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アタヌル・プリゞオス博士の 『占星倩文孊論』に関わる自䌝 【3.研究成果】


    【3.研究成果】



     



    その幎は、“莄の幎”だった。

    9幎に䞀床、神王を茩出するこずを認められた3぀の家《神王家》の1家より、神に呜を捧げる成幎男子を遞出し、“莄人”ずする儀匏だ。

    無駄なこずをしおいるず思う。
    呜は尊いものだ。
    それを党うするでもなく、䞀方的に悲壮な䜿呜を垯びた犠牲者を捧げられる神は、さぞご立腹であろうず私などは思うのだが、それを止めよず䜕者かに告知しない時点で、私はこの信教の“神”の存圚を“人の思念で成り立぀存圚である”にせよ蚝しむのだ。それはその信教が「莄は無駄死に」ず解らせない思想の“神”だからである。

    所詮は、暩力争いの延長線䞊にある祭祀だず蚀わざるを埗ぬのだが、䞖のパナヌれ語圏の人間にずっおは、神聖極たりない儀匏の最䞊䜍に䜍眮づけられるもので、これを吊定しようものなら、猛烈な非難を济びるこずは決定事項であり、己れの呜にも関わるだろう。

    今幎の“莄人”に遞ばれるのは、䞀䜓誰であろう。
    やはり、この幎ばかりはそれが最も熱い話題ずなる。儀匏が行われるのは、幎末の最も日没が早い日、芁するに“冬至”ず決たっおいた。そしお莄人が神王より䞖間に公衚されるのは、幎の半ば、日没が最も遅い日 “倏至”ずされるのだが、話題はもう幎初から少しず぀掚枬の域より巷に発し、予想が付けられおいた。

    「今幎はどこの家だったか。前回はシャントだったから、アペルの家か」

    「そうだな。圓䞻の次匟の䞉男坊が有力らしい。若い方が良しずされる傟向がある。次男坊はもう35歳にもなるらしいから、ただ27歳である末の䞉男坊だろうな」

    「そうだな。長男坊は逊子ずしお、圓䞻の埌継に指名されおいるから無理だろうし、若さず圓䞻の血瞁で近いほうが良いずなれば、䞉男坊が有力なのは圓然の芋方だよな」

    などず、噂は絶え間無く巷間を鳎らす。
    このような時期に、私は己れの収集した資料の取り纏めを行っおいた。宗教色が色濃い空気の䞭だず、科孊的な根拠を基にした孊論は、䞀般的に認知されづらいずいう傟向があった。どちらかず蚀えば、文化的な研究論の方が盛り䞊がり易い。

    故に私の研究もたた、その䟋に挏れず、すぐに拡散されるこずは無いずの芚悟の䞋、それでも1日も早くたずは䞀぀の結論を出しおおきたいずいう願望が念頭から離れず、謂わば埅ち切れなくなり、発衚の段取りを組んだ。

    「急ぎ過ぎではないか お前の研究論文は完璧だず俺も思うが、今少し埅぀べきだ。時期が悪い。お前だっお星の動きを芋お、そう確認しおいるはずなのではないか」

    ラムヌト・ファビルスが、私に助蚀した。
    友人の蚀葉はい぀も的確だった。私はそれを吊定しない。確かに、発衚は時期尚早であるず星の動きからも芋お取れた。“莄の幎”の颚朮もあり、あたり適した時期ではなかった。

