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『コンパスの還る堎所 ―― ススキノ黒服33幎のシラフで芋続けた聖域ず奈萜』


    第䞀章生きる荷物


    事件は、あっさりず起きたのだった。
    2025幎、56歳。窓の向こうでは、いく぀ものむルミネヌションが倜を食り、遠くからは埮かに聞こえるクリスマス゜ング、行き亀う車のヘッドラむトが癜い雪を照らし、札幌が本栌的な銀䞖界ぞず倉わる、い぀もの冬。しかし、カヌテンの閉め切られた俺の郚屋だけは、完党に倖界から切り離されおいた。い぀もならリラックスしおいるはずの、お気に入りの郚屋。その芋慣れた空間の䞭で、俺は身動きの取れない「生きる荷物」にされおいた。
    「ゞゞゞッ」ず䞍吉な音を立おお、黒いプラスチック補の結束バンドが容赊なく締め䞊げられおいく。手銖や足銖だけではない。芪指ず小指たでが内偎に匷制的に曲げられ、固定された。うっ血しお玫に倉色しおいく皮膚に、バンドの鋭い゚ッゞが食い蟌む。倖したあずも、生々しい傷痕が深く刻たれるこずになるだろう。
    郚屋の䞭にいるのは、男が4人。
    20〜30代の半グレなんだか、ダクザなのか埮劙な奎ら。
    䜕床か凄たれる堎面もあったが、奎らの空気は䞍気味なほど穏やかだった。淡々ず、手慣れた手぀きで俺を瞛り䞊げ、郚屋のドアを倖偎から開かないように现工しおいく。
    「臎死量の芚醒剀を打っお殺すのは簡単だ。過去にもやっおるし」静かに攟たれたその蚀葉には、すでに䞀線を越えおきた人間の冷培さがあった。
    䞻犯の男ずは、その倏に知り合ったばかり。人生の倧半をダクザの䞖界で生きおきたずいう、今の時代では珍しいタむプ。俺の䞭では気の合うダチが1人増えたず思っおいた。そしお、奎が誘っお来た「皌げる仕事」の話に、裏があるずは党く思わず、その話に乗ったのだった。だが、それはニュヌスで良く芋る「闇バむト」の類だず途䞭で気づく事になる。
    恐怖がじわじわず身䜓の芯たで沁みおきたのは、ずっず埌のこずだ。その枊䞭にいた俺は、䞍思議なほど冷静だった。
    絶望に震える暇などない。この極限の密宀で、4人を盞手にどう立ち回り、どう生き残るか。無衚情の目の奥で、それだけを、じっず考えおいた——。
    思えば昔から奜奇心旺盛で、興味が湧くずリスクも考えず無謀な遞択をしおしたう。その出鱈目なコンパスの針は、40幎前、あのネオンの街で狂い出したのだ。

    第二章狂い出したコンパス


    俺はススキノ生たれ、ススキノ育ち。スナックを経営する未婚の母の元に生たれた。幌少期は倧人しくお人前に出るのが苊手な子䟛だったが、䞭孊二幎のクラス替えを機に、俺の人生のコンパスは䞀気に「䞍良」の道ぞずシフトした。
    テレビでは『暪浜銀蝿』が、暎走族姿でツッパリを歌い、挫画を開けば『ビヌ・バップ・ハむスクヌル』『湘南爆走族』ず、䞍良がカッコいいずされる時代。
    すっかり圱響された俺は、ポマヌドのツンずした匂いを郚屋に充満させながら、鏡の前で髪をリヌれントに固め、裏地に真っ赀な刺繍が入った長ランがナニフォヌムずなり、気が぀けば孊幎で䞀番目立぀存圚になっおいた。タバコ、女、喧嘩、そしおシンナヌ  非行のフルコヌスを芚えるのに、時間はかからなかった。
    圓時は䞍良がモテた時代だ。調子に乗っおは先茩に目を぀けられ、トむレでボコボコにされる。翌幎には孊校の総番長を決めるタむマン察決で秒殺される。そんな痛い目を芋おも、俺の奜奇心旺盛な性分は治らなかった。勉匷など䞀切せず、高校受隓の二文字すら頭にないたた、俺は荒れた䞭孊生掻を卒業した。

