
シロクマ文芸部 『レシートに』
レシートに自分のアドレスを書いて渡した。
彼女が、会計直後にかかってきた電話に出て、話している最中に。
「ごめんなさい、仕事の電話が来ちゃって」
電話を切った彼女は、慌ててレジ袋をつかみ、店を出ていく。
右手に持ったレシートが左手のレジ袋に放り込まれるのが見えた。
他のゴミと一緒に捨てられる運命だろうか。
……まあそれでも、仕方ない。
数日後、彼女が再び店にやって来た。
前回と似たような商品をカゴに入れてレジの前に立つ。
「あ、あの、先日もこのお店を利用させてもらったんですけど、帰ったらですね、レシートになんかアドレスが書いてありまして。もしかして、お店にとって大切なアドレスをメモったりしたものだったら困るかなと思って持ってきたんですけど……」
そっか。そーなるのか。
それにしても、なんて律儀な人なんだ。
「あ、いや、それはですね……あの、僕のアドレスです」
「えっ?」
「僕個人のアドレスです。あなたに個人的に渡したくて」
「えー、えーと、それはまたどーして?」
「いや、どーしてって……連絡が欲しいからですよ、あなたから」
「連絡が欲しいって……何かの勧誘とかですか?」
「いや、そうじゃなくて……あの、彼氏とかはいらっしゃるんですか?」
「彼氏?いえ、今はいませんが……」
「よっしゃ!……あ、いえ、とりあえず、ワンステージクリア、です。次は、僕のことを知って欲しい。このコンビニでバイトしてること以外で」
「あなたのことですか……えーと、まず、この近所に住む奥さんと浮気してますよね。それで、その奥さんを騙してお金を搾り取ろうとしている。その計画が成功しそうなのに味をしめて、新しいターゲットを探しているみたいですね」
「……えっ?」
「私、この街で探偵をやっています。ある男性から、自分の奥さんの浮気を調査して欲しいと依頼がありましてね、いろいろと調べた結果、先日、あなたに直接聞き込みをしようと思ったんですけど、ちょうどその時、当の奥さんから私に電話があったんです。『浮気がバレたのなら、詐欺被害の方の調査もして欲しい』と。それでその足で奥さんのところに向かって、彼女からあなたの情報を聞き出しました。その中にね、このレシートに書かれたものと同じアドレスとのやり取りがあって、お金の振り込み依頼も確認出来たんで、もう確定かな、と」
「えっと……え?あれ?」
「浮気までなら当事者同士での協議だったんでしょうけど、詐欺行為となれば犯罪です。警察への通報も完了しています。このレシートも、写しを警察に提出しておきました。たぶんもうすぐ、あなたのもとへ捜査が及ぶと思います。この辺で観念しておいた方がいいですよ」
彼女は、僕がパニック寸前になりながらも会計を済ませたレジ袋をつかみ、店を出ていく。
右手に持ったレシートが左手のレジ袋に放り込まれるのが見えた。
他のゴミと一緒に捨てられることを祈るが……まあすでに手遅れだろう。
せめて、新しいターゲットに手を出す前に計画を阻止されたことを、不幸中の幸いと思うべきか。
……彼女とは、ホントに付き合いたかったんだけどな。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。