
シロクマ文芸部 『シャボン玉』
仕事の帰り、住宅街を歩いているところで気が付いた。
シャボン玉がひとつ、ついてくる。
フワフワと漂いながら、私から2メートルほどの間隔を空けて。
私が立ち止まれば、シャボン玉も静止する。
歩き出すと、シャボン玉も動き出す。
これはおかしいぞ。
シャボン玉型ドローンなんて聞いたこともない。
いや、あったとしても私を追尾する理由が分からない。
単なるサラリーマンでしかない私を。
振り返って、近付いてみた。
シャボン玉は後退する。
マジか。
一定の距離を保って、私には触れることも出来ないようだ。
目を凝らしてよく見てみると、シャボン玉の中に何かがある。
あれは……操縦席?
ドラえもんのタイムマシンみたいな操縦席に、小さなグレイらしき異星人と思われる存在が乗っている。
あいつが操縦してるのか。
つまりこれは、異星人の襲来、そしてつきまとい事案ということになる。
「おいおい、私になんか用か?異星人につきまとわれる理由は思い浮かばんぞ。金でも借りたか?」
はたから見たら、スマホも持たずに、道端で一人喋るおっさんサラリーマン。
だが、私の言葉に反応したのか、シャボン玉がプルンプルンとその形を変える。
「ん?なんか言ってる?テレパシーとか使えないの?」
また、プルンプルン。
「あのさ、他の惑星に来るんなら、それなりにその星のこと調べて、言語くらいは通じるようにしとかないと。君達の目的だって果たせなくなっちゃうだろ?」
さらに、プルンプルン。
瞬間、駆け寄ってシャボン玉を捕獲した。
両手で包み込む。
破裂しない。
やっぱりこれは、普通のシャボン玉じゃない。
中を覗くと、焦ったような顔のグレイが操縦桿をグリグリ動かしている。
「さぁてどうする?テレポートでもするか?」
茶化すように言うと、私の手の中でプルンプルンしながら、操縦席に座ったグレイが何やら私に抗議しているようだ。
「だから分かんないって。翻訳機とか持ってないの?」
異星人の発達した文明なら、それもアリなんじゃないかと思った。
知らんけど。
それにしても、まさかこんな形で異星人とのコンタクトを取ることになるとは。
と、その時、
「君、何やってんの?」
背後からの声にビクッと震え、思わず腕に力が入り、シャボン玉をパンッと割ってしまった。
「あっ」
シャボン玉、壊れて消えた。
手のひらには何も残っていない。
振り返ると、制服姿の警察官が立っていて、私にライトの光を浴びせてくる。
「なんかさっきから、一人で喋ってるね。通話中でもないみたいだけど」
「あ、いや、今ですね、ここに……」
両手のひらを見せるが、何の痕跡もない。
これでは、変なクスリをやってるのかと思われても言い逃れ出来ないじゃないか。
思わず口をつぐんだ。
それが怪しく見えたのか、長い職務質問となった。
数日後、日本の空に、たくさんのシャボン玉型 UFO が姿を現した。
偵察に出した仲間の UFO が突然消息を絶ち、攻撃を受けたと判断したために報復に来たらしい。
機体がシャボン玉のためかレーダーに捉えられることもなく、無防備な我が国は絶体絶命の危機かと思われたが、ちょうど飛んできた渡り鳥の一群にすべてのシャボン玉が啄まれ、壊れて消えた。
一人のサラリーマンと渡り鳥によって、この国の平和は保たれた。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。