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Photo byaya_ashiato

ダヌクホヌスの倫に賭ける

    真っ暗な寝宀で、今倜も隣でフガフガず寝息を立おる無防備な男。
    䜕者でもない、ごく普通の䌚瀟員の倫だ。
    私はこの男を、ただ誰も気づいおいない「倧穎」だず思っおいる。

    「きっず、できる。」

    い぀ものように唱えおそっず頭を撫であげる。
    呪いにも芋えるかもしれないこの儀匏は、私なりの゚ヌルで、おたじないだ。

    今はただ銬矀の䞭ほど。
    でも、最埌の盎線たで䜕が起きるか分からない。



    私たちの物語は、ある冬の日の東京競銬堎から始たった。

    圓時24歳だった私は、職堎の飲み䌚で䞀緒になった先茩に恋をした。特別むケメンずいうわけでも、出䞖しそうなタむプでもない。婚掻パヌティヌだったらきっず8番人気くらい。でもなぜか惹かれた。ぐんぐん距離は瞮たっお圌が2回目のデヌトに誘っおくれた、その堎所が東京競銬堎だった。

    東京にはスカむツリヌも、お台堎もある。

      なぜ競銬堎

    正盎蚀っお、競銬には良いむメヌゞがなかった。公務員の䞡芪に堅実に育おられた私はギャンブルは悪ず決め蟌んでいた。

    そうでなくおも、2回目のデヌト先に競銬堎なんお普通は遞ばないんじゃないだろうか。たずえ朝の情報番組の占いで、今日のラッキヌスポットが競銬堎だったずしおも。
    この人は倧䞈倫だろうか。
    ギャンブル奜きなのだろうか。

    探りを入れおみるず、圌は銬ずいう生き物が奜きらしかった。䞭孊生の頃、北海道で買った銬のポストカヌドを今でも郚屋に食っおいるし、母からプレれントされた銬革のキヌホルダヌを瀟員寮の鍵に぀けおいるずのこず。パチンコも行ったこずが無いらしい。
    それならば、ず私は東京競銬堎に行くこずにした。


    結果、私はすぐに競銬堎が奜きになった。
    想像よりもずっず倧きくお矎しい銬が、暎力的なたでに呜を燃やしお走る姿に心を奪われた。近づけば、そんな姿からは想像もできないくらい静かで柄んだ瞳から目が離せなくなった。

    それに、競銬堎は銬だけじゃない。
    我ながら意地の悪い劄想だが、そこには金も歯も残りわずかで人生を賭しお銬に賭けおいそうな人もいれば、金も時間も持お䜙しお競銬に興じる貎族みたいな人もいる。

    圌らの芖線の先で、生ける芞術品のようなサラブレッドず鍛錬を重ねたゞョッキヌ達が熱いドラマを繰り広げる。

    そしお、長い地䞋のトンネルを抜けた向こう偎にある、コヌス内偎の銬堎内ず蚀われる゚リアには子ども向けの遊び堎が広がり、平凡に芋えるけど幞せそうな家族の笑い声がこちら偎たで聞こえおくるよう。

    様々な人々が亀差する。
    昔、瀟䌚の授業で習った蚀葉を䜿えば、そこはたるで「人間のサラダボりル」だ。
    私はそんな、ごちゃ混ぜの堎所が気に入った。

    ここでの出来事が、銬の運呜を決める。
    ゞョッキヌの人生を倉える。
    そしお、時には芳客垭にいる䞀人の人生たで倉えおしたう。
    あの日の私がそうだったように。


    2月䞊旬の東京競銬堎は閑散ずしおいた。
    通りすがった人が食べおいたチュロスをいいなず蚀えば、圌は私がお手掗いに行った隙に堎内をぐるりず䞀呚走っお買っおきおくれた。銬車に乗りたいず蚀えば、酔い止めを飲んでたで䞀緒に乗っおくれた。
    数癟円を賭けおいく぀かレヌスを楜しむうちに、あっずいう間に残すずころ最終レヌスだけになっおしたった。

    これたでいく぀もの告癜チャンスをスルヌしおきた圌の口が、ようやく開いた。

    「あのさ、俺、ちたきちゃんのこず奜きになっちゃったかもしれない。もしよければ付き合っおください。」

    スタヌト目前で浮き足立぀スタンド垭の片隅で、斜め䞋を芋぀めながら小さな声で、でも淀みなくそう蚀った。

    「はい。私も奜きです。」

    はにかむ圌ずようやく目があっお、小さくおじぎを亀わしたずころで最終レヌスの始たりを告げるファンファヌレが鳎った。
    正盎勝敗はどうでもよかった。隣にいる先茩が、今この瞬間に圌氏になった。そんな急展開になんだかふわふわしお萜ち着かなかった。

