
健康ランドは夢の国
小学生の頃、一番行きたかった場所は健康ランドであった。最近は、スーパー銭湯と呼ばれる方が増えてきた気がするが、健康ランドとは多彩なお風呂があるのはもちろん、食事処、ゲームセンター、マッサージコーナーなどの施設を併せ持つ、一大アミューズメント施設である。
私の住んでいた町の隣町にもそのような施設があり、数カ月に一度、家族や親族と出かける日を指折り数えて待っていたのである。
到着したら、まずはお風呂へと直行する。何と言っても、健康ランドの中心施設はお風呂である。露天風呂、ジェットバス、電気風呂など、多種多様なお風呂が用意されているのだ。
私は、特に意味もなく様々なお風呂へと体を浸し、最後はプールへと行くのがお決まりのコースであった。プールと言っても、それほど大きなものではなく、15m程度のさほど冷たくない水風呂のようなものであるが、子どもにとっては裸で泳げる夢のような場所であったのである。
風呂が終われば、次はご飯である。今思えば酒×風呂の組み合わせに大丈夫かと思うが、私のよく行く健康ランドのお食事処は居酒屋のような形態であった。親や親戚の大人たちはお酒をのみ(運転手を除く。)、私と弟はジュースを飲みながら、唐揚げや枝豆などを食べるのである。私は、ここでしかお目にかかれない、タコの唐揚げが大好きであった。
腹ごしらえが済んだら、次はゲームセンターである。まだ、ゆっくりと食事を楽しみたい大人たちは、私と弟に数百円ずつを渡して、ゲームセンターへと解き放つのだ。
ゲームセンターといっても、2階の一区画を占める程度の小さなものである。クレーンゲームや、ワニワニパニックのような体験型ゲームもあったが、私と弟は、よく操作もわからないドラゴンボールの格闘ゲームが贔屓であった。
コインを入れたら、後は適当にレバーやボタンをガチャガチャし、偶然に頼った必殺技で奮闘するのである。このガチャガチャで、爪はボロボロになるが、別にそれでもよいのであった。
それが終わると、また、風呂である。今度は、余計な湯船などには浸からない。ひたすら、プールで遊ぶのである。許容されていたか不明であるが、売店で売っていたボールを持ち込みよく遊んだりした。
更に楽しいのが、同年代の子どもたちとの邂逅であった。その日限りの友情が芽生え、思いっきり遊ぶのである。しかし、数カ月後、また思わずその子と健康ランドで再会したりするから面白い。
一度だけ同じ学校の河瀬くんとも会ったことがある。彼は、「俺は、毎週ここに来ているんだ。」と謎の金持ちアピールをしていたが、おそらく嘘である。不思議な言い方とはなるが、毎週来るには、つまらない施設なのである。
さて、プールで疲れ果てたあとは、シアタールームへと行く。シアタールームは、真っ暗い部屋にマットのようなものがしかれており、寝転がって映画を見られるスペースである。
が、おそらく誰も映画はみていなかった。ご丁寧に毛布の貸し出しまであるので、みんなここでスヤスヤ寝てしまうのである。今なら、大イビキをかくおじさんに腹が立ったりもするのだろうが、あの頃は気にもならなかった。全ての体力を消費したあとは、ただ眠るだけなのである。
こうして眠りについたあと、まんまと親に背負われ帰りの車へと運ばれるのであった。
きっと、今同じ施設に行ってもこれほどの幸福は味わえないのであろう。
大人になるとは、つまらないことをしたものである。