3つのお題に空想のひらめきを 『約束の駅』
ほら、あそこ。
オンボロの建屋が見えるだろ。
昔の駅舎なんだけどさ、俺がまだこの村に住んでた幼い頃に、火事があったんだよ。
あれだけ燃え残ったんだけど、もう駅としては機能しなくてさ、鉄道そのものも廃線になった。
まあ、もともと利用客が少なかったんだろうな。
あの駅でさ、俺、天狗に会ったことがあるんだ。
天狗、知ってるだろ。あの、鼻の長いやつ。
ホントだって。
火事で廃墟になった後なんだけど、学校の帰りに遅くなってさ、あの駅舎の前を通りかかったら、声をかけられた。
「おい、お前。いつになったらこのオンボロは生き返るんだ?」
見ると、屋内の暗がりに、天狗が立っている。
仁王立ちだった。
怖かったけど、無視して逃げるのはもっと怖くて、
「僕は知らない。大人達がどうするか決めるんだよ」
勇気を振り絞ってそう答えた。
「ならば、お前が大人になったら決めるわけだな。いずれ大人になるんだろ?」
口元が笑っているように見えた。
「僕が大人になってどうするか決めるんなら、僕はもう一度、この駅を建て直して列車を走らせたい」
それは、当時の僕の本当の夢だった。
のどかな田園風景を走る列車を見るのがとても好きだった。
「そうか。では待とう。お前が大人になるのを」
天狗は、暗がりから出てその姿を現した後、僕の目の前で翼を広げ、空高く飛んでいったんだ。
それ以来会っていない。
「それで…あの駅舎にもう一度火をつけると?天狗との約束を守らないのか?」
「守ってどうする。こんな村に鉄道なんか必要ない。子供の頃は分からなかったけど、今ならそれが分かる」
「まあ確かに、鉄道は現実的じゃないな。あの燃え残りも邪魔なだけってことか」
「村の人達の許可は取った。ガソリンまいて一気に燃やしちまおう」
私達は作業に取りかかった。
黒く焦げた駅舎の残骸を、出来る限り解体し、廃材として一箇所にまとめる。
日が落ちる頃には、軽く見上げるほどの瓦礫の山が積み上がった。
「さて…燃やすか」
ポリタンクのガソリンをまき、マッチで火をつける。
乾燥した廃材は、一気に燃え上がる。
その時、遠く山の方から、突風が吹き荒れた。
驚いたことに、その風は、目の前で燃え上がっていた炎を一瞬で消し去ってしまった。
「そんなバカな。風を受けたらさらに燃えるはずなのに」
「あいつが邪魔をしてるんだよ。話が違うだろって」
「分かるのか?…怖くないのか?」
「怖くはないよ。もう、子供じゃないからさ。もう一度、火をつけよう」
その後は、突風も起きず最後まで燃え尽きた。
夜の遅い時間にもかかわらず、村の人達が集まり、駅舎の最期を見届けるように立ち尽くしていた。
「いつ崩れるかも分からない状態で、子供達が興味本位で近寄ったりするから心配でね。夜なんかはホントに気味も悪いし、ありがとね、壊してくれて」
杖をついたおばあさんが、お礼を言ってくれる。
他の人達も口々に、私達の労をねぎらってくれた。
それが聞こえているのかどうかは分からないが、あいつは一人、遠い山に向けて頭を下げていた。
だが私には、あの山の彼方から、
「大人になったお前が決めたんならそれでいい」
そんな声が聞こえたような…気がした。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
