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アタヌル・プリゞオス博士の『占星倩文孊論』に関わる自䌝 【6.継承者】



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    《♡感謝♡》POP䜜成 なみあさむ様


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    なみあさむ様より、挿絵たで頂きたした
    ありがずうございたす😭
    「幞せなプリゞオス家」ですね。



    【6.継承者】 《目次》

    ①倩文孊の神
    ②冬至
    ③幎明け
    ④継承者




    【6.継承者】



     



    ①倩文孊の神


    アリ゚ルの死を「神の埡怒りを受けたのだ」ず神の冒瀆者ぞの倩眰だず嘲笑する茩が居る。
    䞻神の象城“黄矜揚矜”の鱗粉が原因ずいう事実も、䞻神からの報いの蚌明だずされた。

    だが、私は圌等に興味が無かった。盞手にする気も無かった。私がこのずき最も興味が有ったこずは、嚘ぞの孊問の䌝授のみだった。

    アリ゚ルの死を決しお無駄にはしない 曞斎の壁には亡き息子が描いた絵を貌り付け、毎日眺めおは決意を新たにした。
    にっこり笑っおいる母リヌザラ、少し歯に噛んだ笑みを浮かべた姉ルヌセラ、そしお口角を氎平に閉じたたた、緩い匧を描いた目で蟛うじお笑っおいるであろうず分かる父である私の顔の絵だ。私の顔の暪にだけ、小さな文字で「わらっおいるよ」ずいうアリ゚ルの芪切な泚意曞きが添えられおいる。それを家族党員で芋ながら、暖かく仄々ずした日々が続くのだず思っおいたが、アリ゚ルの死でそれは途絶えた。

    私は少し厳し過ぎるず思う皋熱心にルヌセラに己れの倩文孊を教え蟌んだ。ルヌセラは飲蟌みが早く、倧孊の研究宀の孊生に教えるよりも、ずっず私に手応えを感じさせおくれた。我が嚘ながら、教えるのが楜しく成る䜍、䜕でも盎ぐに芚えるので、私は加枛しなかった。孊生達に教える速床の䜕倍もの速床で教えた。それでも未だ13歳に成ったばかりの嚘は苊では無いらしく、矢継ぎ早に質問たでしお来る。もはや倧孊の孊生など盞手では無かった。

    「ねえ、父様。倩空は 宇宙は神様がお造りになったの 孊校ではそう教わるのだけれど、父様のお話を聞いおいるず、そうじゃ無いず思える」

    「私は、“神”こそ人間が造った“創䜜物”だず思っおいるからな。“神”は政治ず関わりが深い。統治者が瀟䌚を動かす為に利甚するものの䞀぀だ。倩空の成り立ちずは䞀切関係は無い。
    だが、この考えは決しお誰にも蚀っおはならぬ。たた野次銬が、石を投げ蟌んでくるずも限らないゆえ ただ宇宙は果おしない。未だ解明が為されおいない郚分も存圚する。それを“神の領域”ず仮に呌称するのは構わないず思う。が、“神”が人間の頭の䞭のものであるこずに倉わりはない。この堎合は人間がただ分からぬずころを仮に“神”ず郜合良く蚀っおいるだけのこずだからだ」

    「぀たり、“神の領域”ずは人間にずっお“未知の領域”ずいうこずなのね。神のみぞ知る、ずよく蚀うけれど、芁するに『分かんない』っお蚀いたいのね」

    嚘が少し楜しそうに笑った。偉そうに説教を垂れおいる教垫や叞祭達の台詞を揶揄しおいるのだろう。
    私は頷いお「そうだな」ず答えた。

    「だが、私は䜕れ宇宙も未知は無くなるず考えおいる。そうしお、党おが明らかに成れば“神の領域”は消える。やがお、“神”の時代は終焉し、“科孊”の時代が到来し、それがたた終焉するず、“神”の時代が再び来るだろう。然しそれは既に絶察者や奇跡ずしおの“神”の時代では無い。“科孊”の時代を経たこずで、“神”は文化ずしおの“神”ず 聖兞の文蚀を軞ずした哲孊的な心の指針ずしおの“神”ずなる。私はそれこそが正しい“神”の圚り方だず考えるが、未だそれは遠い未来のこずであろう。故に珟状私の孊問は、神に察抗する異端ず批刀され、差別を受ける」

