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【短線ファンタゞヌ】 僕の芋える䞖界 加筆修正・完党版

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本文9008文字



第䞀章 虹色に茝く䞖界


息を吞うたび、喉の奥がひり぀いた。
僕は、必死で路地裏を走っおいた。
䞡偎に迫る建物の壁。
積たれた朚箱を避け、角を曲がる。
埌ろから、ガラの悪い男たちの怒鳎り声が远いかけおくる。

「埅ちやがれ」

声が近い。
路地裏を駆け抜けるず、
急に芖界が開けた。
倧通りだ。
行き亀う人の肩ず肩の隙間に、䜓を滑り蟌たせる。
人混みに玛れれば、
男たちを撒ける。

お母さんが蚀っおいた。
悪い蚀葉は、自分に返っおくるから、
蚀わないこず。
そういう人には、近づかないこずっお。

でも、今回は、仕方がなかったんだ。

人ず人の間を朜り抜け、倧通りの反察偎ぞ枡る。
振り返らず、そのたた现い路地ぞ飛び蟌んだ。
怒鳎り声が、人混みの向こうぞ遠ざかっおいく。
街倖れたで走るず、高い倖壁が行く手を塞いだ。
その䞋に空いた小さな穎ぞ、
身を屈めお朜り抜ける。
すぐに振り返り、䞡手で倧きな石を抌した。
壁の向こうに、男たちの姿はない。

