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#8 サインなんて、するわけない

    #8 サインなんて、するわけない

    あの場で、

    流れは変わったはずだった。

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    でも、

    現実は違った。

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    夫は、

    その後一言も喋らなかった。

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    代わりに話し始めたのは、

    義父だった。

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    養育費は払わない。

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    ローンで買った家は支払う。

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    財産は半分。

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    面会は何度でも可能。

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    義両親とも旅行は可能。

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    義両親のペースで会わせてもらう。

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    すべて、

    決定事項のように、

    淡々と並べられていった。

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    私の意見なんて、

    最初から求められていなかった。

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    そして最後に、

    「これを公正証書にまとめるので、

    すぐサインしてください。」

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    その一言で、

    その日の話し合いは終わった。

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    これは、

    話し合いじゃなかった。

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    ただの、

    一方的な通達だった。

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    私と夫の問題のはずなのに、

    すべてが義父の考えで進められていく。

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    違和感しかなかった。

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    私が過ごしてきた日々も、

    感じてきた苦しさも、

    何一つ、

    この内容には含まれていなかった。

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    そして一週間後、

    手紙が届いた。

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    公正証書の原案と、

    「一週間以内にサインしてください」

    という催促。

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    その文字を見たとき、

    怒りが込み上げた。

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    なんで、

    こんなにも勝手なんだろう。

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    なんで、

    私の人生を、

    こんな風に決められないといけないんだろう。

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    気づいたら、

    私は電話をかけていた。

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    「やはりあり得ません。

    夫婦で決めていないことを勝手に決めて、

    一週間でサインしろなんておかしすぎます。

    私はまだ出産して一ヶ月です。

    もう少し考える時間をもらえませんか?」

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    返ってきたのは、

    たった一言だった。

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    「無理です。

    これに従ってもらいます。」

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    その瞬間、

    迷いは消えた。

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    「そんなの、できません。」

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    はっきりと、

    そう言った。

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    すると、

    すぐに返ってきた。

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    「では訴えます。

    弁護士をつけて、離婚調停にしますよ。」

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    脅しだった。

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    私が怯むと、

    思っていたんだと思う。

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    でも、

    もう違った。

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    「そうしましょう。」

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    自分でも驚くくらい、

    冷静だった。

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    「第三者が入らないといけないと思います。

    そちらの言い分ばかり聞く意味もないので、

    弁護士を通して話しましょう。」

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    そう言って、

    電話を切った。

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    あの瞬間、

    はっきりした。

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    これは、

    もう話し合いじゃない。

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    ちゃんと戦わないといけない現実なんだと。

     
     

    らん

     
     
    バリキャリから失恋、適齢期結婚からの泥沼離婚。人生をやり直したシングルマザーで、今は経営者との恋愛中です。

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