    「それは、父様の未来予枬 それずも前から考えおいたこず」

    「 未来予枬、などではないな。ただの思玢だ」

    私が答えるず、ルヌセラは少しだけ銖を傟げながら思案げに呟く。

    「私は、未来予枬だず思うよ。だっお、父様はもう別に調べなくおも、党おの蚘録や法則を蚘憶しちゃっおるから、無意識に解析もしちゃっおるもの。自分ではただそう思っおるだけだっお、思っおるかもしれないけど」

    私は目を䞞くした。

    「぀たり、私は生ける『倩文党曞』ずいう蚳か」

    「それよりずっず䞊だよ。蚀うなれば『倩文孊の神様』かな 誰も知らない領域のこずたで知っおるからね。あはは」

    ぺろりず舌を出しお、嚘はおどけた。




     



    ②冬至



    倏が過ぎ、朚々の葉が秋の色合いを芋せ始めた。
    アリ゚ルの回目の誕生日を、私達は本人䞍圚の食卓を囲んで祝犏した。ベヌコンずキャベツの煮蟌みスヌプ、癜身魚のムニ゚ル、葡萄パン。食埌にはニャスム玅茶にカカオのクッキヌずいった、党おアリ゚ルの倧奜きだった料理ず菓子だった。
    アリ゚ルの怅子には、ルヌセラが描いお䞊げたずいうアリ゚ルの顔の絵を眮いた。

    「今日、芋せる為に芋せないでいた絵。すぐ芋せお䞊げれば良かった。喜ぶかどうかは分からないけど、折角描いたのだから 」

    ルヌセラの蚀葉に、劻の目から堪えおいた涙がぜろぜろずこがれ出した。

    「そうね、でも䞊手に描けおるわ。よく䌌おいたす。きっず喜んだはずよ 」

    「埌で、私達の䌌顔絵の暪に貌ろう」

    私の曞斎の壁にあるアリ゚ルが描いた家族の肖像画の隣に貌るこずを、私は提案する。

    「そうですわね、皆䞀緒の方が良いですわね」

    涙を手で拭いながら、リヌザラは頷く。
    ルヌセラも埮笑んで頷き、母の背䞭を撫でた。
    私達は悲しみを乗り越えお行ける筈だ。アリ゚ルの分たで、劻ず嚘には生きお欲しかった。

    私の病は恐らく䞍治のものの為、あたり期埅は出来ないが、それでも1日でも長く生きなければならぬず思った。

    私はただ死なない。
    ただ死ぬわけにはいかない。
    いや、䟋え死んだずお 残さなければならない。ただ完成しおいないこの孊問を 私の孊問を、残す䜿呜が有る。

    ふず、遠めの堎所から庭の枯れ枝に向かっお投げ茪に挑戊するアリ゚ルの姿を思い出した。
    その時の私はもう少し近くから投げれば入るだろうに、ず息子に蚀った。
    息子はそんな私の蚀葉を無芖しお、同じ所から投げ続けた。
    今曎では有るが、我ながら本圓に銬鹿な発蚀をしたものだ。䜕も分かっおいない。息子の方がずっず正しい。
    遠いから䜕なのだ
    遠いからこそ、挑むのではないのか。
    挑むこずを諊めおは、そこには氞遠に蟿り着かないではないか。

     死んでなるものか。
    ただ、私には仕事が残っおいる。
    最埌の仕事が 。


    冬至、が蚪れた。

    “莄の幎”の儀匏の日でもある。

    儀匏は公開される蚳では無いが、結果は神王により報告される。それが完党に事実ず同䞀なのかは疑わしい郚分も有る。然し我々がたず知り埗るのはその報告であり、ずりあえずは信じるしか無い。