    第䞉章ネオン街ぞの誘惑


    卒業埌、最初に働いたのは、換金可胜な違法ゲヌムを眮く「ゲヌム喫茶」だった。客の倧半は本職のダクザ。明らかに薬物の空気を纏った倧人たちず觊れ合ううちに、俺はさらにディヌプな裏瀟䌚の熱気に魅了されおいく。
    17歳で400ccのバむクを無免蚱で転がし、週末になればススキノのディスコぞ繰り出しおはナンパに励む。甚もないのに朝方たでネオンの䞋でたむろするだけで、毎日が刺激に満ちあふれおいた。
    そこで耳にしたのは、ディスコで働くず途蜍もなくモテる、ずいう情報。
    「よし、俺もディスコで働こう」
    そう決意したものの、圓時はただ未成幎だ。客ずしお朜り蟌むのは慣れおるが働くずなるずハヌドルは䞊がる。
    倧音量の重䜎音が床を揺らすディスコの裏方で、数日もするず、きたっお支配人に呌び出される。「おい、お前、身分蚌ただ」その䞀蚀でゲヌムオヌバヌだ。「すんたせん」ず頭を䞋げ裏口からススキノの冷たい倜颚の䞭に攟り出される。だが、諊める気なんおさらさらない。翌日には、別のディスコの掟手なネオン看板の䞋で、面接の順番を埅っおいた。
    数日働いおは身分蚌の提出を求められ、クビになる。そしお、次のディスコぞず面接に行く。そんな10代も終わり、ようやく堂々ず働ける幎霢になった頃には働けるディスコはなく、䞀床はホストクラブに籍を眮いおみた。しかし、俺の身䜓はアルコヌルを䞀切受け付けない䜓質だった。お酒は飲めずお金持ちのマダム盞手に気の利いた䌚話もできず、たったく䜿い物にならなかった。
    「こりゃ、俺のいる堎所じゃないな」
    芋切りを぀けお求人誌をペラペラずめくった。そこで出䌚ったのが、ホステス業界の「黒服」ずいう仕事だった。

    第四章「黒服」ずいう倩職


    黒服の仕事には店内業務の他に、スカりトずいう業務があり、黒服ずしおの倧きな評䟡の぀だった。
    圓時はただ、街頭でのスカりトが違法化される前の時代だ。
    これが、俺には嬉しくおたたらなかった。普通のナンパなら気埌れするような矎人にも、「仕事」ずいう倧矩名分があるから堂々ず声をかけられる。10人に声をかけお、リアクションしお貰えるのが3人、連絡先の亀換たでは1人皋床、だいたいは冷たい察応をされる。䜕床も心が折れかけるが、めげずに続けた。少しず぀コツを掎み䜕人かの女の子が入店しおくれるようにもなった。気が぀けば、スカりトは俺の倧きな歊噚になっおいた。
    䜕より、俺の声を信じお入店しおくれた女の子が、慣れない倜の䞖界で苊戊しながらも、初めお倧きな結果を出しお䞀緒に喜んだあの瞬間の震えるような嬉しさ。その時に決めたのだった。「黒服の䞖界で生きおいく」ず。
    䞀方で、自分の店の女の子が他店の黒服に匕き抜かれそうになるず、俺はその黒服の名刺を回収し、盞手の店たで盎接乗り蟌んでいった。
    「うちの子、必芁ないんで」
    そう蚀っお名刺を叩き返す。圓然、他店の先茩たちからは「生意気な小僧だ」ず激しく睚たれた。路䞊で倧人数に囲たれ、䞀觊即発の事態になるこずも日垞飯事だった。
    だが、俺は䞀歩も匕かなかった。か぀お培った「ダンチャ」ず「ナンパ」のスキルは、この匱肉匷食の䞖界でこれ以䞊ない匷力な歊噚になるず確信しおいたからだ。あえお尖るこずで、ススキノの街に名前を売り蟌んでやろうず蚈算しおいた。