    「分かっおいる。だが、私は埅っおおれぬのだ」

    私は答えた。然し、友人は煮え切らない思いを曎に匷くしたようだった。

    「䜕をそれ皋急いでいる 次の論文の準備をしお、同時期に発衚した方が䞖に匷い圱響を䞎えられ浞透し易い。ほんの少しの蟛抱だろうが」

    「分かっおいる、ず蚀っおいる。だが私は早く発したい。早く蚀いたくお我慢ならぬのだ」

    私はそれでも譲らなかった。
    論文自䜓は、既に昚幎の暮れたでに曞き終えおいた。それをラムヌトに読んで貰っおもいた。

    「画期的な孊論だ。だがな、旧い䌝統重芖の颚朮が匷たる、この儀匏の幎だけは避けたほうが良い。反発を喰らうぞ。そうなったら、お前が心血を泚いで創り䞊げたこの珠玉のような孊論も、時代の闇の奥に埋もれおしたうかもしれないのだぞ この孊論は䜕幎埅ずうが叀びるこずは無い。誰も蟿り着けない圢にたで、お前はこの孊問を完璧に緎り䞊げ、応甚領域ぞもあず䞀歩ず迫っおいる。お前より先にこの孊論を発衚できる者など、この䞖には存圚しない。䞀読したこの俺でも、これを自らの蚀葉で発衚しようずいう自信は党く無いのだ。そのくらい質が高い。 芁するにだ これはお前にしか創造・到達出来ない孊問だ。远随出来る者などいない。そのくらい先を行っおいる だから、せめお、今幎は 今幎だけは、やめおおけ。新しい孊問を普及させるには適しおいない。せめお、次の幎明けにしたほうがいい」

    私の為に熱匁を振るっおくれる友人に、私は「有難う」ず返した。

    だが 時間が無かった。

    「ファビルス。これから蚀うこずは、リヌザラには絶察に口倖しないでくれ」


    「  䜕だ」


    私は䞀瞬だけ息を止め、倧きく吐き出した。


    「私の呜は、あず䜕幎も持たない」


    「䜕だず」


    ラムヌトは目を芋開き、劻ずよく䌌た顔を歪めた。


    「長くお、あず5幎 持おば良いだろう」

    「それは、星読みでの解析か」

    「それもある。ただ、自分でも感じおいる。胞に違和感がある 恐らく心臓ず関係しおいる」


    圌は䞀旊口を閉じたが、私が沈黙するず、い぀もは䌞びやかに匵っおいる声を小さく震えさせ、䞊目遣いに私を芋぀めお蚀った。


    「だから、急いでいるのか」


    私は頷く。良い機䌚だ、圌には䌝えおおきたいずかねがね思っおいた。私には芪類がいないのだ。私は長子であるが、匟効たちは皆10歳になる前に流行病で息を匕き取っおいた。既に䞡芪も他界しおいる。プリゞオス家は短呜が倚かった。マランやフィストの死は、私の血筋ゆえだずも蚀えなくは無かった。
    それ故に、私の亡き埌の、劻ず子等のこずを圌に頌んでおきたかったのだ。


    「そういうこずだ。悪いが私の死埌は、リヌザラず子ども達のこずを気に掛けおくれるず助かる」


    私は頭を䞋げお、圌に自分の思いを䌝えた。


    「それは、構わない。任せおおけ。だがな、それでも俺は お前の発衚を止めるからな。あれが日の目を芋ないなんお勿䜓無いも過ぎる 況しお、非難の察象になるなど、それこそ我慢ならんからな」


    私は心から、良い友に恵たれたず感謝した。

    だが、私の心は倉わらなかった。



    「ならば、今すぐ私を殺せ。それ以倖、私を止める方法は無い」



    斯くしお、ラムヌトの懞呜な阻止の蚀葉があったにも関わらず、私は論文を提出するに至る。
    䞍枬の事態に備えお完璧な写本を3冊線み、1冊は芪愛なる友人ぞ預け、残りの2冊のうち1冊は自分の控えずしお手元に所持し、あずの1冊は予備ずしお曞庫に保管した。

    冬が去り、春の日差しが窓から差し蟌んで来る。
    私は目を现めお、冬の枯れ枝にようやく芜吹き出した黄緑色の若い葉が光を济びる様を芋぀めた。
    その䞀矀の枝は、昚幎の暮れ近く、アリ゚ルが投げ瞄をしお遊んでいた枝々である。私はそれを思い出し、僅か数ヶ月前の出来事であるのに、懐かしく感じおいた。

    「アタヌル。ルヌが、貎方に蚊きたいこずがあるそうですよ」

    「 ルヌセラが  珍しいな」

    母芪の背に隠れるようにしお、はにかんだ桃色の頬をした嚘が、ちょこんず顔を芗かせお、父芪の様子を窺っおいた。
    この子も、もう12歳だ。女性らしさが少し芜生え始めおいる。色癜な肌に切長の倧きな瞳。芪の莔屓目かもしれないが、若葉のように初々しく矎しかった。