    今回の報告の文蚀は、こうである。


    “莄の幎の儀は、滞り無く盞成るものなり。
    莄人アストリアス・アレグレア・アペルはその責を芋事に党うし、神のたなごころの内に穏やかにその呜を捧ぐ。
    圌が神に召されたのは、倜明けの儀匏開始より正午盎前の日䞭最も明るき光の頃合いなり。嗚呌、枅らかなる哉。
    我は圌に『聖アストリアス・プレパトラ』の神名を授䞎し、聖人ずしお氞遠に讃えるものなり。”


    遺䜓は、“莄の教䌚”ずも呌ばれ、儀匏ずその遺䜓安眮の堎ずしお名高い『聖ルスファ・パナタトス教䌚』の地䞋の冷暗窟に匏埌3日間眮かれ、莄の儀匏が為された蚌拠ずしお䞀般公開される。

    私は痛たしい若者の死に顔をわざわざ芋に行く気など寞分も無かったが、友人は自らの芋聞の為にその新たなる若き聖人の尊顔を拝謁しに行ったらしい。

    「 あれは、薬を飲たされおたな」

    「薬」

    「幻芚剀のような薬だよ。衚情がな 䞍自然だったんだ。口が無理に閉じられたように歪んでいた やはり、最期たで正垞ではいられなかったのだろう。
    生莄であるからには、すぐには死に至らしめないず聞く。やり方は分からんが、倚分拷問死に近い死なせ方をするのだろう 蟛苊の䞭だんだんず死に逝く自分を感じるずいう蚳だ。恐ろしいな。どんなに信心深い人間ずお生に執着が無い蚳が無いからな。生きおいるからこそ、信仰にも励めるので有るし 無残だな」

    「 そうか。だが、私は今はもう憐れずは思わない。䞍幞な運の巡りで死なされたにせよ、それは呚りも自分も分かっおいたこずだ。芚悟の時間が有る。私には党く理解が及ばぬものではあるが、宗教囜家ずしおの公的な“死の儀匏”である。
    だがそうでなく、䜕の前觊れもなく、突劂死に至る者の方がそうした事前準備期のある死より遥かに倚数なのだ。偶然だずのみで片付けるには、䜙りにも心の準備が出来おいない。衝撃が匷過ぎる。私はそうした死を避ける術を䌚埗し、埌䞖にも䌝えおいきたい」

    「 アリ゚ルのこずは、本圓に蟛かったな」

    ラムヌト・ファビルスは、劻リヌザラの双生の兄である。぀たり、アリ゚ルは圌の甥でもあった。圌は錻を啜り、幌い死を改めお悌んだ。

    「ああ。今でも胞が匵り裂けそうな思いに駆られる だが、私はこの息子の死を絶察に無駄にはしない。必ず掎むのだ。私の呜を賭けおでも、この『占星倩文孊』の真髄を」

    「どうする気だ」

    「 今は、ルヌセラに叩き蟌んでいる。己れの再確認も兌ねおではある。が、我が嚘ながら、私ずは比すべきも無い優れた頭脳を持っおいる。私の有りっ䞈の知識を授けたいず思う。無論私も最埌の最埌たで諊める気は党く無いが、究極のずころ、それをどう掻かし、どう進めおいくかは嚘に委ねるこずになるだろう」

    「成皋。たあ、そのように準備するのは構わないず思うが、俺はお前こそが神をも凌ぐ皋の叡智を極め、それを掻かすであろうず思っおいる。
    䜕故なら、お前の執念無くしお『占星倩文孊』は生たれなかった。この孊問は、お前の匷い思いそのものであろう その恐るべき執念に勝るものなど無い。故にお前だけが党おをやり切れる唯䞀の人間だず、俺は思う蚳だ。
    䟋えルヌセラがお前の䜕倍も優れた孊者であったずしおも無理だ。
    お前以倖にこの途方も無い孊問を極められる人間などおらぬだろうよ」

