秋田にしばらく行ってたの」


    私「え?!アキちゃんのお母さんどうしちゃったの?」

    アキ「わからない、でも、病院の先生は過労だって言ってたけど、多分ちがうの。病院でお母さん、ほとんど寝ていて、起きれても私の事が分からない時があるみたいで、、、過労とは思えなくて、、、だって2週間入院したんだよ、それに自宅にもどったんだけど、、、やっぱりなんか変で、、、よく熱でうなされてるの」

    私はアキちゃんが不憫に思えて、どうにか力になる事を言ってあげたかった。

    でも、何を言うべきかわからずにいた。

    すると

    アキ「日菜ちゃん…いつか、前に言ってた話あるでしょ?お兄さんが鹿児島まで行ったって…仙人に会ったって…」

    私「あ、うん…」

    私は、正直、この後アキちゃんが何を言うのか想像出来なかった。


    アキちゃんは言った。




    「その時、貰った御札とお清めのお酒、くれないかな…?」


    私はすっかり、御札とお酒の事を忘れていた!


    でも、あれは兄がもらったものだ。
    友達のアキちゃんにあげるのは、、、良いのか悪いのか、、、難しかった。


    アキちゃんのお母さんを助けてあげたいっていう気持ちはわかる。
    でも、病院で過労と言われて、2週間も 入院してたアキちゃんのお母さんを、お札とお酒で治るわけがないと思う現実的な自分もいた。

    そもそも、鹿児島の仙人の言うことは、白い影の話だし、あきちゃんの話す黒い影と私の見た白い影が本当に関係があるのか、わからない。
    私は何をしてあげるのが正しいのか思いつかなかった。

    白い影の正体は、仙人の言うことが本当ならばおそらく死神という事は分かった。魂を持っていっちゃうって、死ぬってことだから。でも、黒い影の正体は未だに謎なのだから。

    アキちゃんも、電車や街で見かけた黒い影の隣にいた人のその後を知らない。

    白い影が体を通り抜けたら黒くなるというのは、私の個人の考察であり。
    仙人みたいな知識がある人が言ったことではないから、、、

    アキちゃんの言う不思議なものが見える力はなんなのか、黒い影はなんなのか、、、 誰にもわからない。

    だけれども、アキちゃんのお母さんの隣に、その黒い影が来てしまったのならば、きっと今までアキちゃんが見た人達は、、、きっと、アキちゃんのお母さんと同じように、、、
    苦しんでいるのかもしれない。

    私はアキちゃんに言った、


    「お札とお酒、アキちゃんにあげたいけど、あれはお兄ちゃんのものだから、、、ごめんね。」

    アキちゃんは 


    「いいよ、いいよ、別に、なんだか ごめんね、変なこと言っちゃった」と言った。

    アキ「お札とかお酒とかをお母さんの為って、持ってったら、、、お父さんもお母さんもびっくりしちゃうよね。うん!やめとこう。」 と明るく言ってくれた。

    その後はお互いの近況を話して、アキちゃんは甘いパフェを注文して食べて、私はスモールサイズのピザを注文した。

    数ヶ月前と同じように、楽しいガールズトークを話す時間を過ごせた。



    でも、



    その日以降、連絡は取れなくなり、私はアキちゃんに会うことはもう二度となかった。



    今、アキちゃんが何をしているのか気になるけれど、どうかアキちゃんのお母さんも元気になって、アキちゃんは幼稚園の先生になって、幸せに過ごしていてほしいと思う
    。

    私があの時、お札とお酒をあげなかったことが正しかったのかどうか、、、 あなただったら、どうしてますか?

    ◇18年後

    19歳の夏の日から18年を経ち、私は37歳になった。
    兄はたぶん40歳になった。

    兄は意外に27歳で結婚した。相手は兄とお似合いのちょっと変わった女の人だった。
    いや。 兄を超える変わった人だった。

    私はというと、大学を卒業したあと銀行に勤めた。
    2年前、35歳の時に結婚をした。結婚なんて一生することがないと思っていたが 人生何が起こるかわからない。 

    出会いは突然に訪れるものであると思った。

    結婚してから私は週に2,3日アクセサリーの販売のパートをしている。

    今では時間がある母は私とよくお茶をして、会えない時は電話をする。

    母は昔はあれだけ兄に関心が向いていたはずなのに、今は私との時間の方がとても多い。

    母「男の子なんて結婚したらお嫁さんのものなのよね。いいお嫁さんと結婚してくれた安心できたんだけどね、仕方ないわね」とよく言っている。

    お母さん、残念ながら、あなたの息子とちょうどバランスが取れる変な女が嫁として来ましたよ。 と、私はずっと心で思っていた。

    兄の嫁は、なぜかいつも刈り上げヘアでノーメイク。
    エレガントな母とは真逆というか、私達とは生活スタイルが違うタイプの人だった。
    結婚式では、親戚のおばさん達からは「1番、縁が無さそうな人が嫁に来たね」と、私は言われた。

    まぁ、兄達は、幸い東京を離れて住み出したので、よく会うこともないのが救いだった。

    そして、私と母との時間が増えたここ数年で、私はなんとなく 19歳の時に見たあの白い影の正体が何なのかを自分で答えを見つけた。

    それは、今までの10代20代、私と母との会話が足りなかったという事を明白にした。

    なんせ、私が結婚する前まで我が家は、程よい距離を保った仲が良いドライな家族だったのだから。

    39年前、男の子を産んで、体が弱かった息子を心配していた母。
    大学生になっても、ちょっと間が抜けたところがある兄をほっとけない母は ハタチを越えた兄にも干渉が強かった。

    でも、確かに兄には、危うい所もあったから母が悪いとは思わない。

    おそらく、



    あの日、私が見た白い影は、、、



    母だ。

    勝手に大阪に行ってしまった兄を心配した母の念なのではないかと、、、もしかしたら、生霊というのかもしれない。
    オカルト過ぎてこんな表現が良いのかわからないけれど、他に言い様がない。

    あまりにも息子への愛、関心が強いあまりに、熱が出て、頭から白い湯気が出るかのように、人の形になって家中、兄を探していたのだろう。


    きっとあの夏の日、母も心配で寝れなかったのかもしれない。

    あの日、兄が大阪に行っていなければ、兄はどうなっていたのだろう。

    家の中を走る白い影に体を通り抜けられて魂を持っていかれてしまっていただろうか?

