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今日から魔界人だね(推しの話②)

     前回に引き続き、推しのことについて語りたい。もう一人の推しである、椎名ひかりについてだ。

     椎名ひかりは、ファッションモデルとしても活躍するアイドルであり、「魔界からやって来た魔界人アイドル」というコンセプトで活動している(このため、世界三大天使には入っていないのである)。

     歌唱の面では、ロリ声とデスボイスの組み合わせが持ち味だ。甘々な曲から闇系の曲まで振り幅が凄まじいのだが、いずれの曲にも狂気が折り込まれており、独特の世界(すなわち魔界)へと誘ってくれるのである。

     私が初めて、椎名ひかりの降臨(ライブ)を目撃したときは、特に闇系の曲が多いセットリストであった。

     最前列では、血糊セーラー服を着たバンギャ達が、歌舞伎の毛振りのごとく髪を振り回している。かと思えば、曲の間奏では、今度は男のオタクたちがバンギャ達と入れ替わり、背ダイ(観客が最前列の人の背中を支えに、代わる代わるステージへダイブすること)が始まるのだ。
     もう何度も足を運んでいるのであるが、私は、この光景あってこその魔界だとしみじみ思っている。

     そして、ライブ終了とともに、今回も特典会の時間が始まったのである。

     私は、この日、オリジナルTシャツを買って撮影券をもらっていた。そして、前回のことなどすっかり忘れたかのように、ニコニコと列に並び始めたのだ。

     しかし、順番が近づくにつれて、再び私は緊張と不安に苛まれ始めた。

     前回のことがあったのに、何を私は繰り返しているのか。遠くから見ているだけでよかったのではないのか。そもそも、今回は何を話すつもりなのか。

     様々な考えが頭の中を駆け巡る。そして、頭の中は整理されることなく、椎名ひかり(以下「ぴ様」という。)との邂逅の時は来たのである。

     「今日は初めて来てくれたの?」

     と、ぴ様から声をかけていただく。そもそも、このセリフが自然に出てくること自体、驚愕することなのである。ぴ様は、初見かどうか、一瞬で見抜いているからだ。だが、今はそれどころではない。

     「そうです。」

     と、必死に答える34歳国家公務員・男性。

     「今日は怖くなかった?」

     と、ぴ様。
     おそらく、闇系中心のセットリストだったことを言っているのだろう。

    「こ、こわくなかったです。かっこよかったです。」

     と、精一杯の返事をする34歳児。

     「ティーシャツも着てくれてありがとう。今日から魔界人だね。」

     と、優しい笑顔のぴ様。

     「はい!」

     と、あほ。

     こうして、二回目の特典会は大成功に終わったのだ。
     今度の写真には、後光差す美しきぴ様とともに、何かを成し遂げたつもりでいる満足顔のおっさんが写っていたのである。

    ▲魔界の様子

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    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

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