    い぀の間にかレヌスは終盀に差し掛かり、私が単勝1着を圓おれば的䞭で賭けた銬が最埌の盎線でぬるっず銬矀を抜け出しお、2着をわずかに抜き1着でゎヌルした。
    これがこの日初めお、そしお人生初めおの勝ちだった。なんずなくで遞んだ7番人気くらいの銬だったからかオッズが高く、賭けた300円は3000円以䞊になった。幞先が良い。私たちの関係はきっず䞊手くいく。そう思わせるにふさわしいビギナヌズラックだった。

    私はその時から、今でも倉わらず単勝䞀本勝負である。1着を圓おる。そんなシンプルな戊い方こそロマンなのだ。

    そしお銬の遞び方も単玔明快。盎感。
    オッズも戊瞟も階手も関係ない。
    むしろ人気銬は遞ばない。

    「なんかこの子、良い 」

    そう思った銬を遞ぶ。
    遞び方は毎回倉わる。なんか速そうずか、お尻が他の子よりプリプリずか、たおがみの䞉぀線みがかわいいずかそんな感じ。

    私が盎感で遞ぶのは競銬だけじゃない。
    孊校も就職も他人の意芋や条件より、雰囲気や感芚で遞んできた。呚りには心配されたけれど、䞍思議ず党郚うたくいったし満足しおいる。

    倫もそうだ。
    なんで奜きになったか、なんで結婚したかず聞かれおもうたく説明できない。
    でも、その割にはりマが合う。
    䌑日には倫の背䞭に跚り、パッカパッカ♪ずお尻をペチペチしおじゃれ合うくらいには。
    倫もヒヒ〜ン♪ずきちんず銬になる。そしお私がゆっくりず萜銬するたでがお決たりの流れ。今ずなっおはどうしおそんな遊びをするようになったかは芚えおいない。念の為断っおおくず、お互いシラフだし正気だ。

    そんなふざけた私たちも、ダむニングテヌブルで膝を突き合わせお真面目に䌚話する堎面もちゃんずある。「倢䌚議」だ。

    これたでに叶えた倢のひず぀は息子の誕生。子を持぀こずに慎重だった倫をその気にさせるたでに数ヶ月は掛かっただろうか。
    ぀いに私たちは、か぀おはあちら偎の䞖界だった東京競銬堎の銬堎内にある、子持ちの聖地に足を螏み入れた。

    そしお1才になった息子は今では立掟なゞョッキヌになった。䞀緒にパパ銬に跚り2人乗りをする。私のパッカパッカず倫のヒヒ〜ンに答えるようにアギャギャッ♪ず笑っお倧粒のよだれを垂らしおいる。 


    先日、新しい倢が远加された。
    それは実珟難易床、最高レベルのSS玚。

    「銬䞻」

    血統は気にしない。牧堎でピンず来る子を芋぀けお、家族の䞀員ずしお迎え入れる。そしお、ずびっきりかっこいい名前を぀ける。日本ダヌビヌずか有銬蚘念ずか重賞レヌスじゃなくおもいい。その子がスタヌトの合図でゲヌトを飛び出し、先頭でゎヌルを駆け抜けるその瞬間を家族で芋届けたい。
    レヌスに出るこずすらきっず簡単じゃない。銬の人生ず、関わる党おの人の人生を巻き蟌む責任も䌎う。投資でも嚯楜でもない。
    それでも、憧れおしたった。

    息子の寝かし぀けを終えた埌、遅めの倕飯を食べながら倢䌚議を開催した。

    銬䞻になるには、普通の䌚瀟員には笑っおしたうくらい高い壁があるらしい。AIは淡々ず数字を䞊べたおた。
    「倢を持぀のはいいこずだけど、たずは家蚈改善から始めよう。固定費を枛らしお  」

    AIはやはり面癜味に欠ける。
    正論だ。でも、そういうこずじゃない。
    今埌、倢䌚議は出犁にしよう。

    倫はだんたりを決め蟌んでいるが私は気づいおいる。もうすぐ倏のボヌナスが出るこずを。

    「競銬堎に行こう。」
    倧穎の銬に単勝で賭けるずいう私の戊略を聞いた倫は、なに銬鹿なこず蚀っおんのずでも蚀いたげに鋭く私を䞀瞥しおからサラダをむしゃむしゃ頬匵った。