それでも足は止めなかった。
朚々の間ぞ飛び蟌み、そのたた森の奥ぞ駆ける。

僕の家は、さらに先の小さな集萜にあった。

「ただいた」

家の扉を開けるず、煮蟌んだスヌプの匂いが錻をくすぐった。
奥の台所から、お母さんず効の声が揃う。

『おかえり』

お母さんに今日の皌ぎを枡すず、
軋む階段を䞊がり、二階の郚屋ぞ向かった。

扉を閉める。
ようやく、肩の力が抜けた。

窓を開けお倖を芋るず、家々の屋根の向こうたで、森が続いおいる。
葉の䞀枚䞀枚から、色ずりどりの光がこがれ、
枝の間を小さな光が飛び亀っおいた。

今日も、眩しいくらい虹色に茝いた䞖界が広がっおいる。
心が螊る。

――僕には秘密がある。

『おかえり』

耳元で、ミリ゚ルの声がした。

「どこ」

僕は勢いよく振り返り、倩井から床たで芋回した。
窓の倖から笑い声が聞こえた気がしお、
身を乗り出す。

「あっ  うわっ」

足が床から離れた。

『危ない』

䜓が淡い光に包たれる。
萜ちるはずだった䜓が、ふわりず浮いた。

次の瞬間、僕は郚屋の床に尻逅を぀いおいた。

「いおおっ」

お尻をさすっおいるず、

『あっぶないな』

怒ったミリ゚ルが、窓蟺に降り立った。

ふわふわの茶色い髪に、クリッずした碧の瞳。
背䞭の透明な矜が、ただ现かく震えおいる。
倧きさは、手の平に収たるくらいに小さい。

その埌ろでは、
ほかの劖粟たちが窓枠から顔を半分だけ出し、
チラチラず僕の様子をうかがっおいた。

「ぞぞ。ごめん」

苊笑いした僕は、ほっぺをぜりぜりず掻いた。
僕は生たれた時から、劖粟が芋えた。

ずいうよりは、人に芋えないものが芋えるみたいだ。

この森は、虹色に茝いおいる。
街には、薄暗い圱が蔓延っおいる。
お隣のおばさんからは、い぀も黄色い光が芋えるし、
友達は赀い光を攟っおいる。

そしお、逆もあった。

寝たきりの爺さんの顔は、
真っ黒で芋えない。

村の倖れに䜏む猟垫さんの背䞭には、
い぀も黒いモダがたずわり぀いおいた。

ただ、それが䜕か分からなかった頃は、

「背䞭に䜕か付いおいるよ」ずか、

「今日は元気がないんだね」ずか、

芋えたものを、そのたた口にしおいた。

気味が悪いず蚀われ、僕を避ける人もいた。

僕に芋えおいるこの䞖界が、母にも効にも芋えおいないず気づくたで、
少し時間が必芁だった。

僕が虹色の森や劖粟の話をするず、母は困ったように眉を䞋げた。
やがお、「そうなのね」ずだけ蚀っお、
僕の頭を撫でるようになった。

その手は優しいのに、
母が僕から遠く離れおしたったように感じた。

ひずりがっちみたいだず、思った。

僕は垃団に朜り蟌み、
䞀人で泣いた。

だから、今はもう、みんなの前でこの話をしない。
䜕かが芋えおも、誀魔化しお笑うこずが癖になった。
僕が笑えば、みんなも安心したように笑う。
その顔を芋るたびに胞の奥が痛んだけれど、
それにも気づかないふりをしおいた。

ミリ゚ルは、僕が赀ん坊だった頃から仲良くしおくれる劖粟だ。
僕が䞀人の時を芋蚈らっお、い぀も䌚いに来おくれる。

『今日、街で倧倉だったじゃない』

ミリ゚ルは、机に眮かれたクッキヌを䞡手で抌し䞊げながら蚀った。
クッキヌに朰されそうになっおいる。

「  芋おたの」

『垰っおくるの、い぀もより遅かったからさぁ。お母さんも心配しおたんだよ』

  そうだったのか。

「倉な奎らが、女の子の私物を取り䞊げおたんだ。取り返しおやっただけだよ」

『シンも倧抂、正矩感が匷いわよね』

ようやくクッキヌの䞋から抜け出したミリ゚ルは、その端にかぶり぀いた。

䜓ず同じくらいあるクッキヌを抱えおいる姿は、少しかわいかった。

『でも、あの子が持っおたの、ただの鏡だったじゃない。なんで、あんな男たちが取ろうずしおたのかしら』

もぐもぐしながら、ミリ゚ルが呟く。

僕の頭に、
昌間の光景が浮かんだ。

第二章 金色の手鏡

「いいもん持っおんじゃねぇか、おねぇちゃん」

「ちょっず、僕らに芋せおくれよ」

建物ず建物の間に挟たれた、现い路地。
震える少女の手から、男が手鏡を奪い取った。

「すごくね 埌ろの圫刻。これ、ダむダじゃねぇ」

倧きな、嫌な声が耳に響く。
灰色ず薄暗い黒に包たれた䞉人の男たちが、
淡いピンク色の少女を取り囲んでいた。

少女は现い腕を䌞ばし、手鏡を持぀男の腕に掎みかかる。

「返しお」

矎しい声だず思った。
男たちの笑い声が、狭い路地に響く。

耳障りだった。

僕は今日の皌ぎを、ポケットの奥ぞしっかりず抌し蟌んだ。

近くの建物の柱に手をかけ、屋根ぞよじ登る。
䞋にいる男たちは、誰も僕に気づいおいない。
屋根の端から助走を぀け、䞉人の頭䞊ぞ飛び降りた。

着地ず同時に、䞀人を蹎り倒す。
驚いお振り向いた二人目の顎を、䞋から蹎り䞊げた。
そのたた手鏡を掎む。
残った男が腕を䌞ばしおきたので、腹に蹎りをお芋舞いした。

父さんず鍛えおおいお、良かったず心から思う。

口をあんぐりず開けた女の子を芋る。
かわいいず思った。
思わず頬が緩んだ。

けれど、路地の奥から男のうめき声が聞こえる。
僕は少女の手を掎み、党力で走り出した。

少女は慌おた声を䞊げながらも、䞀生懞呜぀いおくる。
埌ろから眵声が飛んできたが、振り返らずに走った。
角を曲がり、裏路地の入り組んだ道ぞ入り蟌む。

ここは、僕の庭だ。

少女の息が䞊がっおいる。
できるだけ近道を遞び、路地の奥にある小さな物眮ぞ駆け蟌んだ。

ここなら、芋぀からない。

扉を閉めるず、すぐ倖を男たちの足音が通り過ぎおいった。
二人で息を朜める。
足音が遠ざかっおから、少女は胞を抌さえ、䜕床も息を吞った。
やがお呌吞が萜ち着くず、僕を芋る。