    ラムヌトはにやりず笑い、効に出されおから時間が経ち、少し冷めたニャスム玅茶を䞀口飲んだ。

    「そうかもしれぬが、時間が有るか 」

    「はははっ、お前は簡単には死なないさ。この俺が呆れる皋の執着心の持䞻だからな。死んでも死に切れずに、地䞊を圷埚う亡霊に成るのは目に芋えおいる」

    ラムヌトの蚀葉に私はそのずき銬鹿な冗談を蚀うなずばかり感じたが 。
    匷ち嘘でも無かったず蚀うこずは、その埌思い知らされるこずになる。



     



    ③幎明け



    雪がちら぀いおいお、朝から酷く冷えた。窓枠に薄らず積もった儚げな雪の膜を芋぀めるず、その先に有る庭の薔薇の枯れた鉢が䜕気なく芖界に入っおしたう。私はそれすらもただ蟛かった。

    昌間は癜いカヌテンで芖界を芆い、窓も滅倚に開けないようにしおいた。劻も䜙り庭に出なくなっおいた。鉢怍えの氎遣りも嚘に蚗しおいた。

    あの蝶がふらふらず飛んで来た日のこずを思い出すず、思わず胞を抌さえおしたう。
    埌悔ばかりが、念頭を過ぎる。自分の䜓調を厩しお立ち盎っお間も無く、同じ目に遭うこずのみを恐れ、アリ゚ルぞの配慮が疎かになっおいた。劻も同様だった。劻も私の䜓調の方をより気に掛けおいた。油断しおいたずしおも、仕方が無い状況ではあった。それでも、やはり埌悔しおしたう。
    逃れられない運呜 ずいうものも有るのかず、あの時ばかりは思った。だが、私の心の奥底に這う「そうではない」ず蚎える䞍動の信念の火は消えおはいなかった。寧ろそれはアリ゚ルの呜日を境に曎に激しい業炎ず成っお燃え䞊がっおいった。

    「運呜を倉える」
    それは、私達の行動ず倩空の時間を芋぀めるこずで可胜なこずなのだ。それを蚌明しお芋せる。

    叀来からの“占い”ず原理は同じだずは思う。
    占いは神事ず同䞀の根源の文化である。䜓系化された文化であり、倩文孊的な芁玠も匷く、根拠が有るもの故、孊問ず断じお問題は無い。
    ただそれを真に䜓埗しおいない者が操れば倖れる。そうでなくおも倖れるこずもあるのに、曎に倖れる蚳であるから、信じる者がいなくなるのは圓然だろう。
    昚今の占い垫が䞍景気なのは、そのせいだ。人気を埗たければ、腕を磚くしかなく、カリスマ性があれば曎に良いのだが、その努力もせずに萜ちぶれおいく者が倚い。

    だが、私の『占星倩文孊』は䌌お非なるもの。
    占いに名は借りおいるが、曎に粟緻で、ほが的䞭する。察応策も挏らさず提䟛出来る。占いの導く解答ず異なる芋解も倚い。勿論重なる郚分もあるが、それを遥かに凌ぐ密床ず倚様さを兌ね備えおいる。そしお、ほが的䞭する蚳であり 芁するに、これは未来の“事実”を知る孊問なのである。読み方を間違え無ければ、誰でも必ず分かる公匏で有り、法則なのだ。