    「䜕だ 䜕を蚊きたい」

    然し、近頃はルヌセラずは䌚話を䜙りしおいなかった。嚘は日䞭は孊校に通い、私は倧孊の研究宀で教鞭を取り぀぀、倩文孊者の垞で倜間孊内に泊たり蟌むこずも倚い。自宅では寝るか、昚今は曞斎に立お籠っお、孊論を執筆、掚敲したりするこずが殆どで顔を合わせる機䌚も以前より枛っおいた。
    それが、久しぶりの嚘からの指名である。䜕を蚊かれるのか、少々緊匵しおいるず、ルヌセラは母に背䞭を抌され、私の前に出お蚀った。


    「今のお仕事、終わったら 私にも、教えお貰っおいい」

    「 ん 䜕を、教えお欲しい」

    「お星様のこず。 倩文孊、父様の」

    「星のこずが知りたいのか」


    嚘は倧きく頷いお、倧きな瞳を最たせた。


    「そう。䜕で、お星様は昌間は芋えないのに、倜になるず珟れお、きらきら光っお芋えるの それに、そもそもどうしおお空にはお星様があるのかずか 色んなこず知りたいの」

    そんなこずを考えるようになったのだなず私は嚘の成長を思い、感慚深い気持ちになった。しかも、劻の差し金もあるのだろうが、倩文孊に関しおである。嬉しくない筈が無かった。

    「いいずも。い぀でも蚊きに来るずいい ルヌ、私の知っおいるこずなら、䜕でも教える。いや党お教えるぞ」

    「うん」

    嚘は埮笑んだ。はしゃがずに静かに笑う。でも、喜んでくれおいるのは私には十分に䌝わっおいた。こういうずころの性栌は、劻ではなく私に䌌おいるように思えた。倧人しいけれども、決しお感情が薄い蚳ではないのだ。むしろ、心の内は目に芋えお隒ぐ者よりも、ずっず濃く染みるように深い。


    「たあ、私は久々に貎方の笑顔が芋られお、安心したしたわ」

    リヌザラが傍らで芋守りながら、私に蚀った。

    「 私は、笑っおいたか」

    「はい。私には分かるのですよ、劻ですからね」


    嚘はひずたず郚屋を出お行ったが、リヌザラは残っおいた。
    腰掛けおいる私をじっず芋぀めお、ゆっくりず歩み寄っお来た。䜕か蚀うのだろうかず埅っおいたが、劻は䜕も蚀わず、ただ私の右肩にそっず手を添え、もう片方の手で私の顎に觊れ、優しく䞋から䞊に撫で䞊げる。そしお、空気を吞うよりも自然に圌女は私に口付けた。

    「 お疲れ様でした、これで少しは私に構っお䞋さるのかしら」

    圌女の唇からニャスム玅茶の銙りが埮かに挂う。私はその銙りを忘れたく無いず思った。
    心が和むようで有りながら、誘っおいる眠のような銙り、それに嵌っおしたいたいず思った。

    論文を提出したこずで、ひず段萜したのは確かだった。劻はそのこずを蚀っおいるのだろう。

    「そうだな でも、今回よりは急がぬが、次の論文の準備もしなくおはならないず思っおいる。今回のものの補助的なものにはなるが、より深い理解を埗られる内容のものにしたい」

    「そうですか。貎方は、孊問を劻ずしたほうが、幞せのようですね」

    「リヌ、それは本末転倒ずいうものだ。私の孊問は 」


    「敬愛なる、アタヌル・プリゞオス博士」


    私は、自分の蚀葉を遮られ、ただ劻の蚀葉を埅぀しか無かった。


    「 貎方は、私の誇り。䞖界で最も優れた孊者ですわ。そしお、私は、その劻なのです」


    私は遂に䜕も蚀う事が出来ないたた、ただ劻のい぀より長い抱擁ず愛撫に身を任せた。


     


    「ねえねえ」

    アリ゚ルが倖から垰っおきた。近所の子ども等ず遊んできたようで、少し息を匟たせおいた。
    扉をばたんず閉じるず、アリ゚ルは正面から母の腰に腕を回し抱き瞋った。
    その衚情は、暗い蚳では無かったが、どこか䞍安そう芋えた。い぀もより声の調子も䜎い。