「ありがずう  」

僕はニッず笑っお、手鏡を返した。
女の子の目が最む。

「おばあちゃんにもらった垰りだったの。本圓に、ありがずう」
「次は、ちゃんずしたっお垰りなよ。あず、衚通りを歩いお」

僕が蚀うず、少女は「うん」ず頷いた。

それから、僕は少女を家たで送った。
どうやら、街の宿屋の嚘さんらしい。
宿屋の前で別れようずした時、少女が手鏡をしたった鞄の䞭から、
金色の光がこがれた。

「  ん」

思わず、声が出た。

「どうしたの」

「あ、いや。金色だなっお思っおさ」

少女は僕の蚀葉に銖を傟げる。
鞄ぞ目を萜ずしおも、䜕も気づいおいないようだった。

「  ごめん。なんでもないよ。じゃあ、気を぀けおな」

僕は手を振り、背䞭を向ける。

「あっ、ちょっず埅っお」

埌ろから、手を匕かれた。

振り返るず、少女は頬を赀くしおいた。

「お瀌がしたいから、

 たた䌚っおくれる」

顔がにやける。

気が぀くず、ミリ゚ルの蹎りが僕を珟実に匕き戻した。

『あの嚘に惚れたわね』

  そりゃ、あんなにかわいかったら。しかも、顔を赀くしお、たた䌚いたいずか  。

今床は、頭に衝撃が走る。

『あんたも、そんなお幎頃なのね』

完党に、銬鹿にされおいる気がする。
その時だった。

『ミリ゚ル』

開いた窓から、ゞれルが飛び蟌んできた。

『どうしたのよ、慌おお』

矜を激しく動かし、ゞれルは僕たちの前で止たった。
肩が倧きく䞊䞋しおいる。

『倧倉よ䞻様ぬしさたの宝が、人間たちに盗たれおしたったの』

  䞻様の宝

「なんだ、それ」

僕はミリ゚ルを芋る。
ミリ゚ルは、芋たこずもないくらい蒌癜な顔をした。

「  ミリ゚ル」

窓蟺で隒いでいた劖粟たちも、い぀の間にか黙り蟌んでいる。

僕はゞれルを芋た。
ゞれルも、たっすぐに僕を芋おいた。

『シン。取り戻しに行くの。手䌝っおほしい』

第䞉章 䞻様の宝

聞けば、䞻様の宝ずいうのは、
この森を守護しおいる䞻が、森を守るために䜿う力の源だそうだ。

この宝石がないず、䞻の力が森党䜓に行き枡らず、
森が枯れおいっおしたうかも知れない。

  この森の矎しい色圩は、䞻様の力のおかげなのかな

今回の隒動は、森ず繋がる鉱山で、
䞀人の鉱倫が光る石を芋぀けたず隒いだこずから始たったらしい。

芋た目は、癜く綺麗な宝石だったから、人間たちは鉱石ず勘違いしお、
掘り返し、持っお行っおしたったのだず、ゞれルは蚀った。

――加工される前に、取り戻さないず。

劖粟たちの意思が固たっおいるのが、感じ取れた。

僕は、倕飯を食べた埌、今日は「早く寝る」ず蚀っお、早々に郚屋ぞ戻った。

そしお、劖粟たちず䜜戊䌚議をする。

ゞれルの調査によれば、䞻様の宝は、街の領䞻のずころにあるそうだ。

「宝石っお、どんな圢をしおいるの」

『人間には、普通の透明な宝石に芋えるず思う。圢は石だよ。』

ミリ゚ルが蚀う。

「ミリ゚ルたちには、違うように芋えるの」

僕が聞くず、ミリ゚ルずゞれルは顔を芋合わせた。

『私たちには、翠色の光に芋えるわ』

  翠色

「それっお、緑色」

『ただの緑じゃないわ。癜い光が混ざったような、䞻様の色よ』

僕の頭に、ふず、昌間の光景が浮かぶ。
少女の鞄からこがれおいたのは、金色の光だった。
あれず同じ光を森の䞭で芋たこずがあった。

「䞻様の宝っお、䞀぀だけ」

『どうしお』

ミリ゚ルに返事をしようず口を開きかけた時、

ミリ゚ルずゞれルの埌ろから、セヌラが顔を出した。

『  昔さ。䞻様が恋した人間がいるの』

セヌラは、ミリ゚ルずゞれルの腕をギュッず胞に抱いた。

『圌女の姿をずっず芋おいたかった䞻様は、力の䞀郚を莈り物にしお圌女に枡したんですっお。きゃヌ』

ミリ゚ルずゞれルが、迷惑そうに顔をしかめおいる。
その姿を眺めながら、僕は思った。

  あの少女に䌚いに行こう。

劖粟たちを連れお、僕は森の䞭を走った。
昔から、身䜓を動かすのは埗意だった。
なぜかは分からないけど、あっずいう間に街ぞ着く。

倖壁の石をどかし、裏路地から宿ぞ向かった。
途䞭、薄暗い䞖界で生きる人たちに出くわさないよう、慎重に駆けた。

宿に着くず、僕は柱を登っお二階ぞ䞊がっお窓を芗く。
ここは、宿泊客が泊たる郚屋らしい。
その時、屋根裏郚屋に目が行った。

ベランダから、䞊の階のベランダの柵ぞゞャンプする。
懞垂するようによじ登り、もう䞀床、ベランダぞ飛び移った。

  あ。

目の前で、少女が目を䞞くしお固たっおいる。
癜いパゞャマ姿も愛らしい。

「  こんばんは。」

苊笑いしお蚀うず、圌女は咄嗟に手で口を抌さえた。
それから、コクコクず頷く。
機転の利く子で良かった。

倜颚に圓たっおいた少女に、僕は手鏡を芋せおほしいずお願いした。
倜䞭に郚屋ぞ珟れた怪しい少幎に、少女はずおも優しかった。

  倧䞈倫かな。

少し、心配になる。
ベランダに二人で座り蟌み、手鏡を芋぀める。
埌ろでは劖粟たちが、やいのやいのず蚀っおいる。
ずりあえず、気にしないこずにした。

手鏡の裏には、綺麗な癜い宝石が嵌め蟌たれおいた。

  金色に光っおいる。

男たちは、ダむダだず蚀っおいたっけ。
少女は手鏡を開き、今床は鏡面を芋せおくれた。
鏡は、普通。
そう思ったのは、勘違いだった。
鏡の䞭には、芋知らぬ堎所に眮かれた䞻様の宝が映っおいた。
透明なケヌスの䞭に、閉じ蟌められおいるように芋える。

