
試食品ハンター
珍獣・怪獣 財宝・秘宝 魔境・秘境
“未知“という言葉が放つ魔力
その力に魅せられた奴等がいる
人は彼らをハンターと呼ぶ
小学校6年生のころ、私と成島くんはハンターであった。我々が狙うのは、幻の生き物でもなければ、光り輝く宝物でもない。
スーパーに設置されし試食品なのである。
あの頃、二人は「試食品ハンター」だったのだ。
様々な時代の要請もあってめっきり減ってしまったが、当時は、スーパーの至るところに試食品コーナーというものがあった。
例えば、果物売り場には、一口大に切られた果物と爪楊枝が置いてあり、買い物客はその場で実物を食べた後、購入するかを決めることができたのである。
有人の場合もあったが、我々試食品ハンターは無益な争いを好まないのである。狙うは、専ら無人の試食品コーナーであった。
私たちのハントの流れは、おおむね次のようなものである。
まず、ターゲットとした近所のスーパーに入るや否や、入口付近の青果コーナーからリンゴをハントする。
デザートは最後にすべきではないか、とのご指摘はあるかもしれないが、我々試食品ハンターにとって、食べる順番は店の通路順なのである。これは、効率的にハントしていくための、いわばプロの手法と言えるであろう。店員に目をつけられたら、ハントはそれまでなのだ。
さて、お目当てのリンゴであるが、くし切りで提供されることはまずなく、普段、あまり見たことがないような小さな切り方(いちょう切り)で皿の上に置かれていることが多かった。少しのリンゴで多くの者に味わってもらうためであろう。
そうしたお店側の思惑は、残念ながら、我々ハンターには通じなかった。私も成島くんも、念能力者なのである。必殺技である
貫かれたリンゴたち
を繰り出し、爪楊枝でいちょう切りされたリンゴたちをダンゴ串のごとくまとめあげ、口に運んだのである。
リンゴを十分に味わったあとは、速やかに次なる目的地へ旅立つこととなる。空の皿と爪楊枝だけが残る場所になど、長居は無用なのである。
さて、リンゴの甘酸っぱさが口に残る中、今度は脂と塩気を求めて、我々はウインナーコーナーに立っていた。
ウインナーも、リンゴやオレンジといった果物と同様に、よく試食品コーナーが設けられる代表格であった。ウインナーの切り方は輪切りなのであるが、こちらも小さく切られてあったのである。
このウインナーに対し、先ほどと同じ必殺技も使えなくはない。しかし、同じ技に頼るのは芸がないというものである。
我々ハンター二人は、別の必殺技を繰り出すことにした。
シャウエッセンを花束に
これは、本来一人一本の前提である爪楊枝を大量に使うことにより、使用が可能となる技である。それだけに、かなりの集中力と警戒力が必要となるのであるが、技が完成したときの映えは目を見張るものがあった。
はじめに、ウインナーに爪楊枝を一本ずつ刺していく。そして、ウインナーが先端についたそれらの爪楊枝を、花束のごとくかき集め、一気に喰らうのである。
こうして、ウインナーコーナーにも爪楊枝だけが残されることとなったのである。我らのあとに続くものは、是非購入してから味を確かめていただきたい。
最後に向かうは、秘宝中の秘宝がならぶお惣菜コーナーである。ここには、リンゴやウインナーのような「素材」ではない、完成された料理という真のお宝が横たわっているのである。
この日のお宝は、チキンカツであった。しかも、ご丁寧に千切りキャベツまで添えられていたのである。このように、お惣菜の試食提供が目的にもかかわらず、野菜まで添えられているケースはままあったのである。
きっと、味を試してもらうのと同時に、食卓にならんだときのイメージを表現してるのであろう。味覚だけではなく、視覚にも訴えてくるとは、スーパー側の戦略もなかなかのものである。
それはさておき、我々は早速チキンカツにかぶりついた。
冷めてはいるものの、サクッとした衣に肉汁滴る鶏肉が、ほどよい調和のもと口の中を踊った。もはや、必殺技も何もあったものではない。我らは、夢中で次々食べていき、ついにはチキンカツの群れは絶滅へと追いやられたのである。
しかし、満足顔の私を尻目に、成島くんはハントをやめようとしなかった。
彼は、少しぽっちゃりした体型であったのだが、飲み物はコーラではなくお茶を選ぶなど、「食」の栄養面にも気をかける男であったのである。
そして、彼の家は駄菓子屋なのである。お菓子には困らない夢のような環境であるが、そうであるがゆえに、食べ過ぎを心配する親からの指導もあったのであろう。
ジャンキーな食生活を節制する「制約と誓約」により、彼の食欲は常人のそれを凌駕するまでのものとなっていたのである。
そして、このとき、まさにその秘めたる力が解き放たれたのであった。
全ては俺のモノ
彼の能力によって、手に取られた二本の爪楊枝は箸へと変貌し、成島くんは、誰一人試食対象として思っていなかったキャベツを全て腹に収めたのである。そして、後には、やっぱり爪楊枝だけが残されたのであった。
成島くんほどではないにせよ、これだけの念能力を持っていた私であるが、今ではKALDIのコーヒーをもらうのが精一杯である。
入店のタイミングが合わずに、スムーズに受け取れない場合などは、そのまま諦めることすらある有様なのだ。
いつか、KALDIで、
甘くないたっぷりのコーヒーを1つ
を、披露したいものである。