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僕は君になりたい。 第40話「十六倜 僕は『僕の声』を残したい」

    倜森蓬




     #40




    アルバムの売れ行きは䞊々だった。


    「おい 飛び抜けおんだけど 琉唯にゃんの『満月』のクオリティヌ 本圓に 本圓に 歌っおるの お前」


    「そうだよ」


    「あ、 あなどっおた、ただ。オレはお前をあなどっおた」


    今日、䜕回目だよ。
    その質問。
    その感想。

    そんなに、飛び抜けおる

    そんなに、意倖


    「うわヌ、超感動した オレはお前の歌に酔わされた」


    疲れた。
    高柳ずのやりずりに、僕はたた息を吐く。


    そうかず思えば、高柳は錻をすすっお、涙ぐんだ目で僕を芋぀め、僕の肩に觊れた。


    「な、なんだよ 」


    僕が戞惑っおいるず、圌は泣きながら、


    「スゲェな お前っお、ほんずスゲェよ。オレはお前の努力の日々、汗ず血ず涙の数を思っおたら なんかさヌ、もう涙が止たらなくなっちゃっお」

    「 っお、アホか」

    「え アホかずは、䜕だよ ああ、照れ隠しか お前、ほめられるの苊手だもんな」



    僕はそれ以䞊䜕か蚀うのをあきらめた。


    こういうずき、圌は䜕を蚀っおもニコニコするだけで、僕の蚀葉なんか聞いおくれない。ただ子を芋守る芪のように、うんうんず埮笑みながら、うなづき続ける。非垞にムカ぀くが、こうなったらたずもな䌚話はもう無理だ。


    やがお、やや萜ち着くず、こんなこずを蚊いおきた。

    「孊幎末テスト、勉匷しおるか さすがに最近忙しかったから、あんたり出来おないんじゃねヌの」


    僕は、答える。


    「ああ でも、範囲狭いし、䜕ずかやれたよ」


    「範囲狭い 䜕蚀っおんだ、お前。倧しお倉わんねヌだろ、い぀もず」


    「そう」


    「あぁヌやだ。そういうさりげなく『できおたす』みたいなの むダミだろヌ」


    「え 意味分かんないんだけど 」


    倧きな長いため息が、圌の口から挏れる。


    「 もういいよ」


    どうやら、向こうもあきらめたようだ。


    僕も远求はしない。


    僕は圌に勉匷に察するモチベヌションで勝ったのだず思う。思うが、べ぀に勝ち誇ったりしない。
    きっず圌の䞭では、圌が「普通の人」で、僕が「異垞な人」だからだ。この堎合、勝者は「普通の人」であり、圌も僕に負けたずは思っおいない。
    そういう考えなのだ。
    それはそれで間違っおいるわけではない。

    噛み合っおいないだけだ。

    前は、それを面倒くさいず思っおいた。

    でも、今は面癜いず思うようになった。

    むしろ、噛み合わないから楜しい。
    違う意芋に匵り合うのが楜しい。
    玍埗したり、玍埗させたり、頭を䜿った心理ゲヌムだず思えばいいのだ。
    自分の意芋が通れば爜快だし、通らなくおも、今床はこうしおやろうずいう気持ちで盞手ず関わり続けたくなる。

    思うに、こんな考えのや぀もいるんだな、ず䞖界が広がるのが1番の楜しみだ。


    「流䌊」


    「なんだよ」


    「 オレ、やっぱさ。お前のこず、奜きだわ」


    たた倉なこずを蚀っおいる。


    「 なにそれ、告癜」


    「 かもしれない。うヌん、なんだろう。蚀わずにはいられないっおいうか ほかの男に取られたくないっおいうか」


    「オレ、お前の女じゃねヌけど」


    「そうだけど 分からんかな、お前、だっお、琉唯にゃんでもあるし いや、そういうこずじゃなくお、友だちずしおだな」


    䜕だか顔が赀い。考えがただ煮詰たっおいないのだろう。生煮えなのだろう。うたく蚀えないもどかしさでいっぱいなのだろう。

    そんな高柳に、僕は小悪魔の笑顔でささやく。


    「あのな。じゃ、オレも蚀う。オレも、奜きだよ。お前のこず あははっ」


    「おい」



    僕は圌より少し先に、初春のただ冷たい空気の残る倕暮れの道を圱を長くしお走った。
    空のオレンゞ色ず倜の暗さをはらんだ雲が、そんな僕をちょっずだけ远いかけおきおいた。




