メインコンテンツへスキップ
見出し画像

飲み会嫌いが15年かけて編み出した『風林火山』

     飲み会。
     それは、現代社会において避けては通れぬ戦いくさである。ある者は、そこでの功績により出世の道を切り開くことになり、ある者は、そこでの失敗により翌日からの居心地の悪さを受難することになるのである。

     正直に言おう。
     私は、職場の飲み会など大嫌いである。

     職場からお金がでて、「仕事」の一環として行われるのであれば、まだよい。
     が、そんなホワイト企業はごくごく一部なのである。会費は自腹で支払った上で、大して面白くのない上司の昔話を笑顔で聞き続けるなど、御免被るのだ。

     しかしながら、ここが大人の難しいところであるが、仕事とは一人で行うものではないのである。

     「あいつ、いつも飲み会こないな。亅と後ろ指さされるリスクも考慮し、全てではないにせよ、重要度が高い戦いくさ(歓迎会、送別会など)には、出陣しなければならないのである。

     さて、前置きが長くなったが、ここからは社会人歴15年以上を誇る私の編み出した奥義・風林火山を皆様に伝授したい。

     私のような飲み会嫌いの方にはもちろん、飲み会をコミュニケーションの場として心から楽しく過ごされている方へも、「こんな生き物もいるんだ」という感覚で読んでもらえれば幸いである。

     なお、風林火山については、文字順通り、風から解説するのが一般的であるが、私の奥義は山から逆に始まる。

    1.動かざること山の如し

     飲み会で最も大事なことは何か。それは、最初に座る場所である。2時間の飲み会として、少なくとも、1時間以上はその席に座ることとなるからだ。

     つまり、仲の良い人や大人しい人の周りを狙うのがよいのである。間違っても、お偉いさんの近くなどには行ってはならない。

     しかしながら、採用や異動直後、また他企業との交流会のときなどは、その傾向がわかりにくいこともあるであろう。

     そういった場合は、隅っこに座るのがよいのである。なぜなら、同種の人が集まるからである。

     さらに、隅っこで下働き(注文や焼酎づくりなど)をすることにより、激戦地帯から合法的に離れるということも可能となるのだ。

     そして、ここが重要である。
     そうした「良い席」をとったら、動かざること山の如しである。絶対に、他人に譲ってはならない。うまくいけば、そのまま合戦終了の法螺貝がなるまで、平和に過ごすことができるからである。

    2.侵略すること火の如く

     とはいっても、くじ引きで席が決まっていたり、遅れて会場に着いたことなどにより、良い席がとれないこともあるだろう。

     ここで紹介したいのが、侵略すること火の如くである。狙った席の方が、トイレなどで離席した瞬間に、侵略してしまえば良いのである。自分で書いておきながら、武田信玄を思わせる容赦のなさに手が震えてしまう。

     気をつけていただきたいのが、飲み会直後にこの挙に出てしまうと、大変空気を悪くしてしまうということである。概ね、合戦開始から30分経過以降を目安に侵略いただきたい。

     なお、当然ながら、人によっては怒ることもあるので、優しそうな方の席、空席、新たな場所へと移動した方が座っていた席などが、狙い目となる。
     このほか、ギリギリ席として成立するような場所(いわゆるお誕生日席や、机はないが椅子だけある場所など)に、グラスだけ持って移動するのもよいだろう。

    3.静かなること林の如し

     さて、上記の過程で良い席を確保できれば、あとは時間が過ぎるのを待つだけである。主戦場(お偉いさんなどが、武勇伝を語っている場。時折、「お前はどう思うか?」などの流れ弾が飛んでくる。)さえ避ければ、平和なものなのである。

     同種の仲間たちと料理の話や仕事の愚痴で盛り上がるもよし、ニコニコしながら適当に相槌を打つもよしである。

     私は頻繁にトイレに行って時間をつぶすが、先に述べた侵略の犠牲になる恐れもあるため、これは一長一短である。

     しかし、このような平和な時間でも、一点だけ忘れてはならない。静かなること林の如しである。
     合戦の終了に備えて、静かにコート類や荷物を自席の近くに集めておかなければならない。

    4.早きこと風の如し

     ここまで本当にお疲れ様であった。
     が、最も重要といっていいのが、合戦終了を告げる法螺貝が鳴り響いたときである。

     ここまで数々の武勇を重ねてきた武士たちのなかには、「もうひと合戦しましょうや」と恐ろしいことを考える兵つわものがいるのである。

     我々のような弱小の足軽たちは、絶対にこれに巻き込まれてはならないのだ。

     そこで、早きこと風の如しである。一本締めなりが終わった瞬間、誰よりも先に戦場(店)を後にし、電車に乗り込むのだ。

     次の戦いくさについて協議が始まるのは、たいてい一呼吸ついてからのことである。そのときに戦場に残っていようものなら、「お前もいくよな?」と何故か参加が前提のように声をかけられることになる。

     従って、即退却するのが一番なのである。
     万一、翌営業日に何か言われようものなら、

     「なんと!?あの合戦のあとに、そのような、もうひと合戦があったとは…。それがし、すでに矢尽き刀折れ、酔いに苦しみながら退却していたところでござった。いやはや、皆様のご武勇には感服つかまつりまする。」

     とでも言っておけばよいのである。

     とはいっても、何らかの事情でこの風のごとき退却ができない場合もあるであろう。

     このときは、もう一度、山に立ち返るのだ。
     すなわち、動かざること山の如しである。

     参加者の忘れ物がないかチェックをしている風を装うもよし、トイレに引きこもるもよしである。

     その上で、兵つわもの達が次の合戦に向かったあと、悠々と退却すればよいのである。

     一度、私がこの手法を使っていたとき、後輩の一人から、

     「若手だけで楽しく二次会をしようと思っているのですが、中馬さんどこにいるんですか?」

     とのLINEが来たことがあった。おそらく、私を誘ってあげようと思ったのだが、一向に店から出てこない私に業を煮やしたのだろう。

     私は、

     「まだ、ここだよ〜ん」

     と、第一次合戦の戦場に一人残る私の写真を送ったのであるが、後輩は私の機転に大変おどろき、以降は私のことを「智将」として見直すことになったのである。

     以上が私の風林火山である。いかがであっただろうか。

     私も弱兵なりに多くの合戦を経験して思うのであるが、時として主戦場で戦ったり、第二次合戦に参加するのも、悪くはないのである。

     しかしながら、どうしても気乗りしない日というのはあるのである(私の場合、およそ9割くらい。)。
     
     そうしたとき、皆さんもこの風林火山を駆使して、なんとか飲み会を生き延びて欲しい。

     余談であるが、飲み会のあとで自宅で飲むコーラはなぜあんなにも美味しいのであろうか。

     
     
     
    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

    あなたへのおすすめ