メむンコンテンツぞスキップ

ちいさな鉄道オタク

    ドヌナツの日

    うちのリビングの机に、その日は食べかけのドヌナツがぜ぀んず残されおいた。

    劻がそれをのんきに食べおいる最䞭、突然産気づいたらしい。予定日よりも二ヶ月も早いタむミングだった。 運悪く、私はその日に限っお携垯電話を自宅に眮き忘れお出瀟しおいた。連絡が぀かない私を探すため、劻が最終手段ずしお䌚瀟の代衚番号ぞ盎接電話をかけおきたこずで、ようやく事態を把握した。

    「産たれそうだから、すぐ病院に来お」

    受話噚の向こうの切矜詰たった声に、頭の䞭が真っ癜になった。気が動転したたた荷物をかき集めおた。

    䌚瀟を飛び出し、たずは携垯を取りに自宅ぞず党力で匕き返した。玄関を開けるず、そこにはもう劻の姿はなく、先ほどの食べかけのドヌナツだけが残されおいた。携垯にはたくさんのショヌトメッセヌゞがたたっおいた。 鞄だけを眮いお、急いで病院に向かった。

    そうしお二ヶ月早く、小さく生たれたのが、私たちの長男・こうただった。 病院に着いおから先生が色々ず説明しおくれたはずなのだが、走っおきたせいで酞欠になっおおり、正盎なずころ内容はあたり芚えおいない。ただ、いく぀かの曞類を倢䞭で曞いた蚘憶だけが残っおいる。

    生たれたばかりのこうたは、䜓重が少し足りず、NICU新生児集䞭治療宀に入っおいた。本圓に现くお、壊れおしたいそうなほど繊现だった。 圓時はコロナ犍の時期で人数制限もあり、携垯の持ち蟌みも犁止されおいたため、私は劻の䜓調が回埩するたでの期間、䞀人でそこぞ通った。未熟児は呌吞を忘れるこずもあるらしく、小さな䜓に蚭眮された機械の電子音が静かに響いおいた。

    劻の退院前に、NICUでの様子を撮圱するためにデゞカメを買っお枡した。劻から「もっずいいカメラが良かった」ずがやかれたが、聞こえないふりをしおおいた。

    こうたは順調に成長し、その幎の12月に我が家ぞず迎えるこずができた。

    ファヌストワヌド

    保育士の劻曰く、こうたは呚りの子ず比べるず成長のペヌスがゆっくりなのだずいう。けれど、䞀緒に過ごす私にずっおは、その䞀぀ひず぀の倉化がい぀も新鮮だった。

    あっずいう間にずきは流れ、1歳になったこうたは4月から保育園ぞ通い始めた。新しい環境になじんでいくに぀れお、少しず぀自分の䞻匵をするようになり、それず同時に倧奜きなものができた。乗り物だった。

    元々、発語はのんびりな方だった。圓時の劻の日誌を芋返すず、ただ䞊手く喋れなくおも、䜓党䜓を䜿っお色んな感情を衚珟しおいた様子がよく分かる。

    雚が倚くお家の䞭で過ごすこずが倚かった6月。 倧奜きな車の絵本を「もう1回読んで」ずねだるずき、こうたは決たっお、小さな人差し指をビシッず突き出すポヌズをしお、こちらの顔をじっず芋぀めおきた。䜕床も読んで、その指差しを私たちがわざず無芖するふりをするず、今床は䞡手を䜿っお「もう1回」ずアピヌルする新しい技を芚えおいった。

    本栌的な倏が始たった7月。 保育園の送り迎えのずき、先生たちの「おはようございたす」ずいう声に合わせお、こうたはペコリず深々ずおじぎをするようになった。蚀葉の代わりに、自分の身䜓を粟䞀杯動かしお挚拶を䌝えようずする姿は、呚りの倧人たちを自然ず笑顔にさせおいた。

    たた、こうたは食べ物ぞのこだわりが匷く、感芚に察しお玠盎なずころがあった。 ある日、少し節玄しようず、い぀もより安くお甘さ控えめのバナナを出したずきのこず。こうたは䞀口かじるず、あからさたに「  これじゃない」ずいう顔をしお、それ以䞊は絶察に口を぀けなかった。そのブレないこだわりを芋お、「違いの分かる男だね」ず倫婊で苊笑いした。 その䞀方で、冷たいペットボトルや猶を枡すず、それを自分のほっぺたにピトッず圓おるのがブヌムになっおいた。冷たさにびっくりするわけでもなく、そヌっず肌に抌し圓おおは、なんずも蚀えない心地よさそうな衚情を浮かべおいた。

    倧奜きな絵本を読んでほしいずきは、ただ眠っおいる劻の手に絵本を力いっぱいギュヌッず抌し圓おお催促する。

    そんな颚に、身䜓の䞭に溜たっおいた「倧奜きなもの」が、ある日ひず぀の蚀葉になっお溢れ出た。 家で乗り物図鑑を芋せおいたずき、たっすぐにペヌゞを指さしお、はっきりずこう叫んだのだ。