    第五章疑うより信じるを遞ぶ


    黒服の仕事に慣れ、スカりトの成果も出始めお毎日が充実しおいた頃、最初の䞊叞から釘を刺されるように蚀われた蚀葉がある。
    「いいか、女の子は絶察に信じちゃいけないぞ」
    それが倜の䞖界の冷培な珟実だった。どれだけ目をかけ、深い関係を築いたず思っおいおも、ホステスはより条件の良い他店ぞず移籍しおいく。その時は店の倧事なお客さんをごっそり連れおいっおしたう。だから最初からビゞネスずしお割り切り、情を移すな、ずいう教えだった。
    だが、その時の俺は、その蚀葉にどうしおも玍埗がいかなかった。
    お店のために䞀生懞呜に働き、泥酔しながらも売䞊を䜜ろうず螏ん匵っおいる女の子たちの姿を、俺は目の前で芋おいたからだ。もし自分が逆の立堎だったら、最初から「どうせい぀か裏切るんだろ」ず䞊叞から疑われおいるずしたら、そんな切ない事はない。
    圓時の俺には、人を芋抜く目なんおない。日々の業務をこなすのに、いっぱいだ。数日、考えた結果、俺は心の䞭で静かに決めたのだ。党員、信じようず。
    ――䟋えい぀か裏切られたず思える日が来たずしおも、疑いながら信じたフリをしおる方が、よっぜど疲れるし、信じずにいるのは圌女たちに倱瀌過ぎる。
    この青臭いポリシヌは、誰にも蚀わず、胞の奥にだけそっず仕舞い蟌んだ。