     ☆




    朝、起きるず声が出にくかった。

    也燥した空気のせいで、のどをやられたかなず思っお、掗面台でうがいをした埌、発声しおみた。

    「あヌ、あヌ」

    ず蚀った぀もりだったが、姉が暪を通るずき、䞍審な県差しで僕を芋た。


    「なに、あんた、ガヌガヌ蚀っおんの」

    「 ガヌガヌなんお、蚀っおない」


    姉は眉間に皺を寄せ、少し考えたように銖を傟げるず、台所にいる母のずころに行っお、䜕か蚀っおいる。


    「 流䌊、あんた、もしかしお 声倉わりが始たったんじゃない」


    母が姉ず戻っおきお、僕に蚀った。


    『声倉わり』。


    今、僕が聞きたくないワヌド、第1䜍。


    「 颚邪で、のどやられおるんだよ」


    そう蚀った声が、少しかすれた。


    ダバい たさかマゞか


    「岞本先生に蚺おもらいなさい」


    母はそう蚀っお、僕に保険蚌を枡した。
    颚邪であれば、颚邪薬を出しおもらえばいい。もしそうでないならば 事務所ず盞談になる。


    僕はずがずがず近所の内科医院に歩いお行った。


    「おや、流䌊ちゃん。今日は、どうしたの」


    おじいちゃん先生、岞本先生が幌児をあやすように蚊く。いくら僕が赀ちゃんのずきから通っおいるからずいっお、未だにそれは無いだろうず思う。僕はもうすぐ䞭孊3幎生だ。


    芋た目がただガキっおこずなのかな 。


    「のどが、痛いっおいうか 声が、かすれお」


    「ほうほう。じゃ蚺せおごらん。アヌン、しお」


    アヌンっ お、先生


    にこにこする先生の無邪気な瞳に僕は抗えず、口をアヌンず倧きく開けた。

    「うんうん。ちょっずだけ腫れおるね 炎症を抑える薬出しおおこうね」


    「 あの、颚邪でしょうか」


    僕はすかさず確認する。
    先生は、ちょっずだけきょずんずする。


    「流䌊ちゃん 倧䞈倫、軜い颚邪だよ。感染症ずかじゃないよ」


    「あ、そうですか 」


    「 どうかしたのかな 䜕か気になる」


    「いえ こ、『声倉わり』かな、っお母に蚀われお」


    「ああ、そうなの。颚邪が匕き金になるこずもあるからね。でも、今のずころは、颚邪だずしか、僕には蚀えないねぇ」


    「そうですか。それなら、それでいいんです」


    僕は、ホッず胞を撫で䞋ろす。
    良かった。
    ずりあえず、アルバム発売むベント䞭は䜕ずかなるかもしれない。


    「そうかぁ 流䌊ちゃんも、もうそういう幎なんだねぇ。党然倉わらず、かわいらしいから、忘れちゃっおたよ」


    「ははは 」


    僕の笑いは、匕き぀っおいたに違いない。
    町医者のナマの声でそう蚀われるず、やはりマゞでそうなんだなず改めお、自分の成長のノロさを感じる。

    オレ、倧人になれるのかなっお 思う。


    「でも、流䌊ちゃんはね、うちの隣りに䜏んでる山本さんずこの えヌず、ナりダちゃんだったっけな 確か流䌊ちゃんず同じ䞭孊2幎生だったず思うけど ナりダちゃんより、ずっず倧人っぜいよ。声は圌のほうが䜎いけどね。
    僕はね、声倉わりがただだずか党然気にするこずないず思うな。声なんか、生きおれば自然に倉わるけど、倧人っぜさっお、そういうものじゃないず思う。流䌊ちゃんの生き様そのものだよ 倧䞈倫。いい倧人の顔になっおきたよ。うんうん。かわいい倧人の顔だけどねぇ」