    幎が明けお、私は第二の論文構築にも取り組んでいた。これが完成すれば、『占星倩文孊』は孊問ずしお挞く螏み出せる。

    第䞀の論文、
    『奜機掌握時機の認知ず倩䜓運動ずの関係』

    この埌線ずしお纏めおいるのが、珟圚進行䞭に曞き進めおいるもの。

    第二の論文、
    『灜難回避の方法論ずしおの占星倩文孊論』

    で、あった。



    「父様。倚分、䟋の 」


    「 そうか」


    幎が明けお、2床目の新月の倜である。
    再びあの手玙が送られおきたのは、5日皋前のこずだった。
    私は論文を曞く筆を眮き、客を出迎える為に曞斎を出た。リヌザラにも話しおはあるが、出お来ないでくれず蚀っおある。ルヌセラには少し眠そうであったが、勉匷の為に隣宀で話に耳を立おおおくようにず指瀺した。
    そしお、嚘は欠䌞を堪えながら、裏口の戞を叩く音がしたのを聞いお、私を呌びに来たのだった。

    「手玙の 新月の倜の客人か」

    「はい、プリゞオス博士 生き残ったので、埡瀌に䌺いたした」

    私は音を立おぬよう、慎重に戞を開けた。

    「 私がどの筋の者であるかは、倧方芋圓が付いおおられるこずでしょう。ご慧県な博士であられたすから」

    「誰であろうず、私にはどうでも良いこずだ。研究の資料になるのであればな」

    「成皋、詮玢はされないずいうこずですね では、申し䞊げたしょう。自ら名乗るのであれば、聞いおは䞋さるのでしょう」

    「どちらでも良いず蚀っおいる。早く䞭に入られよ。話はそれからだ」


    私は圌を宀内に入れた。
    冬倜の倖気は冷たく、私の頬や耳を刺す。人目を気にするずいうよりは、入っお来た寒気を家の䞭から早く远い出したかった。

    男はやはり独りで、暑さが本栌化する前の昚倏ず同じ灰色のマントを矜織っおいた。䞭に着蟌んでいるのだろうが、暖かそうには芋えない。だが、それは男の青癜く沈んだ衚情がそう芋せおいるだけなのかもしれなかった。
    フヌドを剥いで、顔を晒すず、それはより明らかに感じられた。そしお、前回は脱がなかったマントを今倜は脱いで、怅子の暪にある小卓の䞊に畳んで眮いた。䞭は厚着ではなく、寧ろ思っおいたよりはすっきりずした薄手の僧服を着おいた。

    「では。たず、貎方の報告を聞こうか」

    私も怅子に腰を䞋ろし、圌ず向かい合う。隣宀に控えおいるルヌセラにも聞こえるように少しだけ声を匵った。

    「はい。では、あの埌、博士の蚀葉に埓いたしお“血の満月”の倜、青い巚星ず仰っおいた“神狌星”に向かいたしお『私ず私の家族を生かしお欲しい』ず劻ず兄ず共に懇願の祈りを捧げたした。それから間も無く私達は運呜の埡告げを聞くこずずなりたした。私達はその時自分達がひずたず幎内の死を免れたこずを知りたした。然し、私達の身代わりずなったのは、思いも寄らぬ芪族で 私の胞は痛みに苛たれたした」

    「 祈りの効果はあった、ずお考えか」

    「そうですね。私は盎前たで芚悟しおおりたしたし、兄も気疲れで床に䌏せおおりたした。埡告げの前日の䞀族蚎議にお、私は候補であった為に出垭は控えおいたのですが、結果を父から知らされお、驚いたものです。効果は有ったのではないかず思われたす 」

    「成皋。぀たり、幎内の死は免れ埗たものの、貎方の身代わりずなった者に察する眪悪感のようなものは残ったず そういうこずかな」

    「そうなりたすね、恐らく。然し、これは私が望んだ結果なのですよね」

    「そうだな。だが、貎方は死を拒み、生きるこずを望んだのであり、身代わりずなった者は生きるこずを貎方のようには望たず、その死を受け入れたのだから、貎方の眪では無い。その者にもその者の意志が有った筈だ」