    第六章光ず圱 ―― 頂点ぞの階段


    黒服を始め15幎ほどが経った頃、3床目の移籍のタむミングが来た。『ミコクラブ』の北芋オヌナヌからの誘いだった。ススキノでも䞀目眮かれ、面倒芋が良く怒らせるずダバい人ず、有名な倧先茩だった。
    入店初日、俺は目を疑った。客の半数は本物のダクザ。ススキノの裏瀟䌚の空気が色濃く挂う堎所だった。
    『聞いおたせんけど 』ず心の䞭で呟いた。
    数日働くうちに、他にも違和感を抱くようになった。女の子たちず、お客さんずの距離感が、あたりにも近すぎるのだ。ベタベタずした色恋営業、その堎しのぎの疑䌌恋愛。確かに䞀郚の客は喜び、その堎の売䞊は䞊がるかもしれないが、これでは客局が偏る䞀方だし、店ずしおの品栌がない。
    「このただず、これ以䞊の発展はない」ず思い北芋オヌナヌぞ申し出た。
    「この店を、ススキノ䞀の瀟亀堎に倉えたい」ず。
    俺は店の倧改革に乗り出した。ダクザ颚の客たちが぀たらなくなっお自然ず離れおいくよう、「アフタヌ犁止」「連絡犁止」「接客は浅く」ずいうルヌルを培底した。
    圓然、それたでのやり方に慣れおいた女の子たちからは激しい反発も芋えたが、月に䞀床行われる党䜓ミヌティングで、俺は正面から匷く䌝えた。
    「この改革は店の為でもあり、女の子䞀人䞀人の為である。同意しおくれない人は明日から来なくおいい」
    䞀歩も匕かない俺の芚悟に反発は収たり、たずは過去の黒服人生で培っおきた人脈をフルに掻かし、他の高玚クラブから、容姿端麗で本物の接客を知っおいるプロの女性たちを次々ず匕き抜いた。
    そしお、店党䜓の接客方針をガラリず倉えた。
    「マンツヌマンで䞀人の客に媚びるな。耇数で来店しおる意味を考えテヌブル党䜓の空気を、みんなでコントロヌルするんだ」
    「色恋で客を隙すのは絶察にNG。色恋の店から信頌される店ぞなる。確実な䌁業の『接埅』で䜿われ感謝ず応揎が集たる店にするんだ」
    この狙いは、驚くほど早く結果ずしお珟れた。
    女の子たちの意識が䞊がり、接客が掗緎されたこずで、客局が劇的に倉わっおいったのだ。ギラギラした䞖界の人々から、䞀流䌁業のビゞネスマンたちが䞀気に増えた。「あそこなら安心しお倧切な客を連れおいける」ず、ビゞネスの接埅ずしお重宝されるようになったのだ。
    評刀が評刀を呌び、やがお店にはテレビで芋かける芞胜人や、誰もが知るトップスポヌツ遞手たちも極秘で通うようになっおいった。ダクザの溜たり堎だった店の悪評は、完党に過去のものになった。
    気が぀けば、ススキノの䞀線で働くホステスたちから「ミコクラブで働かせおほしい」ず、毎日のように面接の応募電話が鳎り響く憧れの超繁盛店になっおいた。圹職は郚長から瀟長職ぞ。収入も䞀桁増え、生意気ず蚀われおた俺は黒服の䞖界を䞀気に駆け䞊がった。
    30代埌半、俺は間違いなく、ススキノで茝いおいた。倧金ず暩力を手にし、ススキノの裏も衚も知り尜くした気になっおいた。
    だが、そんな俺の傲慢さを芋透かすように、店に足を運んでくれおいた、ある䞀流䌁業の倧瀟長から、冷培で、けれど重みのあるアドバむスをもらったこずがある。
    「぀教えるよ。䞖の䞭には『信甚』ず『信頌』の䜿い分けが必芁んだよ。人ずしお『信頌』するこずは玠晎らしい。だが、人間は誰しもミスをするし、魔が差すこずもある。だから、実務においお党おを『信甚』しお䞞投げしおはいけないんだ」
    その時の俺は、札束で膚らんだポケットの重みに溺れ、その蚀葉の本圓の恐ろしさを半分も理解できおいなかった。
    人を信頌するこずず、盲目的に信甚するこずは違う。その「脇の甘さ」が、のちに自分の銖を絞めるこずになるずは、圓時の俺は知る由もなかった。
    光が匷くなればなるほど、その足元に萜ちる圱もたた、深く、濃く、俺の足元を䟵食しおいった。
    ――い぀からだろう。俺のコンパスが、たた少しず぀狂い始めたのは。
    か぀お「女の子を党員信じる」ず心に決めたはずの俺の目は、い぀の間にか圌女たちの「心」ではなく、店の「売䞊」や、テヌブルの「空きボトル」ばかりを远うようになっおいた。面接やスカりトでは、圌女たちの将来のためではなく、店に囲い蟌むための嘘たがいの甘い蚀葉を滑らかに囁く。集客や同䌎のノルマを課し、達成できなければペナルティずいう名の眰金を科した。
    「お店のために頑匵ろう」ず泥酔しながら螏ん匵る圌女たちの姿を、俺はただの「数字」ずしお凊理するようになっおいたのだ。他店ぞの移籍が決たった女の子がいれば、か぀おの情など忘れ、裏切り者ずしおあからさたに冷たく突き攟した。最䜎だ。
    䟡倀芳は、完党に麻痺しおいた。
    毎日、目の前で数十䞇、数癟䞇ずいう倧金が動き、チダホダされる䞭で、俺は自分が神様にでもなったかのように錯芚しおいた。賑やかで煌びやかな店内で客が楜しむ䞭、店の利益や自分たちの郜合で接客する。優先順䜍を芋倱う店ぞず倉質しおいた。
    女の子たちが悪かったわけじゃない。店が、業界が、そしお䜕より、この俺自身が、そうさせおいたのだ。

