メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【毎週ショートショートnote】古墳症

    小杉かほり

    失恋、あるいは大切な何かを失った直後の「私」。心の中もそうだが、身体的にも胸の真ん中に、ぽっかりと「穴」が空いている。風が吹き抜けるような虚無感を感じていた。
     ところが数日後、その穴の縁から湿った土が盛り上がり始めたのだ。驚いて駆け込んだ病院で、医師は事もなげに告げた。
    「典型的な『古墳症』ですね。大きな喪失感を、土で埋めて封じ込めようとしているんです」
     処方箋はない。ただ、胸の空洞が埋まっていくのを待つだけだ。日を追うごとに、穴は精巧な前方後円墳の形を成していく。土の匂いはどこか懐かしく、その適度な重みが震える心を落ち着かせた。
     表面にはいつしか一面のレンゲ草が咲き乱れ、今では小さな埴輪たちが日向ぼっこをするように並んでいる。私はもう、あの寒々しい風を感じることはない。
     昨夜は、その花畑に迷い込んだ一羽の鳥が、楽しげに巣を作り始める夢をみた。私の喪失は、いつの間にか誰かの賑やかな家になっていたのかもしれない。

    410字


    ※心にぽっかり空いた穴。埋めようとしても埋まらないとき、それは自分だけの『聖域』に変わる準備をしているのかもしれません。
    春のレンゲ草とともに、小さな再生の物語を。


    ※田原さま、どうぞよろしくお願いします。



    #毎週ショートショートnote

    #古墳症

     
     
     
    多趣味。読書、マンガ、国内・海外旅行、ゲーム・ガーデニングなど。 動物だったら犬派。 2025年春からnoteで書く事を始めました。 悲しいことやら何やらいろいろあって、何かをやってないと乗り越えられないと感じたからです。 noteではいろんなテーマの記事を書く予定です。

    あなたへのおすすめ