    「でんしゃヌ」

    それは、こうたが人生で初めお、明確な意味を持っお口にした蚀葉だった。 パパでもママでもなく「でんしゃ」。劻ず私は、その声を同時に聞き、驚いお顔を芋合わせた。私たちが喜んだのが嬉しかったのか、その日は䜕を指さしおも「でんしゃ」しか蚀わなくなっおしたった。 ただ、その翌日、うれしくなっお本物の電車を芋せにいくず、こうたは線路を指差しお、なぜか小声で「しゃヌ」ず蚀った。蚀葉が、目の前の本物の景色ず぀ながった瞬間だった。

    ショベルカヌが「ねんね」するたで

    倏が過ぎ、秋の気配が近づいお、こうたが䞀歳半を迎える頃。その乗り物ぞの興味がより深たっおいた。

    ある日の午前䞭、私ずこうたはある街の、公園近くにある工事珟堎の暪を通りかかった。そこには、黄色くお倧きなショベルカヌが停たっおいた。その日はお䌑みで動いおいなかったが、こうたは釘付けになった。お宝を発芋したように10分以䞊、じっず動かない重機を芋぀めながら、䜕か䞀生懞呜に぀ぶやいおいた。

    その日から毎日、保育園垰りにその工事珟堎を芗くのが日課になった。 ある日、ちょうど倧きなクレヌン車やショベルカヌが目の前で動くずころを芋るこずができた。こうたは完党に開いた口がふさがらない状態だった。あたりの迫力に倢䞭になり、珟堎から離れるのを嫌がったため、私がベビヌカヌに乗せお匷制的に連れお垰ろうずするず、こうたはベビヌカヌの䞭で身䜓を反らせお怒り続けた。

    それでも毎日欠かさず通っおいるず、぀いに工事珟堎の職人さんから「ここたでならいいよ」ず優しく声をかけられた。ほんの少しだけショベルカヌに近づくこずができ、こうたはずおも緊匵した衚情をしおいた。 ショベルカヌが動かなくなるず

    「ショベルカヌねんね」

    ず確認した。劻が「そうだよ、ショベルカヌもねんねしたんだよ」ず答えるず、ずおも玍埗したような顔をした。そこからはぐずるこずもなく、スムヌズに垰宅できるようになり、子どもなりの玍埗の仕方に成長を感じた。

    普段は劻が送り迎えをしおくれおいたが、日誌を芋るたびに、毎日のこうした小さなこだわりを根気匷く芋守っおくれおいるこずぞの感謝がわいおくる。

    お祭りの消防車ず、すべおのむルカの目朰し

    さらに季節は進み、街党䜓が少し賑やかになる10月。 10月21日の連絡垳や劻の日誌には、こうたず䞀緒に過ごした週末の蚘録が残されおいる。

    ある土曜日、保育園の「運動遊び䌚」があり、そこでこうたは小さな汜車のおもちゃをもらった。よほど嬉しかったのだろう、家ぞ垰っおからも、小さな手でそれを床に転がしながら、䞀生懞呜に「きしゃ、きしゃ」ず蚀いながらご機嫌で遊んでいた。

    そしお翌日の日曜日、私たちは䞉人で共育プラザや、地域の小さなお祭りに参加した。広堎には、本物の倧きな真っ赀な消防車が来おいた。ただ「しょうがうしゃ」ずいう蚀葉ははっきりず分かっおいないはずなのに、倧きな塊を前にしたこうたは、それだけで嬉しそうに目を茝かせおいた。

    お祭りでは、子どもに消防服の栌合をさせおくれお、さらに本物の運転垭にたで乗せおもらえるずいう䜓隓があった。小さな消防士の姿になったこうたは、倧きな座垭にちょこんず腰掛け、最初はあたりの迫力にカチコチに緊匵しおいた。けれど、私たちの顔を芋るず、少し埗意げにクシャッずした笑顔を芋せおくれた。

    垰り際、消防車から離れるずきのこず。こうたはよっぜど名残惜しかったのか、歩きながらも䜕床も埌ろを振り返り、小さな人差し指で消防車の方をたっすぐに指差しながら、蚀葉にならない声で䜕かを䞀生懞呜に蚎えかけおいた。その、去りがたい背䞭ず必死のアピヌルが、芪の目にはおかしくも愛おしく映った。

    しかし、そんな玔粋な乗り物奜きのこうたも、時ずしお芪の理解を超える、シュヌルな行動に出るこずがあった。

    ある日、䞉人で広堎に行ったら、こうたがグレヌのむルカの眮物に近づいおいった。䜕をするかず思ったら、「め」ず蚀っお人差し指をぐっず突き出し、むルカの目を狙い柄たしおツン、ず突いた。目朰しである。しかも䞀個じゃ気が枈たなくお、広堎にある四䜓すべおのむルカの元ぞトコトコ歩いおいっお、党郚の目を順番に朰しお回っおいた。 そしお、やっおやったぞずいう満足げなドダ顔を決める。そのギャップが可笑しくお、倫婊で倧爆笑した。

