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我が身にふりかかるホラー 【エッセイ】

    ぜんけい

    僕はホラーが大好き。
    小説も漫画も映画もホラーが好き。
    ホラーならどんなジャンルでも無節操に摂取する。

    でも、それは自分には関係のないフィクションだから楽しめるのだ。

    呪われたいからホラーを読むんじゃない。
    怪物に襲われたいからホラー映画を観ているんじゃない。

    安全圏から楽しむのがホラーというジャンルでは絶対条件なのだ。

    なのに。

    まさか我が身にホラーがふりかかるとは…。


    僕は、基本的に電子書籍で読書をしているのだが、たまには紙の本もいいよねと思い立ち書店に向かった。

    書店に行くと僕はめぼしい本を見つけてはkindle電子書籍にあるかどうかを確認する。
    どうせなら現時点では電子書籍化されていない本の方が読みたいし、その方が所有欲を満たしてくれる。

    そして数冊の本を購入する。

    その中に「このホラーがすごい!」という本があった。
    その年のホラー小説をランキング形式で発表していたり、ホラー作家へのインタビュー記事が掲載されている本だ。

    ホラー好きならホラーの現在地を知っておかないとなーと通ぶって調子に乗り浮かれていた。

    そんな軽い気持ちでホラーと接触しているから怖い思いをしたのかもしれない。


    久しぶりに紙の本を購入し浮かれて帰宅。
    さっそくコーヒーを淹れ「このホラーがすごい!」を読み始める。

    ランキング一位は「深淵のテレパス」という作品だった。

    ふむふむ。

    表紙は見た事がある。
    創元ホラー長編賞受賞作とある。

    一位というからにはきっと面白いのだろう。
    これはいちホラーファンとして読破しておくべきだ。

    そう思い買ったばかり「このホラーがすごい!」を脇に置き、スマホのkindleアプリから「深淵のテレパス」を検索する。

    残念。

    読み放題には含まれていない。

    ではaudibleオーディオブックではどうか。

    おぉ。

    あるぞあるぞ。

    「深淵のテレパス」があるぞ。
    あらすじは

    「変な怪談を聞きに行きませんか?」会社の部下に誘われた大学のオカルト研究会のイベントで、とある怪談を聞いた日を境に高山カレンの日常は怪現象に蝕まれることとなる。

    とある。

    なるほど面白そうだ。

    さっそく聴きはじめよう。

    紙の本を脇に置いたまま僕はオーディオブックを聴きはじめる。

    客観的に見れば、この行動も少しホラーな要素をはらんでいるように思う。
    買った本をまず読めよ!とツッコミたくなる。

    僕はランキング一位の面白さにワクワクしていた。

    そして物語が始まる。

    と、ここでホラーな事が起こり始めた。


    「僕はこの本を読んだことがある気がする」



    冒頭を聴いてすぐにそう思った。

    しかしそんな記憶はまったくない。

    「このホラーがすごい!」での紹介文を読んだからそう思ったのだろうと自分を納得させて続きを読み進める。

    おかしい。

    やっぱり読んだ事がある気がする。

    しかも活字で。
    そんなイメージが僕の脳裏をよぎる。

    僕は一旦オーディオブックを止め、kindleアプリを起動する。

    よく電子書籍を衝動買いする僕が過去に買って読んでいた可能性に思い至ったからだ。
    しかし購入履歴はなく、もちろんライブラリに「深淵のテレパス」はない。

    過去に読み放題だった期間があったのだろうか。
    でも読了したという記録もない。

    電子書籍で読んだ痕跡は皆無だった。

    やはりただの思い過ごしか?
    強烈なデジャブなのか?
    僕が作者の思考をトレースして究極的な先読み能力が発動しているのだろうか。

    疑問は氷解しなかったが、続きが気になるのでオーディオブックを再開する。

    少し怖いな。

    本の内容ではなく、この「読んだ事がある」という既視感とそれが何故なのか原因が不明なことが。

    読み進めるにつれ「あーこの先はたしかこういう展開だな」と思っているとその通りにストーリーが進んでいく。

    やはり僕はこの本を読んだことがあるようだ。

    しかし一体いつ。

    まさかタイトル通り深淵からのテレパスで僕に続きを教えているとでもいうのだろうか。

    結局、原因はわからないまま僕は「深淵のテレパス」を楽しむ。

    ホラーな状況でホラーを読むというアホな事をしていたのである。

    でも、このホラーな状況も案外悪くはない。
    今の不思議な心理状況を覚えておこう。
    いつか小説を書くときに役立つかもしれない。

    そんな事を考えながら読み進めていると、さらにホラーな事実に行きついた。

    もはや確実に僕はこの本を読んだ事がある。
    それは動かしようのない事実なのだ。

    なのに。


    僕は結末をまったく覚えていない。



    この事実が僕を恐怖させる。

    読んだことを覚えていないのであれば、本を読む意味はあるのかという恐ろしい事実に寒気を覚える。

    僕は必死に、読んでいる時間が楽しければいいじゃないか、覚えていなくても。
    と自分に言い聞かせる。

    現に、そのおかげで同じ本を二度楽しむことができているじゃないか。

    ハハハハ。
    お得おとく。

    そうさそうさ。

    単に僕が忘れん坊さんなだけさ。
    履歴も何もないけれど読んだ事があるんだよ。きっと。

    うんうん。

    そこにホラーな要素なんてないない。

    ない…よね…?


     
     
     
    混沌としたアタマの中を隠して「爽やか」に生きることを目指す。 ぜんけいが書くショートショートで描かれる不可思議なことは未来の予言かもしれない。 爽やかエッセイと混沌ショートショートをお楽しみあれ。

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