【ショート】 死神は毎朝、パンを買う
―― short story ――
……今日もだ。
朝七時。開店と同時に、その人はやってくる。
ガラス戸が開く音に、並べていたパンから顔を上げた。
「いらっしゃいませ」
私が声をかけても、反応はない。
少しだけ、がっかりする。
無駄にイケメンだからだ。
焼きたての塩パンをトレーに並べていると、男性はすでにレジの前に立っていた。
慌てて戻る。
「お待たせいたしました」
袋に詰めるのは、いつものクロワッサン。
「ありがとうございました」
お礼を告げると、入れ替わるようにお婆さんが入ってきた。
男性は足を止め、お婆さんと言葉を交わす。
その間に、私はいつものあんぱんを袋に入れた。
二人が話すのは、ほんの少し。
それでも、男性は毎朝、お婆さんが来るまで店の前にいた。
私が出勤する日は、必ず来た。
休みの日にも来ているらしい。
――毎日。
男性が通い始めて、二週間が過ぎた朝。
彼は、いつものクロワッサンと一緒に、あんぱんをトレーへ載せた。
「あんぱんも、お好きなんですね」
初めて自分から話しかけた。
男性は答えず、二つのパンを受け取って店を出ていく。
その背中を見送りながら、入口へ目をやった。
その日、男性はお婆さんを待たなかった。
お婆さんも、来なかった。
それきり、二人とも店には来ていない。
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