メインコンテンツへスキップ

「梅雨明け、そろそろかな。まだかな」(ショートストーリー)

     私はコーヒーをよく飲む。
     コーヒーを毎日たくさん飲む両親の影響だろう。中学生の頃には毎朝飲む習慣になっていた。
     産地や銘柄などは気にせずに、ガブガブと飲むのが好きだ。
     高級豆や希少豆には今まで縁も無いので、詳しくは知らない。飲んでみたら美味しいのかも知れないが、気安く飲める方が良い。
     人生最期の日までコーヒーを飲めていたら幸せだと思う。


     まだ私が20代だった頃、職場に紅茶好きな同僚がいた。
     世の中、紅茶好きな人は別に珍しくない。だが彼はストレートのアイスティーを好んで飲み、ミルクティーは一切飲まない人だった(私の中では結構レアな人に思えました)。
     その彼に何故、アイスティーをそんなに好むのかを、一度聞いてみた事がある。

     「アイスティーを飲むと、口も頭もスッキリするんです。だからかなぁ」

     彼は自宅で淹れた紅茶をアイスティーにして水筒に入れ、会社に持参していた。
     市販のペットボトル入り紅茶を毎日買うと高くついてしまうからと、はにかみながら言っていた。

     彼の紅茶は砂糖もミルクも入れない。なるほど、砂糖やミルクなしのブラックコーヒーと同じか。
     私も彼を真似て自宅で紅茶を淹れ、アイスティーにして飲んでみた。

     口の中がスッキリする…以上に、渋さが後に残った。
     後日その事を彼に伝えると、私の淹れ方が下手なのだと言われてしまった。
     紅茶は抽出時間が必要以上に長いと、渋さが強く出るらしい。
     何度か繰り返してみたものの、結局私はコーヒーを淹れる毎日に戻っていった。

     普段は思い出す事もない記憶だが、飲食店などでアイスティーを頼む人を見かけると、彼の事を思い出す。


     今年の梅雨は例年以上だと断言出来そうな位、とても暑い。
     冷たい飲み物が必須の毎日だ。
     アイスコーヒーはもちろん、お茶やスポーツドリンクなど、毎日たくさん飲んでいる。
     去年まではオレンジジュースもよく飲んだが、最近は以前の倍の値段が付いていて疎遠になった。

     「蒸し暑い!」

     スマホでネット検索をしていたら、大手飲料メーカーが「夏のアイスティースタンド」と銘打ったイベントを開催すると知った。
     場所は東京・名古屋・大阪の3都市で整理券も必要らしい。自分には無理そうだなと、すぐに分かった。
     そんな事もあり、その日はアイスティーを買った。
     飲むのはいつ以来だろう。覚えていない。
     飲むと口の中がスッキリした。

     少し前に返礼で頂いた紅茶がある事を思い出し、休日に淹れてみる事にした。
     ウチで1番上等なグラスに氷を多めに入れて、淹れたての紅茶を注ぐ。

     「うっ、渋い…」

     梅雨明け、そろそろかな。まだかな。
     窓際に立ち、シトシトと雨を降らせる空を見上げる。
     そっと心の中で呟いた。

     「紅茶の淹れ方、相変わらず下手なまんまだったよ」

     テーブルの上で、グラスの氷がカラリと鳴るのが聞こえた。


     
     
     
    スイーツと競馬が大好き。

    あなたへのおすすめ