【ショート】 帰らない魔女を、森で待つ
―― short story ――
「本当に行くのか」
「えぇ」
魔女が壁をコンコンと叩いた。
すると扉が現れ、開く。
扉の向こうから新緑の香りが流れ込む。
魔女が振り返り、俺を見た。
「本当に残るの?」
首を傾げる姿は少女のようだった。
「あぁ」
「そ、じゃね」
扉の向こうへ魔女の姿が消える。
それきり、魔女は戻ってこなかった。
「ほれ、めしだ」
俺の声に、コロボックルたちが次々に顔を出す。
「パン!」
「パン」
嬉しそうな声が、森に響き渡る。
森の広場に置いた木製の大きなテーブルに、
焼きたてのパンを山盛りにのせたお盆を置く。
すると、パンの香りに誘われるように、
小さな手がパンを次々に取っていく。
「おいしい」
「おいしい」
椅子を引いて腰掛け、コロボックルたちが食べる姿を眺めた。
コロボックルたちは食事を終えると、肩から下げた革袋の水を飲む。
一息つくと、せっせと働き始めた。
全員がそれぞれの持ち場へ散ると、空を見上げる。
まだ、朝なのに一つだけ星が光っていた。
魔女の仕事は、最後の弟子だった俺が引き継いだ。
コロボックルたちと守る森。
魔女は自由になれたのだろうか。
小屋に戻ると、水鏡が光った。
魔女のことを考えていたせいか、水鏡に人間になった魔女が映る。
泣いている。
……失恋したようだ。
不本意にも眉根が寄った。
ふと、彼女の言葉を思い出す。
『これでいいの』
いつか、壁に扉を開いて戻ってきたら、
彼女のためにパンを焼いてやろう。
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