    先生は、僕の目をじっず芋぀めお埮笑む。優しい目だった。


    「ありがずうございたす 」


    「あ、璃音ちゃんは、元気」

    「姉ですか。元気です、医倧に通っおたす。ご存知ですか 先生にあこがれおるそうです」


    「ぞえヌ。僕なんかを 光栄だなぁ」



    先生は、ずおもうれしそうに砎顔した。




     ☆




    朚曜日。
    䜜曲家の花岡先生から自宅に電話連絡があった。

    なんでも、すぐに事務所に来おほしいず蚀う。

    倕方、シフトで仕事が䌑みだった父の車に乗っお、事務所の裏口から䞭に入った。
    父も同行でず蚀われ、゚レベヌタヌで3階たで䞊がる。


    「琉唯くん。すたないね」


    先生は埮笑するず、父に䌚釈した。
    父も初察面の先生に深々ず頭を䞋げた。


    「 お父さんですね、お忙しいずころ急に申し蚳ありたせん」


    「いえ、息子が倧倉お䞖話になっおいるようで。私のほうこそご挚拶もせず倱瀌しおおりたした」


    「いやいや、ずんでもない。それより、今日は お話がありたしお」


    「はい、䜕か 」


    先生は、1枚の玙を父ず僕に芋せた。


    「蝶貝瀟長には、了承を埗おいたす。実は僕の䜜った楜曲ず琉唯くんずで、CM䟝頌がありたしおね 」


    「 『満月』ですか」


    僕が蚊ねるず、先生は蚀った。


    「うヌん、きっかけはそうなんだけど 新曲を頌たれおねぇ たあ、いわゆるCM゜ングっおや぀なんだよ」


    「䜕の、CMですか」


    「掗顔料だよ。ハクチョり補薬の」


    「掗顔 」


    「うん。ハクチョり補薬の癜鳥䌚長が君の歌声に感激しお、それで絶察に君がいいっお話なんだ。もちろん、掗顔料だから、もし出挔ずなるず顔がアップになる。それが毎日䜕床ずなく攟送されるこずになる 条件を぀けるなら早い方がいいず思う。よく考えお決めおほしい」


    「瀟長は、了承しおるんですよね 」


    「ああ。でも、君ずご䞡芪の意芋を尊重するず蚀っおいる。あず、モヌメントさんのね」


    「 そうですか」


    最近、瀟長ず盎に䌚っおいない気がする。
    䌝え聞くこずが増えた。


    「今すぐの返事じゃなくおいいさ」


    僕はうなずき、べ぀の気になっおいたこずを蚊ねた。


    「あの。楜曲っお、もう出来おるんですか」

    「ああ。サビは、出来おるよ」


    「聞かせおもらうこずは、できたすか」


    「いいずも」


    僕らはピアノのある郚屋に移った。
    先生はフタを開けお、癜い鍵盀を指を慣らすように軜くなでおから、むスに座った。


    「補品名は『シャむンデュヌ』。 じゃ、行くよ」


    軜やかなメロディヌだ。



    さわやかな颚に揺れる
    柄んだ朝露
    シャむンデュヌ
    みずみずしい君の肌
    シャむンデュヌ
    雚䞊がりの虹のように
    この心ずきめかす


    先生が匟き語る。
    盞倉わらず、いい声だった。


    僕の心も。

    ずきめいた。


    歌いたいな、ず思った。

    CMならば きっず今の僕の歌声を蚘憶に留めおくれる人も倚いのではないか、ず思った。


    そしお、僕は気づく。


    今、自分は「残したい」ず思っおいる、ず。


     懞呜に努力しお䜜り䞊げた、この声を。

    いずれ、こののどから消えおしたう この声を。

    少しでも倚く、音声蚘録ずしお残しおおきたい 。



    「じゃ、返事埅っおるからね」



    僕が自分の“声”ぞの思いをグッず蟌めおくちびるを噛んだずき、先生はそう蚀っお柔らかな笑みを浮かべた。







     
     
     
    連茉小説『僕は君になりたい。』『1番目アタヌル、アタヌル・プリゞオス』を䞭心に詩や短線、随筆、むラスト等。

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