    「そうですね そう思うしか有りたせん。今曎ですが」

    「埌悔されおいるか」

    「 いえ」

    「ならば、問題無い。貎方は貎方の望むように生きるこずだ。その者に埌ろめたさが有るならば、その者の分たで、生きおやるこずだ」

    「はい。有難うございたす。博士の蚀葉はどんな叞祭殿の蚀葉より力匷く、私を励たしおくれたす」

    そう蚀っお、圌は壁に貌られおいた私達家族の描かれた絵を芋やった。

    「 あれは、博士のご家族の絵ですか 埡子様が描かれたものですか」


    「そうだ。右は息子が家族皆を、巊は嚘が匟を描いたものだ」


    「そうですか。どちらの絵もずおも幞せそうに芋えたす。博士はご家族をずおも倧切にされおいるのでしょうね」


    圌は目を现めお、薄っすらず埮笑んだ。


    「その぀もりだったが、息子は昚幎の倏に死んだ」

    「博士 」

    「実際に幞せにさせおやれおいたのか、もう知りようも無い」


    私は無衚情に呟く。


    「 この絵の顔は皆笑っおいたす。幞せで、家族が倧奜きだった蚌拠です。お嬢様が描いた匟さんの顔も、ずおも茶目っ気があっお明るい。楜しく毎日を過ごしおいたのが他人の私でも分かりたす。倧䞈倫です。幞せだったはずです」

    「そうだずいい。 救っおやりたかった。䜙りに突劂刹那に起きおしたい、間に合わなかった ただただだ」

    私は暗い目で盞手を芋぀めた。圌は私の心が息子の死からただ救われおいないず感じたのだろう。栗色の瞳に埮かに星屑のような光を浮かべるず私に蚀った。


    「博士、未だ『氎晶玉』はお持ちですか」

    曞庫の奥たった壁際の曞棚の最䞋段に、それは割れぬよう幟重にも垃で巻いお保管しおある。

    「無論。お返しするのに、取っおあるが」

    「では、改めお そちらを差し䞊げたす。この郚屋の芋える堎所に眮いお䞋さい。そしお、毎日匷くそれに念じお䞋さい。研究を成就するたでは決しお諊めないず。さすれば、䜕があっおも博士の思いは達せられたす」

    「念を蟌めるのか」

    「そうです。お信じになるかどうかはご自由です。その玉は私のように逃げる者の味方はしたせんが、博士のように挑み続ける者には匷力な補䜐ずなるず、私は聞いおいたす。我が家に“䞀子盞䌝”ず叀くから䌝わるものの䞀぀で、私はこれを亡き祖父から授かりたした。
    元々死ぬのであれば、売り払っおしたおうず思っおおりたした。その財を劻子に枡しお、私の死埌の䞀助ずしおやろうず考えたのです。
    ですが、こうしお生き延びたした。博士の助力のお陰です。この品をどうするかは䞻人である私の䞀存で決めるこずが出来たす。
    故に、差し支えなければ、博士にお莈りさせおいただこうず思いたす。これは私の代で喪倱したずしたす。
    䌝来の所持者を蚘した巻物が有りたすが、歀方は私の代で途切れたすので、この新しい巻物に博士のお名前を蚘しお䞋さい。改めおこの『氎晶玉』の初代の䞻人は博士ずなりたす。それを継ぐべき方に同時にお枡しに䞋さい。名を蚘しおいる者に『氎晶玉』は埓いたす」

    私は蚳の分からぬたた、その新しい巻物ずやらを匷匕に枡された。

    「先ず、1番目ずお曞き䞋さい。次の方は2番目ず 譲枡或いは本人が死に至る堎合、新しい所持者を芁求されたすので、必ず譲枡の際は名を曞かせお䞋さい」

    「 誰が、芁求するのだ」

    「『氎晶玉』です」

    「 氎晶玉が」

    「はい。䞍思議な『氎晶玉』なのです。お持ちになれば分かりたすよ」


    俄には信じ難かったが、私は受け入れた。䜕故だか分からないが、受け入れおしたった。


    「ああ。では最埌になっおしたいたしたが、私の名を アルドロス・ブラグシャッド・アペルず申したす。叞祭䜍は、叞祭倖亀官特玚です。特呜叞祭ずも呌ばれたりしたすが。倖囜語を話す玠質を買われたものですよ」


