
屁理屈 【ショートショート】
「ねぇパパ、屁理屈ってどうしていけないことなの?」
小学校に上がったばかりの息子のどうして攻撃が始まった。
私は少しうんざりしながらも答えを頭の中で構築する。
「そりゃ理屈の通らない事を言ったら皆が困るからだよ」
私の曖昧な表現で誤魔化す技術も向上したもんだと思った。
「それはおかしいよ。そもそも 理屈 自体が 理論を折り曲げる みたいな表現なのに、さらにそれに屁をつけるなんて」
息子は疑念の眼差しを私に向ける。
子どもの成長は喜ばしいことなんだろうが、その意見がもう既に屁理屈だと言ってやりたい衝動に駆られた。
読書に集中させてくれと心の中で毒づきながら
「理屈っていうのは、たとえ理論を折り曲げてでも突き詰める必要のある理論なんだよ。でも屁理屈はそうじゃない。屁理屈ってのはただの言い訳なんだよ」
「屁みたいな風で飛んでいくような適当な理論ってことだな」
私は適当に誤魔化す事を止めて、正論を叩きつけた。
これでしばらくは静かにしているだろう。
「ふーん。てことはさ」
「屁の地位が低い事が原因なんだね。なら、屁の地位を高くすれば屁理屈が受け入れられるんだね」
息子は何やら納得したような覚悟を決めたような顔をしている。
「まずは屁の役割から…」
「それをどう認めさせる…」
「屁は悪くない…」
「僕の理論を屁理屈と言った担任を許すな…」
「僕の屁理屈が世の中の真理なのに…」
などとブツブツと言い出した。
少し心配になったが、どうして攻撃がやんだ事に私は安堵した。
しかしこの時、私はもっと親身になって話を聞くべきだった。
屁理屈とバカにせずに真剣に耳を傾けるべきだったんだ。
皆さん、申し訳ない。
それからというもの息子は人が変わってしまった。
寝食を忘れて屁の研究に没頭するようになった。
私が注意すると「うるさい!理屈を並べるな!屁理屈を言え!」と叫んだ。
そんな息子の研究ノートを盗み見たことがある。
そこにはおぞましい計画が記されていた。
屁の重要性を世間に知らしめる為に、屁を魔改造しようとしていた。
息子の主張を要約するとこうだ
「屁は優しい。人体に貯まったガスを痛みなく排出する重要なプロセス。なのに音や臭いのせいでその代替の利かない役割は軽視され、あまつさえバカにする表現に使うなんて許す事はできない。僕は屁の地位を向上させる。そして僕をバカにいた奴らに復讐を」
そんな歪んだ屁理屈の様な幼少期を過ごし、研究職に就いた息子は人の道を踏み外した。
そして、とんでもない兵器を作り出してしまったのだ。
それが【ヘバリクツガス】だ。
皆さんもご存じの通り、このガスを吸うと屁が針状になり腸内に突き刺さり壮絶な痛みを与える。
屁を元の状態に戻すには解毒剤を飲むしかない。
そこで息子は「解毒剤が欲しければ屁に感謝しろ屁の理屈に従え!」と叫ぶ。
人々はどうして良いのかわからずに腸がズタズタになり死ぬ。
これがガスマスクを着けた怪人・屁離苦通が誕生した経緯だ。
私が話を真剣に聞かなかったばっかりにこんなことになってしまった。
世の中の子を持つ親に伝えたい。
子どもは純粋故に純粋な悪に成り得る。
子どもたちの話に耳を傾けるのが大人の役割であり重要な責任だ。
怪人の火種は常に身近にある。
私は今、怪人を生んだ責任をとり【ヘバリクツガス】を大量に吸引した。
お腹が刺すように痛い。
あぁ、こんなにも残酷で苦しい兵器を作ってしまったなんて。
父を殺めたことで息子が正気に戻ることを祈る。
そしてこの遺書を屁理屈だと笑い飛ばされないことも合わせて祈っている。