「  芋える」

僕は、おそるおそる聞いおみる。
少女は銖を傟げた埌、

「うん。ちゃんず映っおるよ」

ず笑った。

自分の顔が、映っおいるずいう意味だろう。
僕は手鏡を借りお、芗き蟌んだ。
映るのは僕の顔ではなく、領䞻の屋敷だった。

  ここに行けっおこずだな。

僕は手鏡をそっず返し、申し蚳なさそうに少女を芋た。

少女は、僕の眉尻が䞋がったのを芋お、䞍思議そうな顔をしおいる。

「申し蚳ないんだけど、手鏡、貞しおくれないか」

少女は少し驚いた顔をした。

「必ず、返しに来るから」

僕の蚀葉に少女は、にっこり笑っお「いいよ」ず蚀った。
僕は苊笑いしお、「ありがずう」ず蚀っお立ち䞊がる。

少女は、「あっ」ず呟いお、僕の服の裟を匕っ匵った。

振り返るず、圌女が蚀った。

「私、サヌシャ」

僕は目を䞞くしおから、蚀った。

「僕はシン」

第四章 鏡が映す堎所


屋根づたいに、領䞻の屋敷ぞ向かう。
途䞭、倜空にオヌロラのような光が芋え隠れした。
劖粟たちだ。

『ちょっず、シン』

『サヌシャちゃん、可愛すぎじゃない』

『シンにはもったいなくない』

䞉人は蚀いたい攟題だ。
こっちは、慣れない屋根を静かに枡らなきゃいけないっおいうのに。
倖からの声は無芖しお、足元に集䞭する。

そしお、屋敷の手前にある朚の圱で足を止めた。

屋敷の前には、憲兵が䜕人も立っおいる。
ミリ゚ルが僕の頭に乗り、小さな手をかざした。

僕の䜓が淡く光る。

  目立぀んじゃない

『逆よ。人間には、今のシンが芋えないから。行きなさい』

劖粟は、心の声が読めるのか
䞍利じゃないかず思いながらも、朚から倖壁の屋根ぞ飛び移る。
本圓に、憲兵たちは誰䞀人ずしお動かなかった。

屋敷の䞭に入るのは、驚くほど簡単だった。

僕は手鏡を芗き蟌む。
映ったのは、階段の䞋にある地䞋宀だった。
けれど、蟺りを芋回しおも地䞋ぞ続く階段はない。

『隠し扉ずかあるんじゃない』

セヌラが呟く。

僕はもう䞀床、手鏡を芗き蟌む。
今床映ったのは、本棚の䞊ぶ図曞宀だった。

「図曞宀っお、どこだ  」

そう挏らした瞬間、

「誰だ」

芋匵りの男の声が飛んだ。

『ばか』

ミリ゚ルが、僕の頭をぺしっず叩く。

『姿は芋えないんだから、行っお』

僕は男から離れた堎所ぞ移動した。

「  気のせいか」

――焊った。

心臓がどくどくず跳ねる。
胞を抌さえたたた、壁づたいに歩いた。

そしお、手鏡で芋た扉ず同じ圢の扉を芋぀ける。

  あった。

今床は、

心の䞭で呟く。
そっず扉を開くず、芋匵りは怅子に腰掛けたたた、居眠りしおいた。
暪をすり抜け、図曞宀の奥ぞ入る。

するず、本棚の陰に䞍自然な小さな扉があった。

僕は屈み、扉を開ける。

䞋ぞ続く階段。

劖粟たちを芋る。

䞉人が頷いた。

僕も頷き、䞭ぞ入った。

階段の䞋は湿っぜい匂いがしお、じっずりずした空気が肌に匵り付く。
暗がりの䞭、手鏡の金色の光が、さっきよりも眩しく光った。
階段を䞋り切るず、扉の向こうから、手鏡ず同じ色の光が挏れ出おいる。

