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見知らぬ少年たちと世界を救った話

     ノアの方舟の話を引き合いに出すまでもなく、洪水は人類に対して大きな被害を出してきた。普段は暮らしに欠かせない水でも、時に自然の猛威として私たちに襲いかかるのである。

     この話は、そんな水の猛威に立ち向かった少年たちの物語である。

     その日、小学生だった私は特に用事があるでもなく、近所を歩いていた。用事がないのに出かけるなど、今思えば正気の沙汰ではないのであるが、夏休みでもあり暇だったのであろう。そこで、見知らぬ少年たちを見かけることになったのである。

     彼らは、田んぼの用水路で何やらしているようであった。よく見ると、普段は穏やかに流れる用水路の水が激しいものとなっている。前日の大雨が影響しているのであろう。少年たちは、この激流を何とかしようと、水をせき止めるための堤防を作っていたのである。

     義侠心と好奇心に駆られた私は、これに加わることとした。彼らとは何の面識もない私であるが、同じ町内に住む仲間なのである。そして、彼らもそれを受け入れてくれたのである。

     その用水路の幅は子どもが跨げるほどの狭いものであったのであるが、それでも、水をせき止めるための堤防作りは困難を極めた。当初、大きめの石を積み重ねることで作り上げようとしていたのであるが、水の流れに耐えかねて、すぐさま崩壊してしまうのである。

     私たちは、靴や靴下はもちろん、半ズボンさえもびしょ濡れになりながらも、堤防づくりに挑み続けた。そして、誰かがどこからかもってきた、木の板のようなものが決め手となった。完全に止まりはしなかったものの、水流は大幅に勢いを落としたのである。

     私たちはお互いの健闘を称え合い、世界を救ったことを喜びあった。そして、昼ごはんを食べるべく、それぞれの家に帰ったのである。

     その日の午後、再び、用もないのに家を出た私は例の用水路の辺りにさしかかった。すると、午前中に作り上げた堤防が決壊しているのである。石と板の組み合わせの堤防など、そう長く持つわけがないのだ。

     私は、ただちに修復作業にとりかかることにした。しかし、一人での修復作業はなかなか上手くいかなかった。石と板を同時に組み合わせることが重要なのであるが、まさに手が足りなかったのである。

     私の力ではこの世界を救えないのかと絶望に駆られ始めたころ、なんと、午前中の見知らぬ少年たちが現れたのである。おそらく、彼らも義侠心と好奇心に駆られて見に来たのであろう。

     再び、我らの堤防づくりが始まった。既にノウハウは確立されており、後はみんなの協力のもと、いい塩梅に石と板を配置するだけである。

     そして、二度目の堤防が完成間際というとき、田んぼの持ち主と思われるおじさんがゆっくりと近づいて来たのである。

     おそらく、私たちに感謝の言葉を言いに来たのであろう。当然のことをしたまでである。

     しかし、おじさんから発せられた言葉は意外なものであった。

     「田んぼに水が届かなくなるから、水を止めないでね。」

     私たちは虚を突かれた。
     そして、自らが作り上げた堤防を自らの手で壊すことになったのである。

     正義とは難しいものである。

     
     
     
    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

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