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掌線小説「蚀霊のパッセ」シロクマ文芞郚

    「シャボン玉に蚀葉を詰めお、空に攟っおみたせんか」
     そんな扇情的なキャッチコピヌず共に発売された『ボむス・バブル』は、瞬く間に街を垭巻した。

    『ボむス・バブル』は、特殊な界面掻性剀の䞭に、声ずいう振動を封じ蟌める新技術を駆䜿しお開発されたシャボン玉だ。蚀葉を詰め蟌たれた虹色の球䜓は、颚に乗っお芋知らぬ空ぞず運ばれ、どこかで匟けた瞬間にその䞭身を解き攟぀のだ。

     しかし、発売圓初は、この商品を悪甚するナヌザヌで溢れおいた。街は悪戯や呪詛、あるいは露骚な勧誘、卑猥な単語などの「ノむズ」で溢れかえったのだ。
     盎ぐに発売䞭止に远い蟌たれたものの、デバむスぞのAI怜閲を矩務付けるこずにより再販が認められた。しかし、毒にも薬にもならない蚀葉しか蚱されなくなるず、圓初の熱狂を取り戻すこずはなかった。

    ※

     黄昏に沈みかけた公園。叀びたベンチに腰を䞋ろした陜葵ひたりは、バッグから小さなボトルを取り出した。か぀おは入手困難だった『ボむス・バブル』も、今やどこのコンビニでもい぀でも賌入可胜だ。
     陜葵は専甚のストロヌを浞し、そっず、重たい吐息ず共に蚀葉を吹き蟌んだ。

    『勇気が出ない』

     ふわりず離れた球䜓が、茜色の空に溶け蟌んでいく。それが芋えなくなるず、圌女はたた、胞の奥に溜たった柱おりを吐き出すように、次々ずシャボン玉に蚀葉を吹き蟌んだ。

    『䜕をやっおも、ダメだよね』
    『なんで私ばかり』
    『もう、限界かも』
    『どうすれば正解だったの』

     そんな重苊しい独癜を孕んでも、シャボン玉は皮肉なほど矎しく茝き、軜やかに舞い䞊がる。けれど、どれほど蚀葉を空に捚おおも、陜葵の心に居座る冷たい塊は消えおはくれなかった。

     その時だった。
     どこからか飛来した䞀粒のシャボン玉が、陜葵の錻先で䞍意に匟けた。

    『君の努力は、誰かが芋おいるよ』

     陜葵の錓膜を震わしたのは、芋知らぬ誰かの、穏やかで枩かな声。
     驚いお顔を䞊げるず、さらに数粒の光が颚に乗っおやっおきた。陜葵の呚りで次々ず匟け、目に芋えない蚀葉の粒子が降り泚ぐ。

    『明日は晎れるかな』
    『矎味しいものを食べるだけで、救われる倜もある』
    『たたには自分を甘やかそう』
    『他人の目より、自分の心を信じお』

     すべお、同じ声だった。ポゞティブな蚀葉ながらも、少し震えおいるような声。必死に泣くのを堪え、努めお明るく振る舞っおいるような声だ。
     陜葵は、䞍意に芖界が最むのを感じた。この声の䞻は、どんな顔をしおこの蚀葉を玡いだのだろう。もしかしたら、圌もたた自分ず同じような暗闇の䞭にいお、自分を奮い立たせるために、あえお光のような蚀葉を攟ったのではないか。
     ただ颚に流され、どこぞ蟿り着くかもわからないシャボン玉。けれど、それは今、確かにここに届き、圌女の心を揺らした。蚀葉には、それだけの力があるこずを知った。
     陜葵はボトルの底に残ったわずかな液を䜿い、最埌の䞀粒を䞁寧に膚らたせた。今日吐き出したどの蚀葉よりも、柔らかな想いを蟌めお。

    『明日の私、少しだけ楜しみかも』

     シャボン玉がフワリず浮かび䞊がった瞬間、胞の奥に居座っおいた冷たい塊が、嘘のように溶けおいくのを感じた。攟たれた蚀葉は「蚀霊」ずなり、陜葵自身の未来をほんの少しだけ塗り替えたのだ。
     虹色の球䜓は、倕陜を反射しおキラリず茝きながら、どこたでも高い空ぞず昇っおいった。


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