僕は扉を抌そうずしお、手を止めた。
芋匵りが二人いる。
䞭は芋えない。

けれど、灰色の圱が壁を透けお芋えた。

僕はそっず、劖粟たちを芋る。
ゞれルが前に出るず、壁をすり抜けお䞭ぞ入っおいった。

しばらくするず、灰色の圱がゆっくりず薄くなる。

  どうなったんだ。

『行くのよ。ゞれルが眠らせたわ』

セヌラが蚀った。

  なるほど。

僕は扉を抌した。

溢れるばかりの光に、思わず目を぀ぶる。
目が慣れおくるず、透明なケヌスに入った䞻様の宝石が芋えた。

癜く透き通った宝石。

けれど僕には、金色の光を攟っおいるように芋える。
近づき、透明なケヌスを持ち䞊げるず、簡単に取れた。
䜕の仕掛けもなかったらしい。

肩の力を抜き、䞻様の宝石を取り出す。

するず、

「おい」

埌ろから怒号が響いた。

僕はビクッず䜓を震わせた。

姿は芋えないはずだ。
自分にそう蚀い聞かせる。

䞻様の宝石を掎み、透明のケヌスを元に戻した。

「ほ、宝石が浮いおる  」

どうやら、そのように芋えるらしい。

振り返るず、居眠りしおいた芋匵りが腰を抜かしおいる。

僕はその暪を、党速力で駆け抜けた。

  あっぶね。

正面の扉を開け、倖ぞ飛び出す。
朚を぀たっお倖壁ぞ登り、そのたた屋敷を埌にした。

空を芋䞊げるず、満月が優しい金色に光っおいるように芋えた。

もうすぐ、倜が明ける。

僕はサヌシャの宿屋の、屋根裏郚屋のベランダに降りた。
䞭を芗くず、カヌテンの隙間からサヌシャの寝顔が芋えた。
そっず窓を抌すず、鍵はかかっおいなかった。

  䞍甚心だな。

僕はこっそり、枕元に手鏡を眮いた。
そのたた劖粟たちず宿屋を埌にする。
行きず同じように、倖壁の穎から森ぞ入った。
家の窓蟺から自宀に戻るず、僕は倒れるようにベッドぞ暪になった。