    母は愛する息子を自分の念で殺してしまっていたのだろうか?

    それとも、そもそも大阪へ行っていなければ、心配することがないから、熱は出なかったのだろうか…

    人の形をした白い影、それはきっと初めは愛情からくるものなのだろう。 そして、思うようにならない強い思いは生霊となって人の形をした白い影なるのだろうと思った。

    そう、私はあの時、生霊を見たんだ!

     このことに気づいた時、妙に腑に落ちた。

    これを怖いと感じるかは人それぞれだと思うけれど。

    私はある意味羨ましいと思う。だって母は私にはそんな高熱が出るほどの愛を感じた事がないのだから…

    愛されすぎるのも問題ですね。

    ◇後悔

    私が二十四歳の時、鹿児島の祖母は亡くなってしまった。

    私はすごくショックだった。

    すごくショックなはずなのに、お葬式に鹿児島へは行かなかった。

    私以外の家族、親戚は鹿児島へ向かったのに。

    年をとって、背が曲がり小さくなったおばあちゃんが、台風が多い鹿児島の離島で、一人台風で揺れる家で雨風の怖さに耐えていたと思うと、、、死んだ後にこんなことを思うなんて、私は馬鹿だ。
    私は罪悪感に襲われた。悪い孫だった。

    子供の頃は親についていって、里帰りして夏を過ごすだけだったけれど、私は大学生になっても東京から出ずに、おばあちゃんに会いに行かなかった。

    アルバイトで稼いだお金で飛行機を予約し、おばあちゃんに会いに行けばよかったと後悔した。

    無駄に時間を過ごしてしまった大学生の時。時間はいくらでもあったはずなのに。

    おばあちゃんに会いに行ったお兄ちゃんは正しかったのだと思った。
    私はおばあちゃんに何もしてあげることができなかった。
    幼い頃、おばあちゃんと会話した記憶もほとんどない。 方言が強いから、話ができないと思っていたが、少し大人になった高校生、大学生になればわかる。
    方言がどうこうではなく、ただ一緒にいる時間を少しでも多くしてあげるべきだった。

    今、私はおばあちゃんと色々話したいのに。

    おばあちゃん、ごめんね。

    命は無限じゃない。もう会えない。


    あれ、そういえば、
    お兄ちゃんが会った仙人とは一体誰だったのだろう?
    もしおばあちゃんが生きていたら、その話をしてくれただろうか?

    今となってはもう、あの仙人のことを知る人は島にはいないかもしれない。

    ◇残る記憶

    昨年、兄と久しぶりに会った。
    だいたい1年に1度会うか、会わないかの関係。

    相変わらずヘラヘラした顔つきの兄と刈り上げの嫁。

    私は兄に聞いてみた

    私「お兄ちゃん、昔大阪に行って熱出た時の事覚えてる?鹿児島にも行って…」

    兄「あーー、うん、覚えてるよ。おばあちゃんから電話来てねぇ、俺鹿児島行ったよ、覚えてる。」

    私「私が白い影見た日にお兄ちゃんは高熱出て、おばあちゃんも何となくそれが分かってて電話して…すごい不思議だったよね。お兄ちゃん仙人の所にも行ったし、、、さち叔母ちゃんも覚えてるかな?」

    兄「絶対、覚えてるよ。だから日菜子と俺とさち叔母ちゃん、おばあちゃん4人の秘密だったよなぁ〜あんな事って、、、あるんだなー」

    兄の口調から、ただの不思議な思い出になっているんだと分かった。

    私には、思い出というより、目で見た記憶である。

    私は、既に白い影正体が何かは、自分の中で答えが出ているが、あえてそれは言わなかった。
    私が言っても、 誰も気分がいいものにはならないからだ。

    結局、おばあちゃんが亡くなった今は、あの日の体験したことは、大阪のさち叔母さんと私と兄の三人だけになってしまった。

    けれども、あんな不思議な体験を親族、家族で共有しているというのは、私は他では聞いた事がない。
    この話が嘘だと思われても、別に構わない。

    なぜなら、私の他に信じてくれる、、、いや、経験した人が兄とさち叔母ちゃんがいるから。 そしておばあちゃんも。
    きっと母も信じている。

    母は 兄と一緒に仙人の元に行ったことがある人の一人だからだ、、、

    そして、あの夏の日、兄が仙人からもらったお札とお清めのお酒は数年間は確かに 兄の部屋にあった。

    だが、ここ最近実家に行った時に兄の部屋に入ってみたが、御札だけが本棚にあった。

    お酒は無くなっていた。

    気になって兄に聞いたところ、


    嫁が『 水が腐っている』っと言って捨てたらしい。



    どうせ無くなるなら、


    どうせ捨てられるのなら、



    私が22歳の時アキちゃんにあげたらよかった。



    今頃、思っても

    遅いけど。


    家族テレパシー
    おわり。

    #創作大賞2026 #ホラー小説部門


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