
先輩のプレイリスト
自分のプレイリストのお気に入りの音楽を聴いてくれていると嬉しい。
先日友人がそんな話をしていた。
私とプレイリストを共有している人はどんな音楽を聴いているのだろうと、ふと思い、Apple Musicを開く。
Apple Musicでは、友達とプレイリストを共有できるという機能がある。
私がプレイリストを共有しているのは2人だけ。
1人はよく行くお店で最近仲良くなった同世代の女の子で、もう1人は新卒で入社した会社の先輩だ。
先輩とは、わたしが最初に配属された案件でのメンターとして出会った。
仕事に対して熱心でストレートな物言いをするのが最初は冷たく感じたけれど、理解が遅い私に対して、忙しい中でも時間を作って粘り強く向き合ってくれた。
家が近かった私たちは、たまにご飯に行くようになった。
先輩は、会社を出ると冗談を言い明るく笑う人だった。好きな食べ物の話から仕事の真面目な話、遠距離恋愛をしている彼氏がいる話まで、いろんな話をしてくれた。
4年前、先輩の家にお邪魔した時、ベッドの横には電子ピアノがあった。
冷静に淡々と仕事をこなす先輩の家にピアノがあることが、どこか意外に感じて「なんでピアノあるんですか?」と聞いてみた。
すると先輩は、ずっと音楽が好きで、学生時代の仲間とバンドをしているのだと教えてくれた。
学生時代からずっとSAKEROCKが好きで、SAKEROCKのような音楽をしたいとバンドを始めたらしい。
次の月には小さな会場でライブがあるから、休日は練習に明け暮れていると、困った眉毛で嬉しそうに語る。
音楽の話をする先輩の目はいつもに増して爛々としていた。
「お気に入りの曲はありますか?」
そう聞くと先輩は、座布団に座り直して「この中からかぁ」とプレイリストを見せてくれた。
何回もスクロールできるほどたくさんの曲があり、SAKEROCKやくるり、スピッツが並ぶプレイリストだった。
「あれもいい」「これもいい」と言い悩みながら、
「いや、ひとつを選ぶのは難しいね。
このプレイリストにあるのは全部お気に入りだから。
時間あったら聞いてみて。」
そう言って、先輩は「好きな曲」のプレイリストを送ってくれた。
私も、お気に入りの曲を入れたプレイリストを交換した。
それから、先輩とは私が4年前転職するときに食事に行って以来会っていない。
懐かしい気持ちとともに、先輩のプレイリストを久々にのぞいてみた。
プレイリストの先頭には「好きな曲」。
何スクロール分も先輩の曲が追加されている。
その次には「結婚式に流したい曲」があった。
そのプレイリストの「共同作成者」の欄には、知らない名前が増えている。
4年前にはなかったプレイリストだった。
遠距離恋愛だった彼とは、その後どうなったのだろう。
私の知らない4年のあいだに、先輩の人生は少しずつ進んでいたらしい。
「結婚式に流したい曲」には王道のウェディングソングは一つも入っていない。
代わりにくるり、スピッツ、SAKEROCKが変わらず入っている。
洋楽やカントリー系の曲など、私の知らない「共同作成者」が追加した曲もあった。
少し先輩と似ていて、でも先輩ひとりでは選ばなさそうな曲たちだった。
このプレイリストはいつ作られたのだろう。
もう結婚式はおわったのだろうか。
先輩たちの結婚式は、きっと音楽にこだわったんだろう。
なんだか先輩らしいな、と思った。
私も、社会人になった年から毎年「その年のプレイリスト」を作っている。
今思えば、人付き合いも住む場所も環境がガラリと変化した。
入っている曲は少しずつ変わるのに、なぜか毎年スピッツの「冷たい頬」だけは残っている。
満員電車に押しつぶされる中でも、
遠距離の恋人に会いに行く道中も、
お風呂場で泣きながら流した時も、
いつもこの曲がそばにあった。
少し切ない歌詞を、キラキラしたメロディが照らす。
そして草野さんの優しい歌声が、いつでも私を包んでくれる。
新しい曲に夢中になる年があっても、気づけばまたこの曲に戻ってきてしまうのだ。
変わらず好きでいるものが自分の中にもある。
「結婚式流したい曲」リストの中にある、ハンバートハンバートの「メッセージ」を自分のプレイリストに追加した。