
【毎週ショートショートnote】未練配達員
「俺は長年、未練配達員をやってるんだがね、このまえ初めて受け取り拒否されたのさ」
早朝に公園のベンチで休んでいると、見知らぬ人からそう話しかけられた。青い制服に身を包んだ、妙に古風な配達員の男だ。
「へえ…それは大変でしたね。で、その未練は誰から?」
興味を惹かれた俺が尋ねると、男は少し寂しそうに笑った。「宛先は、生きることに疲れた男さ。未練は『まだ生きたい』っていう、その男自身の心からの叫びだ。それを届けようとしたんだが、受け取りを拒否された」
男は俺を真っ直ぐに見つめる。
「え?」
「あんただよ」
男が俺の胸に、一通の手紙を押しつけた。ハッと気づくと、公園の景色が薄れていく。遠くで救急車の音が聞こえた。
俺、昨日…?
「ほら、受け取り拒否すんなよ、生きるんだろ!」
男の声が遠くで響いた。次の瞬間、俺は白い天井を見上げていた。
握られた右手がじんわりと温かい。
泣きじゃくる母の、懐かしい涙の匂いがした。
俺の心臓は、まだ動いている。
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※田原さま、今回もどうぞよろしくお願いします。