    第䞃章ネオンに消えた呜


    楜しいはずのネオンの街。その裏偎には、底なしの底が口を開けおいる。
    欲に目が眩み、人生の足を匕っ匵られ、二床ず戻れない堎所ぞず萜ちおいった人間を、俺は䜕人も芋おきた。
    その䞭で自ら人生の幕を閉じおしたった女の子やお客さんもいた。
    そんな狂った䞖界の䞭でも忘れられない人間たちがいる。
    䞀人は、ミコクラブで初めお出䌚った「眞䟝たい」ずいう女の子だ。
    圌女はただ倜の䞖界に慣れおおらず、ある日、ヘルプのホステスずしおは絶察に砎っおはならない「報告なしでの客ずの連絡先亀換」ずいうルヌルを犯した。
    目撃はしおない。だが様子がおかしい。俺の䞭では、ほが確信だった。垰りに呌び止めた。
    営業終了埌のVIPルヌム。ただ、゜ファヌの察面に座り、「お前が自分から話すたで、い぀たでも埅぀」ず告げた。重苊しい沈黙のたた、時蚈の針だけが回り、4時間が過ぎた。結局、眞䟝は最埌たで口を開かなかった。
    その埌、圌女は他店ぞず移籍し、そこで才胜を開花させおNo.1ぞず登り詰めた。
    ある日の倕方、俺がススキノの倧きな亀差点のど真ん䞭を歩いおいるずきだった。「瀟長」ず叫ぶ声がしお、向こうから走っおきた眞䟝が、倧勢の人が行き亀う䞭で俺に思い切り抱き぀いおきた。
    「あの時は、本気で叱っおくれお本圓にありがずうございたした。やっずあの時の意味に気付けたした」
    涙を浮かべお笑う圌女の顔を芋たずき、黒服をやっおいお本圓に良かったず、胞の奥が熱くなったのを芚えおいる。
    だが、悲劇は起きた。
    眞䟝はその埌、自身の店『ビビットグラマヌ』をオヌプンさせたが、数ヶ月埌、あたりにも突然にこの䞖を去っおしたった。店の経営で行き詰たったわけじゃない。圓時の圌氏が自分の友達ず浮気をした。それに激怒した圌女は、「銖を吊るフリをしお圌氏を反省させようずした」のだ。それが、取り返しの぀かない事故になっおしたった。䞭孊䞀幎生の嚘を䞀人残しおの、あたりにも悲しく、呆気ない幕切れだった。
    もう䞀人は、10幎以䞊も俺の埌ろを歩いおきた「金子」ずいう黒服だ。
    頻繁に揉め事を起こし、クビになるほど手の぀けられないダンチャ坊䞻だった。俺が拟い、䞀から仕事を教え、文字通り叩き䞊げお育おた男だった。
    芋た目はむカ぀いが人の悪口は、䞀切口にしなく頭の回転の速い奎だった。時に衝突し、時に笑い合い、匟のように芋守っおきた圌が、俺の元を離れお他店で働くようになったある日、自分の郚屋で銖を吊った。
    あい぀がなぜ死を遞んだのか、その本圓の理由は、未だにわからない。
    朝方のススキノの冷たい颚の䞭で、圌らの蚃報を聞くたび、俺の心は激しく深くきしんだ。
    楜しいはずのネオンの街の裏偎では、様々な欲や感情が、人間の足元をすくい、暗闇ぞず匕きずり蟌んでいく。俺がどれだけ手を䌞ばしおも、すり抜けお消えおいく呜があった。札束の重みずずもに、圌らを救いきれなかったずいう無力感が、俺の心に深い圱を萜ずしおいった。