    「どうしたの アリ゚ル」

    リヌザラが目線を息子に合わせお屈むず、アリ゚ルは母の身䜓から少しだけ離れお、じっず圌女を芋぀めお蚀った。


    「あのさ、『けんきゅうせいか』っおなに」

    「 研究成果 そうね、沢山調べお分かったこずから、䜕かが出来るようになるこずかしらね」

    劻が説明するず、アリ゚ルは「ふヌん」ず分かったような分からないような顔をしお、銖を傟げる。

    「そうなんだ。じゃさ、がくは『けんきゅうせいか』なの」

    「え」

    「 いわれたんだ、マルストンのおずうさんから。“きみは、はかせの『けんきゅうせいか』だね”っお。なんか、わらっおいわれたんだけどさ、よくわかんなかった」


    私は、持っおいた5冊ほどの曞物をばさばさず党郚床に萜ずした。曞庫の奥の方を持っお、ようやく出しおきた埃たみれの分厚い本の束は、焚曞したずきのような煙たい埃を立ち䞊らせ、郚屋の空気を汚した。

    劻は私を振り返った。
    そしお、青ざめた倫の顔を確認するず、すぐに立ち䞊がっお私の方に近づき、支えるように寄り添っおくれた。実際私は立っおいるのがやっずくらいの衝撃を受けおいた。


    「アタヌル、貎方の研究は䜕も間違っおなどおりたせん そのような卑猥な冷かしをしおくる者こそ、䜎胜で䞋劣なのです。貎方の研究の真実を䜕も知らぬ連䞭です。気にする必芁はありたせん」


    私の論文ずその講評が、倧孊の研究誌に掲茉された。それからただ3日皋しか経っおいない。それなのに、もうこのような民間に話が広がっおいるこずに䜕者かの悪意を感じた。アリ゚ルの幌銎染みの父芪は玙工堎の工員である。蚀っおは悪いが圌のような孊歎軜芖の劎働者が王立倧孊の研究誌の䞀孊論の内容などをいち早く読む蚳が無いし、たたそのような䞀般人が早々に読めるような出回り方もしおいないはずだ。故に知るには、早過ぎる。

    教䌚の連䞭か。
    或いは、神王近蟺の倧孊関係者か 。
    䜕れにしろ懞念した事態に晒されおいるのは間違いない。そのずばっちりが寄りによっお、最初に息子に来るずは、そこたでの予想はしおいなかった。私の思慮の及ばなかったが故の結果ず蚀わざるを埗ない。
    そしお、䜕よりも幌い我が息子に䞍快な思いをさせおしたったこずに察し、私は蒌癜ずしおいた。


    「私より、アリ゚ルを 」


    そう蚀うのが、やっずだった。


    「ずうさた。がくは、ずうさたの『けんきゅうせいか』なの」


    そうでは無い、ず蚀い切れないずころに私の匱みがあった。アリ゚ルの誕生は、研究過皋で“詊隓的”に関わっおいる。ただ“詊隓的”ずいっおも、ほが確実だず睚んでの詊隓であった。それを『研究成果』では無いず、吊定は出来ない。


    「そうですよ、アリ゚ル」


    劻が悩む私の偎で、はっきりず息子にそう告げたのには、正盎驚いた。


    「あなたは、父様が䞀生懞呜に調べお考えおたくさん悩んでくれたから、生たれたのです。それは父様の研究の賜物です。別に恥ずかしいこずなどありたせん。あなたは父様ず母様が望んで生たれた子なのですから、ほかのお友達ず䜕も倉わりたせんし、寧ろお友達よりも匷く望たれ深く愛されお生たれお来たのです。私達のあなたぞの愛情はマルストンのご䞡芪にも決しお負けたせん。よく芚えおおきなさい」


    劻の匷い蚀葉に、私は涙を流しおいた。

    アリ゚ルは、少しの間ぜかんずしおいたが、母の蚀葉に嘘が無いこずは感じたようだった。


    「うん、わかった。がくは、ずうさたの『けんきゅうせいか』でいいんだね それはべ぀にわるいこずじゃなくお、よかったこずなんだね」

    「圓然です。あなたがもし悪い子だったら、成果ずも呌べたせんから」


    劻はぎゅっずアリ゚ルを抱き締めお、愛おしむ。
    私はやはり、研究は正しいこずだったず確信し、もう迷いは無いず思った。


    それが、神倩星暊2463幎の初倏。
    倏至たであずひず月ず迫った日のこずであった。





    続く



     
     
     
    連茉小説『僕は君になりたい。』『1番目アタヌル、アタヌル・プリゞオス』を䞭心に詩や短線、随筆、むラスト等。

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