「便利」を渡したのに使われなかった。同じツールが「神」と「邪魔」に分かれた理由

「便利なツールを渡したのに、使ってもらえなかった。」
この経験がある人は、少なくないと思う。
「AIを使えばマクロが作れますよ」
そう伝えたとき、相手の目が少し明るくなった。
Excel作業に毎日30分かけている人だった。「自分でマクロが作れるなら試してみたい」と。
ChatGPTの画面を開いて、「こういうマクロを作って」と入力してもらった。
出力されたコードを貼り付けて、実行。
エラー。
もう一度プロンプトを修正して、実行。
またエラー。
3回目。やっぱりエラー。
「やっぱり自分にはAI無理ですね」と言われた。
でも、これはAIの能力の問題じゃなかった。
エラーの原因は「AIの能力」じゃない
初心者がAIにマクロを頼むとき、よくあるプロンプトはこうだ。
「Excelで集計するマクロを作って」
これだけでは、AIには何も分からない。
どのシートの、どの列を集計するのか
ファイルは1つなのか、複数なのか
集計結果はどこに出力するのか
元データにヘッダーはあるのか
空白セルがあったらどうするのか
人間同士なら「見ればわかる」前提条件が、AIには一切伝わっていない。
当然、AIは足りない情報を推測で埋める。その推測がズレていれば、エラーが出る。
初心者はエラーが出た時点で「AIが使えない」と判断する。でも実際は「AIに渡す情報が足りなかった」だけだ。
これに気づいて、あるものを作った。
「コードを書く前に質問する」仕組みを作った
普通のChatGPTは、頼まれたらすぐにコードを出力する。
それが初心者にとっては罠だった。情報が足りないまま、とりあえず動きそうなコードを返してしまう。
そこで、ChatGPTのカスタム機能で「コードを生成する前に、必ず要件を聞き出す」仕組みを作った。
動作はこうだ。
ユーザーが「集計マクロを作りたい」と入力する
AIがいきなりコードを出さず、まず質問する
「対象のファイルは1つですか?複数ですか?」
「集計したい列はどれですか?」
「出力先は同じシート?別シート?」
回答を受けて、AIが要件を整理して確認する
「こういう理解で合っていますか?」と要件定義を返す
ユーザーが「はい」と答えてから、初めてコードを生成する
要は、AIに「いきなり答えを出すな、先に聞け」と指示したということだ。
初心者には刺さった
このツールを、先ほどの「AI無理です」と言っていた人に渡した。
結果は明らかに変わった。
AIが聞いてくる質問に答えるだけで、自分のファイル構成ややりたいことが整理される。「要件定義」なんて言葉を知らなくても、対話の中で自然に要件が固まっていく。
そして、質問に全部答えた後に出てくるコードは、最初からエラーなく動くことが多い。
「聞かれたことに答えるだけで動くマクロが出てきた」
初心者にとっては、これが決定的だった。「AIが使える」と感じるかどうかは、AIの性能ではなく、最初の成功体験があるかどうかで決まる。
できる人には「邪魔」だった
同じツールを、ある程度AIを使い慣れている人にも渡してみた。
反応はまったく違った。
「質問が多すぎる」「自分で書いたほうが早い」「いちいち確認してこなくていい」
丁寧に要件を聞く設計にしていたから、できる人にとっては「知ってることを何度も聞かれる」ストレスになった。自分で前提条件を伝えられる人には、この丁寧さはただの障壁でしかなかった。
同じツールが、ある人には「神ツール」で、別の人には「邪魔なツール」になった。
あなたの現場でも、「便利だと思って渡したのに使われなかった」という経験はないだろうか。
「便利」は届け先で意味が変わる
ここで気づいたのは、ツールの良し悪しではなく、「誰に届けるか」を設計していなかったということだ。
初心者向けに作ったものを、全員に配った。それが間違いだった。
これはAIツールに限った話じゃない。
Excel関数を教えたら「手で確認したほうが安心」と言われたことがある。
共有テンプレートを作ったら「前のやり方のほうが分かりやすい」と言われたことがある。
最初は「なぜ便利なものを受け入れないんだ」と思っていた。
でも、相手には相手の前提がある。
手で確認するほうが安心な人には、関数は「見えない処理」であり、不安の種だ。
慣れたやり方がある人には、新しいテンプレートは「覚え直し」のコストだ。
「便利を渡す」のと「便利が届く」のは、まったく別の話だった。
届け方を変えるための3つの原則
この失敗から学んだのは、こういうことだ。
1)届け先のレベルを分ける
「AIを触ったことがない人」と「自分で指示を書ける人」では、必要なサポートがまるで違う。全員に同じものを渡すと、どちらかが必ず外れる。
2)困りごとを起点にする
「AIでマクロが作れます」ではなく、「毎月の集計で手間がかかっていませんか?」から入る。ツールの紹介ではなく、相手の困りごとを起点にする。
3)「使わない」も正解として受け入れる
全員が使う必要はない。今のやり方で問題なく回っている人に、無理に新しいツールを押し込む必要はない。「使わない」を許容できないと、普及活動が押し付けに変わる。
明日から試せる一歩
社内でツールや方法を共有するとき、「誰向けか」を一言添える
「便利ですよ」ではなく「〇〇で困っていたらこれが使えます」と困りごと起点で伝える
相手が使わなかったとき、「なぜ使わないのか」ではなく「今のやり方で何が回っているのか」を聞く
全員に配る前に、まず「一番困っている1人」に渡して反応を見る
#AI活用100本ノック 進捗:48/100
次回の実験:届け先のレベルに応じてAIの応答パターンを切り替える仕組みを試す
この記事が参考になったら「スキ」で教えてください。次の実験の励みになります。
関連記事:
このnoteでは、現場改善・AI活用・小さな自作ツールの試行錯誤を記録しています。
初めての方はこちらからどうぞ。
▶ はじめての方へ|このnoteで書いていること