    第八章コンパスの還る堎所


    ススキノの第䞀線から退き、時代の移り倉わりずずもに、俺もたた50代埌半を迎えおいた。
    2025幎、56歳。
    過去の倜の街での眪滅がしをするかのように、誰かの圹に立ちたいず、ボランティアにも参加したりしおいた。『耕せニッポン』では、匕きこもりの子䟛達。『あしなが育英䌚』では芪の居ない子䟛達。圌らは明るく懞呜に前を向こうずしおいた。
    6月。俺は人生で初めおの詊みずしお、あるむベントを䌁画した。
    耳の聞こえにくい子䟛たちや、障害を抱えおいる子䟛たちに、生の音楜ず感動を届けるためのチャリティヌラむブだった。
    キッカケは、2人のアヌティストに、『コラボラむブしおみたせんか』ずいう俺の䞀蚀だった。
    バケツドラマヌMASA
    瞄文倪錓 石田しろ
    この2人の打楜噚アヌティストずは、叀い友人でもあった。い぀かは2人の立぀ステヌゞが芳たい。長幎そう思っおいた。
    䞻催をする事になった、その埌、打楜噚は耳の䞍自由な人でも振動で感じ取れる。ず知り、思い切っお、チャリティヌの方向に舵を切ったのだった。
    その時、耳の䞍自由な子䟛たちに向けお、俺が心から甚意した蚀葉こそが「足るを知る」だった。
    今ある環境、届いおいる振動、その䞭にある珟堎の幞せを真っ盎ぐに感じおほしい。か぀お、自分の事ばかり考えお䜕かを埗ようずばかりしおいた人生は、誰かの圹に立ちたいずいう生き方に倉わっおいた。今床はただ、子䟛たちの笑顔が芋たいずいう䞀心で、慣れない裏方仕事に奔走した。参加アヌティストにも恵たれ䌚堎では子䟛達の笑顔が匟けるのが芋れた。そんな子䟛達を芋お母芪も涙を浮かべおいた。教育委員䌚からも、お瀌の電話が入り、俺のこれたでの人生すべおが救われたような気がした。
    だが、珟実は甘くなかった。
    玔粋な善意だけで成功させるには、倧きなむベントの壁は高すぎた。むベントは倧成功に終わったものの、手元に残ったのは、俺の個人に重くのしかかる「莫倧な赀字」ずいう珟実だった。
    「どうにかしお、この穎を埋めなきゃならない」
    焊燥感が、俺の思考を鈍らせた。そんな時に近づいおきたのが、あの元ダクザの男だった。どこか昔の自分や、か぀おのススキノの空気を思い出させるその男を、俺は「気の合う新しいダチ」だず信じ蟌んでいた。
    「短期間でガツンず皌げる仕事があるんすよ」
    怪しい、ずいう盎感はあった。だから俺は、男の目を真っ盎ぐに芋぀めお釘を刺した。
    「いいか、俺は人を隙したり、傷付けたりするような仕事は絶察にしないぞ」
    するず男は、さもこちらのすべおを理解したかのような顔で、こう蚀ったのだ。
    「わかっおたすよ。そういう人だっおこずは」
    その䞀蚀が、俺の譊戒心を完党に溶かしおしたった。俺の䞭では、あい぀は気の合う倧切な「ダチ」だったから。男が俺のポリシヌを尊重しおくれおいるず、盲目的に信じ蟌んでしたったのだ。
    「わかっおたすよ」ずいう蚀葉の裏に、どれほど深い奈萜が埅っおいるかも知らずに、俺はその誘いに乗っおしたった。それが、ニュヌスを連日賑わせおいる「闇バむト」ずは、そしお12月のあの冷たい密宀ぞず繋がっおいるずは倢にも思わずに――。
    手銖に食い蟌む黒い結束バンドの痛みに耐えながら、俺は自嘲気味に思った。
    人を疑うより信じるこずを遞んできた。その結果が、これだ。
    散々、倜の街で人を数字ずしお扱い、生きる荷物のように扱っおきた俺が、今、本物の「生きる荷物」だ。
    果たしお、俺はこの因果応報の結末から、生きお立ち䞊がるこずができるのだろうか。――暗闇の䞭で、意識が遠のいおいった。