    蚀いながら、アルドロスず名乗った男は、傍に眮いた灰色のマントを矜織り、フヌドで慎重に黒髪の頭を芆うず、冷たい深倜の暗がりの䞭、裏口から吐く癜い息を隠すように俯きながら音も無く、圱のように出お行った。



     




    ④継承者



    倜の星々を眺めるようになったのは、い぀のこずだっただろう

    柄み切った暗い空に点々ず浮かび䞊がる光の地図を、飜くこずなく眺めおいた。
    あれは、9歳か10歳だったか 父芪が病に倒れ、やや遠い堎所の病院に入るこずになった。
    私は孊校がある為、同行しなかった。母芪が付き添いに毎日のように出掛け、垰っお来ない倜もあった。3歳だった効のレストア、2歳だった匟のむベルは母ず同行し、父を芋舞ったが、私は入院埌は1床も芋舞いに行けぬたた、入院しお3か月埌に父は亡くなった。

    独りが、蟛かった蚳でも寂しかった蚳でも無い。

    ただ、今倜も“独り”だず、感じおはいた。

    最初は“月”に興味が湧き、その満ち欠けに぀いお芳察日蚘を付けたり絵に描いたりしおいた。倧きく芋えるずきは、陰圱を泚意深く眺め、描写しお楜しんだ。それは他の星ぞず及んでいき、流星矀も数倚く目芖で芳枬し、その芏暡ず矎しさに心の内で興奮した。こんなこずが、倩空では䜕事でも無いように無限に起こっおいるのだず、目眩のするような魅力に取り憑かれた。

    「プリゞオスさん、貎方の瞳は䜕故い぀もそんなに矎しく茝いおいるのですか 私はそれに惹かれおなりたせん」

    倧孊の研究宀に教授である父芪ず私ず同じ幎に入孊した兄のラムヌトの分ず合わせお、䜕故か私の分たで食事を差し入れおくるリヌザラず知り合ったのは、私が15歳、圌女が18歳の時だ。ただ入孊仕立おの孊生で慣れぬ郚屋の䞭で、私はい぀も端の方に座っおいたのだが、圌女は他の孊生には目もくれず、い぀も私に話しかけおきた。私は可愛らしい圌女に「瞳が矎しい」などず蚀われるような目立぀顔でも無い。幎若く子どものように芋えるから、そんなこずを蚀っおからかっおいるのだず思っおいた。

    「さあ もしそう芋えるのであれば、い぀も星を眺めおいるから、その光が瞳に貌り付いおしたったのだろうか。私には自分の瞳は芋えないので、あくたで想像だが」

    ずりあえず、軜く意趣返ししおやろうず、圌女の顔を芋もせずに淡々ずそう答えた。

    「ああ、成皋 そうですわね、きっず」

    それなのに、ぱっず花が開いたように嬉しそうな明るい声が返っおきた。

    圌女は研究宀の他の孊生からも人気があった。故にただ幌なげな私に母性本胜をくすぐられおいるだけだず嫉劬する者も居た。私も圌女が本気だずは思っおいなかった。だから、少し煩わしくなり差し入れを断ったこずがあった。

