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Switch2購入譚

     2025年8月16日(土)朝五時半。家族が寝静まる中、私はそっと家を出た。
     目指すは、新宿のヨドバシカメラである。

     我が家の妻も娘もゲームをこよなく愛していた。しかし、それまで何度も行われていたSwitch2の購入抽選にはことごとく落選していたのである。

     しだいに元気をなくす妻子を見かね、この一週間、私による懸命のSwitch2捜索が行われていたのだ。

     発売から数ヶ月を経たこの時期、Switch2はゲリラ販売という手法で売られることが増えていた。すなわち、一切の販売予告もせず、いきなり店頭で販売を行うというものである。

     私は、Xでの「〇〇で売られていた」という情報を頼りに、都内を東奔西走していたのであるが、いずれも到着する頃には時すでに遅しで、販売終了の文字を見ては肩を落としていたのである。

     私は、いい加減、このSwitch2捜索に嫌気を覚え始めていた。そもそも、いつ、どこで売られるかわからないものを追い求めるのは運によるところが大きいのである。そして、私は、まったく運がないのである。

     そこで、最も確保の可能性が高いと思われる、新宿のヨドバシカメラに早朝から並ぶという手に出ることとなったのだ。この方法は、Xでの成功体験が多く寄せられていたのだ。

     到着した六時半過ぎ。早くもヨドバシカメラに向けて長蛇の列ができており、私はよくわからないまま、その最後尾に並んだ。そもそも、これがSwitch2の列かもわからなければ、本当に売られるかの確証もないという状況である。
     しかし、私には、これにすがるしかないのである。

     列には、実に多様な方々が並んでいた。この時間にもかかわらず、小学生頃の男の子もおり、祖父と思われる男性と一緒に立っていた。かと思えば、若い女性や外国人もいたり、もちろん、私のようなおじさんもたくさんいたのである。

     やることもないまま、時間だけが過ぎていった。暇つぶしにと、塩野七生の「ローマ人の物語」の何巻だかを持っていったのであるが、何となく集中して読めなかった。

     同じイタリアンでも、今日はカエサルよりもマリオなのである(マリオは、イタリア系アメリカ人。)。

     一時間ほどたったころ、突如ヨドバシカメラの店員さんによるアナウンスが始まった。どうやら、今日も店頭販売があるらしく、これから整理券を配るのだという。私は、自分のところまで整理券が配られることを祈りながら、配布を待った。

     店員さんが近づいて来るたびに、その手元にある整理券は減っていく。私は、「せめて私までは」と、この世で最も醜いエゴイズムを発揮させながら祈った。

     その甲斐あってか、私は81番の整理番号を入手できたのである。この日は、100台程度しか売られなかったらしく、薄氷の勝利であったのだ。

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    ▲勝者の証明書

     私は、起きたばかりの妻に勝利を報告し、なおも二時間ほど列に並んで、ようやくSwitch2を購入することができたのである。

     帰りも油断はできなかった。いつどこでこのお宝が狙われるかわからないのである。私は、リュックサックにSwitch2をぎゅうぎゅうに押し込んだ上で、逃げるように新宿を後にした。

     本当は、カフェでコーヒーでも一杯飲むつもりだったのであるが、一刻も早く、このブツを我が家に運び終えたかった私は、まっすぐに家に帰ることとしたのである。

     この日ばかりは、私はヒーローであった。妻も娘も大いに喜び、私の勝利を称えたのである。今まで下落の一途であったパパの株価も急上昇である。

     早速、我が家でマリオカート大会が開かれた。新発売とはいえ、操作方法は過去のものから大きな変更はなかったので、私は、これまでのマリオカート経験を活かし、妻や娘に容赦のないアカこうらをお見舞いし、一位を独占した。

     この大人げない私に対して、早くもパパ株の反落が始まっていたのである。

     そしてしまいには、娘から、こう言われたのだ。

     「パパは、よっぽどSwitch2が欲しかったんだね。」

     
     
     
    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

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