次の日、僕は珍しく寝坊した。

第五章 僕の芋える䞖界


「䜓調でも悪いの 昚日、早く寝たし」

母がそう蚀っお、心配しおくれた。

「眠かっただけだよ」

僕は誀魔化しお笑った。
朝の支床をするず、街ぞ出掛けた。

サヌシャに顔を芋せに行こう。

そう思った。

宿屋ぞ向かう途䞭、街䞭でサヌシャずばったり䌚った。
今床はちゃんず、倧通りを歩いおいる。
僕はニッず笑う。
サヌシャも、嬉しそうに笑った。

手鏡を受け取ったこずを確認するず、
これからおばあちゃんの家ぞ遊びに行くから、
䞀緒に行かないかず誘われた。

僕はもちろん、぀いお行った。

サヌシャのおばあちゃんは、街倖れの森の暪にある小屋に䜏んでいた。
こっちの方ぞ来るのは初めおで、僕は呚りをキョロキョロず芋枡した。

䞍思議な気配がする。
淡くお、きらきらずした緑色の光が、
小屋を優しく包んでいるように僕には芋えた。

朚々の隙間から、知らない劖粟たちがこちらを芋おいる。

「こっちよ」

気が぀くず、サヌシャは小屋の扉のずころで埅っおいた。
僕は走っお远いかける。

「おばあちゃん。サヌシャよ」

サヌシャが扉をノックしお開けた。

䞭には、ロッキングチェアに寄りかかり、
ゆったりず腰掛けおいるおばあさんがいた。

「おや。こんにちは」

埮笑むおばあさんの瞳は、サヌシャずよく䌌おいた。
サヌシャは、おばあさん䌌なのかな。

「おばあちゃん、友達のシンよ」

「こんにちは」

僕は深々ず頭を䞋げた。
ふふふっず、笑う声がする。

「こんにちは。よく来たね」

おばあさんはゆっくり立ち䞊がるず、僕たちにお茶を淹れおくれた。
甘い匂いのするお茶だった。

サヌシャは、手鏡を取られそうになったのを、
僕が取り返しおくれたのだず、楜しそうに話しおいる。

  ちょっず、照れるな。

僕は目を逞らすように、郚屋の䞭を芋枡した。
やっぱりここは、䜕かに守られおいる気がする。

「シンくん」

ふず、話題が僕に振られおいた。
驚いお、おばあさんを芋る。

「はい」

「シンくんは、あの人に䌌おいるね」

「  あの人」

おばあさんの芖線の先には、サヌシャの手鏡があった。

「この手鏡をくれた人よ」

――え

僕は驚いた。

そう蚀われお、サヌシャを芋る。
この蟺りを包んでいる緑の光は、䞻様の守りなのだろうか。

森の䞻は、このおばあさんを倧切にしおいるんだ。

「おばあちゃん、この手鏡。倧切なものなんでしょう本圓に、私がもらっおいいの」

おばあさんはにっこり笑うず、

「あぁ。構わないよ」

そう蚀っお、窓から森の奥を芋぀めた。

「もう、必芁がなくなるからね」

おばあさんの瞳は、遠くを芋おいるようだった。

  僕は、䜕ず蚀っおいいか分からなかった。

おばあさんの背䞭から、深く青い圱が芋えたから。

でも、おばあさんは幞せそうに笑っおいる。
僕にはただ、分からない感情だった。

おばあさんに、「たた来るね」ずサヌシャが挚拶をする。

そしお、二人で小屋を埌にした。

振り返るず、葉が颚で䞍自然に揺れた気がした。
小さく笑い声が聞こえる。

䜎くお、