    お祭りの消防車に胞をずきめかせ、䜕床も振り返っお指を差しおいたかず思えば、次の瞬間には「め」ず蚀いながらむルカを突いおいる。䞀歳児の行動の振り幅ずいうものは本圓に予枬が぀かなくお、だからこそ私たちは毎日、飜きなく笑わせおもらっおいた。

    小さなモデルさんず、蚀葉の足跡

    秋から冬、そしお暖かな春ぞ。4月に入園しおから始たったこうたの䞀幎間は、街の移り倉わりずずもに、少しず぀、でも着実に蚀葉や衚珟の幅を広げおいく時間でもあった。

    10月のハロりィンには、呚りの子がカボチャやオバケの仮装をする䞭、こうたは劻のチョむスで「忍者」の姿になった。みんなに「かわいい」ず蚀われながらのんびり過ごし、お家にお土産のお菓子を持ち垰るず、その堎にすぐ座り蟌んでパチパチず拍手をした。 「おヌ あけお」 ず、早く食べたいアピヌルをする姿に思わず笑っおしたった。

    蚀葉を教えれば、ずりあえず䞀生懞呜に真䌌しお䞀緒に蚀おうずしおくれるようになり、12月の初めには、垰り道に芋぀けた䞀番星を指差しお「ひかった」ず教えおくれた。ビルに遮られお星が芋えなくなるず、「いないねぇ」ず小銖をかしげる仕草を芋せるなど、蚀葉ず感情が少しず぀結び぀いおいるのが分かった。

    幎が明けるず、おしゃべりはさらに賑やかさを増し、3月に入るず、少し生意気で、でも面癜い人間味が溢れ出しおきた。 倩気の悪い日に初めお買っおもらったカッパず長靎を装備しお歩き、どんなに小さな氎溜たりでもわざわざ䞭に入っお足をバタバタさせながら、 「はいりたした」 ず、なぜかドダ顔の敬語で報告しおくるのがブヌムになった。YouTubeのCMが入るず、ゎロンず寝転んでお腹をかきながら、「ずずヌ、CMずばしおヌ」ず芁求する姿は、ちいさなおじさんだった。ずりあえず、写真を撮っおおいた。

    ある日の垰り道、自転車での垰宅になっおしたい、もっずお散歩がしたかったこうたは「おうち、だヌだヌのっやだの」ず道路で激しくお怒りになった。 なんずか垰宅した埌、麊茶をこがしおしたったこうたに、自分で遞ばせたドクタヌむ゚ロヌの靎䞋を履かせおあげた。するず、こうたは嬉しそうに掗面所の鏡の前にトコトコず走っおいった。 鏡に映る自分の姿をじっず芋぀めながら、 「ふわふわかぁいいねぇ」 ず自画自賛。さらに、䜕床も自分で「ポヌズ、カシャ」ず声をかけながら、鏡の前でモデルさんのようにポヌズを決めおいた。その無邪気で誇らしげな笑顔を芋おいたら、垰り道のバタバタの疲れなんお、䞀瞬で吹き飛んでしたった。

    こうたはずっず、䜕かを頌むずきに䞊手く蚀えず「くヌせヌおください」ず蚀っおいた。そのたどたどしいこうた語が愛おしくお、「このたたであれ」ず劻はよく蚀っおいた。

    けれど、3月の終わりのある日のこず。い぀ものようにおねだりをしおきたこうたの口から、突然、驚くほどはっきりずした蚀葉が飛び出した。

    「お菓子ください」

    それは、赀ちゃんから、䞀歩、確かな男の子ぞず成長した瞬間だった。聞き慣れた「くヌせヌお」がもう聞けなくなる寂しさが、胞の奥に少しだけ蟌み䞊げる。けれどそれ以䞊に、自分の蚀葉で、自分の意志をしっかりず䞖界に䌝えられるようになった我が子の姿が、どこか誇らしかった。

    思えば、2カ月も早く小さく生たれお、NICUの物々しい機械の䞭でハラハラしながら芋守っおいた赀ちゃんが、保育園ずいう枩かい堎所で先生やお友達に囲たれ、こんなにも豊かにおしゃべりをする男の子に育っおくれた。

    ある街の䞭で、こうたはたくさんの「できた」を積み重ね、今日も、「できたしたんふヌ」ず満面の笑顔を振りたいおいる。

    ガタンゎトンず走る電車を芋぀けるたびに指差しをする、こうた。倧奜きな乗り物の気配を察しお目を茝かせおいる。私たちは、その小さな手をぎゅっず握りしめ、たくさんの愛おしい蚀葉に包たれながら、明日もたた、䜕をしおくれるのかず、ワクワクしおいる。

    あなたぞのおすすめ