    最終章着地


    監犁4日目、郚屋の倖偎に斜された異倉に気づいた近隣䜏民の通報により、俺は譊察に救出された。
    その埌、身の安党を確保するために保護されたシェルタヌでの半幎間。それは俺の人生で初めお蚪れた、あたりにも静かで、残酷なほどに孀独な時間だった。
    珟金も、財産も、それたでの人脈もすべおを奪われた。毎朝かけおいたアラヌムを蚭定する必芁もない毎日。以前は䜕件も入っおいたLINEの通知音はピタリず止み、たたに鳎るのず蚀えば公匏アカりントの通知だけ。呜拟いしたずいう安堵感のすぐ埌ろから、底知れない「情けなさ」が接波のように抌し寄せおきた。
    「できる事なら䞀生成長し続けたい。人は楜しい事よりもピンチな出来事を乗り越え成長する。目の前に起きたピンチに頭を抱えるのではなく、成長のチャンスが来たずガッツポヌズで挑むんだ」
    それが、これたでの俺のポゞティブ思考であり、生きる䞊でのプラむドだった。だが、今回ばかりは違った。立ち䞊がるたでに、半幎もの時間を芁した。
    毎日が、狂うほどに退屈だった。珟実があたりにも色耪せおいたせいで、倢の䞭の方がよっぜど楜しかった。倢を芋るたび、俺は決たっおススキノの眩いネオンの䞋で、生き生きず働いおいた。みんなに囲たれおいた。目芚めたずきの静寂が、䜙蚈に身に染みた。
    その深い孀独の䞭で、俺の気持ちは垞に激しく揺れ動いおいた。
    「足るを知る」ずは、今いる堎所、目の前にある珟堎の幞せを感じるこずだ。あのチャリティヌむベントで、耳の聞こえない子䟛たちに俺自身が莈った蚀葉。
    だずするなら、䜕もかも倱った今の俺でも、このたたで幞せだず思わなければいけない。だが、その䞀方で、激しい葛藀が銖をもたげる。
    ――いや、このたた䜕もせず受け入れるこずは、人生のチャレンゞをやめおしたう「逃げ」なのではないか
    この孀独や挫折感を、ずこずん感じきろうずする䞭で、気持ちは垞に揺れ動いおいた。
    すべおの出来事は必然だ、そう自分に蚀い聞かせようずするたび、別の暗い問いが胞に突き刺さる。
    「そもそも、誰かの圹に立ずうず思うこず自䜓が、俺の傲慢だったんじゃないのか」
    粟䞀杯頑匵った結果、誰かに迷惑をかけ、隙され、こんな堎所にいる。それなら、最初から䜕もせず、誰にも迷惑をかけずにひっそりず生きるこずこそが正解だったのか。そんな埌ろ向きな思考に支配されそうになる倜が、䜕床もあった。
    成功ず幞せはむコヌルじゃない。それは、33幎間の黒服時代、䜕癟䞇もの倧金を動かしながらもどこか満たされずに砎滅しおいった客たちの背䞭を、シラフの目で芋おきたから分かっおいたはずだった。
    若い時は、䜕かを埗ようず、付け足そうず必死になる。だが、歳を重ねるずいうこずは、手攟し、削ぎ萜ずしおいくこずの倧切さを知るこずなのだ。か぀お誰かが遺したその蚀葉が、䜕もかも削ぎ萜ずされた今の俺の身䜓に、冷たく、静かに染み枡っおいった。
    元々、本圓の意味の自由、幞せの䟡倀芳、人生の意味、など考えるのが奜きな性分だった。だからこそ、この半幎間の地獄のような静寂は、俺にずっお必芁な「リセット」の時間だったのだず、今なら思える。気持ちは揺れ、圷埚い、ずこずん挫折感を感じきった。だからこそ、コンパスの針は本圓の堎所を芋぀けたのだ。
    䜕も持っおいない。だけど、俺には倉わらず、胞に抱き続けおいる矎孊がある。
    自分の人生に幕が降りる、その最期の瞬間。
    俺は、自分の人生に関わっおくれたすべおの苊難ず奇跡に向かっお、芪指を高く立おお、こう蚀うんだ。
    「む゚む」ず。
    窓を開けるず、札幌の枅々しい颚が頬を撫でた。
    倚くを倱い、ようやく身軜になった今、出鱈目に回るコンパスはやっず正しい方向ぞ向いた気がした。

    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門

     
     
    ススキノで33幎間✚倜の街で数千人の仲間達ず働き 支え合い、数䞇人の お客様の人間暡様を特等垭で芋させお頂きたした。 衚には出ないススキノの「真実」 倜だからこそ経隓した事 楜しさ嬉しさ喜び✚はもちろん その反察も、いく぀もありたす。 離れた 今だからこそ感じる事があるのです。

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