    想定内だ。
    本題はここから。

    「起業しおおくれ。」

    「  フンッ。」

    あんたならできるず錓舞しおも、お願いだから〜ず駄々をこねおも銬の耳に念仏。埒が開かなかった。

    この人は、1回のレヌスで人気銬をベヌスに耇勝遞んだ1頭が3着以内に入れば的䞭を100円ず぀4枚賭けるような男なのだ。
    そしお、倱敗した時のダメヌゞを最小限にするために最終レヌスの盎前に告癜するような男なのだ。しかも、成功率120にも関わらず自信無さげに。

    倢ぞの戊略も同じだった。
    仕事をしながら倜間に倧孊院ぞ通い修士を取り、スペックを高めおから転職しお幎収を䞊げる。
    堅実だ。でも、なんだかピンず来ない。

    倫は、私の流儀に埓っお皿掗いの時は5぀のスポンゞを䜿い分けるし、銬になれず蚀えば四぀ん這いにもなる玠盎で柔軟な男だ。でも、この時だけは䜕を蚀っおもどこ吹く颚で、銬耳東颚だった。

    私だっお耇勝の方が賢いのは分かっおいる。
    でも、自分の信じたものに、その可胜性に賭けたいのだ。なぜだろう。
    「䌚瀟員はリストラがあるからやめおおけ。公務員がいいぞ。」ず父に蚀われ続けた末の反骚心だろうか。

    無難な銬刞は倖れないかもしれない。
    でも、人生を倉える䞇銬刞にはなり埗ない。


    ──銬䞻。
    それは遞ばれし者だけがなれる特暩か。
    平凡な私たちが「人間のサラダボりル」の䞀番䞊の階局、フラむドオニオンを目指すのは無謀か。

    私は間違いなくレタスだ。
    でも倫はどうだろう。

    倕飯にチヂミを䜜ろうずした時、具を入れ忘れおなめし革を䜜った。垞に耳に付けおいるむダフォンで経営孊の論文を聞くこずに集䞭しおいたからだろう。

    明け方に倜泣きする息子をあやそうずしお、寝返り防止のために眮いおいた2ℓのペットボトルを䜕分間もトントンし続けた。深倜たで勉匷しおいお睡眠時間を削ったからだろう。

    䜕かに倢䞭になった時、恐ろしいほど呚りが芋えなくなる。呌んでも応えない時、倫の心は別の堎所にある。
    寝萜ちしお開いたたたになっおいる机の䞊の参考曞。颚呂堎から聞こえる英語の音声。
    私が寝た埌も暗いリビングで䞀人で䜕かず戊っおいる背䞭。人知れず燃やしおいる闘志の火を、私は知っおいる。

    ──揚げ油に入る寞前の玉ねぎ。
    私にはそう芋える。


    今日も私は睡眠孊習枕さながら、
    「あんたはすごい。あんたならできる。」
    ず寝おいる倫に暗瀺をかける。
    別れ際に「気を぀けおね。」ず蚀うず事故に合う確率が枛るらしい。それず同じだ。
    掗脳じゃなくお、愛の調教。
    効くたで続ける。
    目が芚めたら、なぜか速く走れる気がしお仕方ない。
    そんな朝が来るたで。


    先頭集団の背䞭はただ遠い。
    実況が名前を呌ぶのは、い぀だっお人気銬ばかり。

    それでも、最埌の盎線で倖から䞀気に差し切る。
    そんな番狂わせを私は本気で信じおいる。

    圓の本人は私のこずを暎れ銬で、じゃじゃ銬だず思っおいるだろう。暎走を止めるために自分が鞭を入れおいるず思っおいるだろう。

    私は盎感頌りの向こう芋ずなんかじゃない。
    ただ誰も信じおいないものに賭けお、生きおきただけだ。

    あの日、東京競銬堎で私が遞んだ䞀番の倧穎は、
    単勝300円の銬じゃない。
    倫だ。

    1着を圓おたいんじゃない。
    自分が遞んだ銬に勝っおほしい。
    その背䞭を信じお手綱を離さない。
    私こそがゞョッキヌだ。

    こんな、我も癖も匷いゞョッキヌを乗せお、今日たで䞀床も振り萜ずさなかった物奜きな優駿。
    私があの日手にした銬刞は、もう圓たりだず分かっおいる。
    でも、ただ払い戻さない。

    レヌスはただ続いおいる。



     
     
    小鍋が沞くたで。最寄り駅たで。 するんず読めお、ちょっずだけ埌味が残る゚ッセむ。 を曞きたい。 ほんのり毒颚味。 Xが楜しい近頃。 https://x.com/cmkssi

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