    「ご迷惑、でしたか  埡免なさい」

    想像以䞊にしょんがりしおしたった圌女に私は慌お、埌悔しおいる自分に気付いた。私は知らず圌女に惹かれおいたのだず、思い知らされた。

    「リヌザラ、貎方は䜕故私などに興味をお持ちなのか。未熟な異性を匄んでおられるのか。性栌も然皋掻発では無く、容貌ずお際立ったものでは無いず思うが 」

    「アタヌル・プリゞオス、分かるのです。私には。
    この私には最初から貎方だけが光に包たれおいるように芋えるのです。それは貎方が私の運呜の方だからです」

    「 本圓に」

    「本圓ですわ。アタヌル、私は貎方を私の䌎䟶ずしおみせたすので」

    倧胆な求愛に、研究宀には氎を打ったような空気が挂った。

    「婚玄するか プリゞオス。効はこうず思ったら聞かないタチの女だからな、諊めるしか無いぞ」

    ラムヌトが囃し立おる䞭で、父芪の教授のみが咳払いをしおいた。



    私達が結婚に至ったのは、私が孊科を修了し、倧孊の教員資栌を埗た18歳の時だった。リヌザラは21歳になり、圓時の女性ずしおは遅い嫁入りずなったが、圌女の私ぞの気持ちは倉わらず、匕く手は数倚であったそうだが、来る瞁談は党お断っおいたず聞いた。

    「リヌザラ・ファビルス。 改めお、この先の貎方の倧切な時間を、私ず共に生きる時間ずしお分かち合っおくれぬだろうか」

    私が求婚の蚀葉を捧げるず、リヌザラは私に抱き぀いお泣いた。

    「ええ、勿論です アタヌル、私はこの日を本圓に埅ち䟘びおいたのですよ」


    私達はそうしお結ばれた。
    長女マランが誕生し、母にも孫を芋せられた。母はその2幎埌に急な病で死んだ。マランが死ぬ前のこずで、私が幞せの最䞭にある時であったから、母は安心しお逝けたであろうず思う。


    「父様。『氎晶玉』を出しおおいたよ」

    そのマランの効である、この2番目の嚘だけが、私達の生きた子ずしお唯䞀残された。
    ルヌセラは曞庫の奥から垃で巻かれた球圢の物䜓を倧事そうに胞に抱えお、曞斎に入っお来た。
    それを曞架の前の床面に蚭眮した黒い倩鵞絚で芆われた分厚い座垃団の䞊にゆっくりず眮く。

    「 ああ、そうか。枈たないな」

    前幎の儀匏の埌、莄人ずなったアストリアスの父芪アグリスが粟神を病んで自殺したず聞いた。圓䞻マルティクスはアグリスの長男メルティスが実は知的障害を抱えおいたこずを公衚し、3人目は嚘であるこずから、自らの埌継を匟のペリりスず定め、ペリりスの長男でもあったアグリスが亡くなったこずから、次男のフォステオスが受け継いでいく圢に成るのかず思えば、フォステオスが自分ではアペル宗家の圓䞻には力䞍足ずそれを蟞退した為、䞉男のアルドロスに継承暩が移った。

    先幎、莄人の最有力候補だった男が巡り巡っお、今床は由緒あるアペル宗家の圓䞻ず成る運呜を蟿ろうずしおいる。

    「巻物を出しお、父様。それに名前を曞くのだよね たずは父様の名前を曞いお」


    私は嚘に促されるたた、アルドロスから貰った新しい巻物に、たず「1番目」ず曞いた。


    「あのさ。こういうふうに曞いたら 1番目アタヌル、アタヌル・プリゞオス。そしたら私はね、その埌に曞くわ。2番目アタヌル、ルヌセラ・プリゞオスっお だっお、私は父様の孊問の継承者で、繋いでいくものだから。それに、この孊問は、父様の䜜ったものなんだし、その人の名前はやっぱり残しおいくべきだず思う」


    私は苊笑しながら、嚘の蚀う通りに蚘す。



    “1番目アタヌル、アタヌル・プリゞオス”



    ず  。





    終




    《姉匟の䜜品》 むメヌゞ

    画像
    アリ゚ルの絵ずうさた、かあさた、ねえさた
    画像
    ルヌセラの絵アリ゚ル






     
     
     
    連茉小説『僕は君になりたい。』『1番目アタヌル、アタヌル・プリゞオス』を䞭心に詩や短線、随筆、むラスト等。

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