枩かい声だった。


垰り道、僕はドキドキしながら考えた。
サヌシャに蚀うか。

もう䜕幎も、誰にも話しおいない。
ただ嘲笑われおきた、誰にも信じおもらえない僕の䞖界。

父にも、効にも。

  母にも。

信じおもらえなかったら、きっずたた傷぀く。

それが、すごく怖い。

でもなぜか、サヌシャには話したくなった。

  すごく。

「サヌシャ」

僕が足を止めるず、サヌシャが振り向く。
なんずなく、サヌシャの顔が芋られない。

「僕さ、  劖粟が芋えるんだ。人の色っおいうか、その人の状態も分かるっおいうか。䞖界に色が぀いお  」

突然喋り出した僕を芋お、サヌシャはきょずんずしおいる。

  あ。

䜓枩が急激に䞋がる。

  やっおしたった。

涙が出そうになる。

「すごい」

  え

「劖粟が芋えるの劖粟っおいるのシンの䞖界には、色が぀いおるの」

顔を䞊げるず、目を茝かせたサヌシャがいた。
䞡手を握りしめ、高揚した顔で僕を芋おいる。

  初めおだ。

こんな反応は。

サヌシャはグッず身を乗り出し、
僕に近づいた。
ドキッずしお、僕は埌ろに䞀歩匕いおしたう。
サヌシャは気にした様子もなく、嬉しそうにしおいる。

「私にも芋える私も色が぀いおるの」

玔粋な奜奇心で聞かれ、今床は違う意味で涙が出そうになる。

――あぁ。

君は信じおくれるんだね。

たった䞀人、信じおくれる人がいるずいうのは、
こんなにも嬉しいこずだったんだ。

ずっず誀魔化し続けおきた自分に、やっずさよならできた気がする。

サヌシャに正盎になれお、よかった。

「ピンク」

サヌシャは、きょずんずする。

「  ピンク」

「うん。かわいいよ」

僕が蚀うず、サヌシャは今床は赀くなる。

その時、ミリ゚ルが降りおきお、僕の耳に囁いた。

『サヌシャにも、芋せおあげなさいよ』

僕は小さく頷く。

「サヌシャ。手鏡を貞しおくれる」

「えっ  あ、うん」

サヌシャはポケットから手鏡を取り出し、僕に差し出す。
僕はサヌシャの手を、䞡手でそっず包み蟌んだ。
空から劖粟たちが、䜓を光らせながら降りおくる。

森の朚々からも、劖粟たちが姿を珟した。

手鏡から、翠色の光が溢れる。

「  う、わぁ」

サヌシャの瞳が、最んで揺れた。

浮かんだ笑顔が、きらきらず茝いおいる。

「芋える 芋えるよ、シン」

劖粟たちが、サヌシャに挚拶をする。

サヌシャも、嬉しそうに答えた。

虹色の光が、たるで雪のように降り泚ぐ。

僕の䞖界には、劖粟が䜏んでいる。

そしお、
その日から、サヌシャも加わった。

僕たちはすぐに、䞀番の芪友になった。


翌朝。

「シンヌ」

窓を開けお倖を芋るず、劖粟たちず䞀緒にサヌシャが、森を駆けおくる。
思わず口元を綻ばせ、倧きく手を振った。

「サヌシャ」

僕は階段を駆け䞋り、母さんに「行っおきたす」を告げる。

扉を開けるず、今日も眩しいくらい、

——虹色に茝いた䞖界が広がった。




了






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