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社長が教えてくれたこと16:仕事を任せる、その中心にあるもの

    ※この物語は、半分フィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

    ある日の午後、給湯室でコーヒーを入れていると総務部の新入社員、内山から「相談したいことがある」と声をかけられました。
    嫌な予感を感じながら、私は、応接室で話を聞くことにした。

    応接室に入ると、内山はうつむきながら「小泉さん、忙しいのにすみません。実はちょっと困っていることがあるんです」と、小さな声で話を始めました。
    私は、少しゆっくりとした口調で「そう。……何があったの?」と尋ねました。
    「従業員の誕生日に配る『グルメカード』の発注の仕方が悪いと足立課長に叱られたんです」
    「そう。どこが問題だって言われたの?」と、私はうなずきながら答えた。
    「カードは何種類かあって、金額が違ったり、絵柄が違ったりするんです。業者の方にそれがうまく伝えられなかったようです」
    「そう。それで手配がうまくいかなかったんだ」
    「えぇ、私のミスですし、申し訳ないと思っているのですが、ただ足立課長の言い方が気になっていて……」と、内山は遠慮がちに話を続けます。
    「なんて言われたの?」と私が聞くと、顔を上げた内山は「なぜミスをしたのか聞かれたので、私がカードの注文は初めてで、そんなに種類があるとは知らなかったって言ったら、それは稟議書や前回の発注書を確認すればわかるだろ?って。でも教えてもらっていないし、わからないです」と内山は、胸の奥のもやもやを吐き出すように、一息で話をしました。
    「足立課長には、タイミングを見て私が話をしてみる。君から相談があったとは言わずにね」と私が答えると、内山は「よろしくお願いします」と頭を下げて部屋を出て行きました。

    私は、その後、江川社長との打ち合わせをしながら、この出来事を報告すると、江川社長は、いつものように優しく微笑むような表情で私の話を聞いてくれました。

    江川社長は、少し考えるように視線を落としてから、静かに口を開きました。
    「足立さんは、仕事を任せることの目的をまだ掴めていないのかもしれませんね」
    私は「目的……ですか」とつぶやきました。

    社長はゆっくりとうなずきます。
    「仕事を任せる一番の目的は、部下を成長させることです。経験させ、判断の機会を与え、成功体験を積ませる。そのために任せるんです」
    私は深くうなずきました。

    社長は続けます。
    「もちろん、任せることには他にも役割があります。業務を分散させたり、責任を整理したり、意思決定を早くしたり。
    でも、それらは部下に仕事を任せることの目的ではありません。
    その中心にあるのは、あくまで成長です」

    そして、少し柔らかい表情になりました。
    「成長させるためには、任せる時に成功できるだけの情報を渡さないといけない。
    手順書があってもなくてもいいのですが、相手が迷わないように、理解度に合わせて伝えること。
    そして、できた時にはちゃんと褒めてあげること。
    それが任せる側の責任です」

    社長は、少しだけ笑みを浮かべながら言いました。
    「足立さんには、その目的だけ伝えてあげてください。
    全部を教える必要はありません。
    目的がわかれば、あとは自分で気づいていきますよ」

     
     

    tak!

     
     
    1976年生まれ。元ロッカーの駆け出しライター。ラジオや音楽、懐かしドラマなど、気になったこと、興味があることを思いつくまま書いていきます。 ※ Amazon のアソシエイトとして適格販売により収入を得ています

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