
忘れ物がくれた時間
夫は、抜けている。
その話は、したと思う。
たぶん、人間生活が初めてなのだろう、と思うしかない。
勘違いする。
間違える。
失敗する。
忘れる。
抜けている。
やらかす。
「これ、区役所に持っていく書類一式、封筒に入れておいたからね」
「中もちゃんと書いてあるから、あとはこれを、そのまま渡すだけ。簡単だからね」
「封筒から出しちゃだめだよ」
「そのまま持っていって、そのまま渡す」
言うことを聞かない。
出す。
一枚一枚見る。
日本語だから、見ても分からない。
なのに見る。
一枚一枚。
夫が出かけて行った。
床には、一枚。
袋から出して、なぜか戻さなかった、一枚がある。
そんな人だ。
長女が小学校にあがった。
毎日、なにか忘れる。
そうだ。
玄関に一式置いておけば、忘れない。
前の夜に一緒に時間割と連絡帳を見てひとつひとつ確認する。
それらを全部ランドセルに入れる。
よし。
これを朝、玄関に置いておこう。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
ふと、玄関を見る。
床には、赤いランドセルがそのまま置かれている。
いや。
笛を忘れた、お習字セットを忘れたなら、分かる。
いくらなんでも、背中が軽すぎやしないか。
気づかないのか。
出勤前は、長女の忘れ物を届けるのが日課となった。
でも、ちょっと嬉しい。
さっき、
「いってくるね~」
って出て行った長女と、またすぐ再会できる。
忘れ物がなかったら、次に会えるのは、18時過ぎだ。
忘れ物がくれた時間。
パパの遺伝子がくれた時間。