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『私は、ここに付箋を貼りました。』 最終章:付箋が集まった

    図書室に、一冊の本を置いた。
    「いいなと思ったページに付箋を貼ってください。」
    それだけ書いた。

    本の感想を書いてほしかったわけではない。
    ましてや、同じ意見を確認したかったわけでもない。
    ただ、それぞれが立ち止まった場所を知りたかった。

    最初の一枚が貼られた。
    「この言葉、好き。」
    次の日には、もう一枚増えていた。
    「ここ、少し分からない。」
    「私も前から思ってた。」
    「この場面、笑った。」
    「ここは私と違う。」
    付箋は、少しずつ増えていく。
    私は、その本を何度もめくる。
    「あぁ、そこなんや。」
    「そんなふうに読めるのか。」
    「その一文は気付かなかったな。」
    私が読んでいた本と、みんなが読んでいた本は、同じ本なのに少しずつ違っていた。

    私は、一枚ずつ返事を書いた。
    「それも考えてみるよ。」
    「それ、いいね。」
    「ありがとう。」
    「笑える。」
    「それはどうなの笑。」
    返事を書きながら、私は気づく。
    私が集めたかったのは、感想じゃなかった。
    同じページでもなかった。
    誰かが立ち止まった、その跡だった。
    いつの間にか、本は付箋でいっぱいになっていた。元から印刷されていた文字と同じくらい、色とりどりの言葉が重なっている。
    私は、その付箋をパチパチとそっと弾いて、本棚に戻す。
    今日もまた、一冊、途中の本が増えた。

    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     

    Sori

     
     
    ナラティブワーカー|日本語教師 言語化される前の思考と、その実践。 社会との違和感をナラティブな視点で、言葉の手前から考える。 言葉になるまでの過程に、伴走しています。

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