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Photo byatelierminori

お昼休みにかぼちゃのニョッキを仕込む

    にゃんこが足にまとわりつくのを交わしながら、台所に立つ。

    邪魔されないよう、にゃんことは事前に遊び、体力を削っておいたはずなのに、9ヶ月にゃんこはまだまだやんちゃざかり。途中途中手を止めて、おもちゃを投げる。こんな犬みたいな遊び方をするなんて、飼い始める前は思わなかったなと眺めていると、もう足元におもちゃを持って帰ってくる。いつも持ってきてと言っても持ってこないくせに、なんなんだ。


    平日の夜は私が作る。とは言っても、週に1度の買い出しのとき、何が食べたいか夫と話し合う。そして1週間のメニューを決め、なんとなくの材料を買っている。その中からその日に何を作るかは、気分や材料の賞味期限の都合で私が決めている。

    そんな中、この前の夕飯の時、突然「今日の晩ご飯はなんだろうって、ワクワクしながら帰りたい。」と夫が言いだした。


    遠距離恋愛中、夫の家に遊びに行ったときのこと。仕事で遅く帰ってくる夫のために、家にある材料でなんとなく作った、おかずクレープにとても感激したそう。卵と牛乳、薄力粉でクレープを作り、照り焼きチキンとレタス、マヨネーズをちょっと垂らして巻いた、おかずクレープ。まさか、夜ご飯にクレープが出てくるという発想がなくただただびっくりした、あの時の驚きを、また味わいたいらしい。

    人の記憶というのは曖昧なもので、同じ時を過ごしても、記憶の残り方は違う。私の記憶では、え、そんなに喜んでいたっけ?と言う感じ。作ったことは覚えてはいる。ただそんなに喜んでくれていたかしら?と疑問だ。

    別におかずクレープが毎晩食べたいわけじゃない。え、何これ!美味しそう!っていう、夫の予想を超える、新しいメニューとの出会いをしたいそう。そんなの、適当にGoogleマップで検索して、目新しいお店に行けばいいと思うのだが。何を料理人でもなんでもない私に求めているのやら。遊んでとにゃんにゃん鳴いて要求してくるにゃんこよりも厄介だ。

    私の今の平日の過ごし方的に、そんなのは難しい。あの時は、まだ、学生だったから。暇だったから!毎日ほぼ寝巻きのような格好で送り出して、同じような格好で迎えているけれど、日中はパソコンをカタカタやって、私も働いているのだ!と、主張したい。

    それにさ、言わないとわからない。食べる側の喜び方が、夫には足りない。食レポのように味の説明はいらない。疲れていても、美味しいのならば、もっと喜んでほしい。私が仕事で疲れていても作りたくなるように、夫もできることはあると思う。夫に足りないのはリアクション。リアクション芸人めっちゃ好きなのに、見て笑うだけではなく、良いところは取り入れてほしいものだ。


    そんな夫が作るお昼ごはんもパターンが決まっている。メインのおかず、作り置きの副菜、そのまま入れられるミニトマトやブロッコリーなどを用意して、朝の気分で作ってもらう。

    メインのおかずは、鯖や鮭を焼いたり、豚肉を炒めたり。調理はシンプルにできるものを用意しているのだが、たまに夫が工夫を凝らしてくれる。あんかけにしてみたり、軽く素揚げして甘辛いタレに潜らせてみたり。昼休み、いつものようにレンチンして、創意工夫されたおかずの美味しさに驚いて、思わず夫にLINEする日もある。

    その日の夫は、帰宅してすぐ、「今日のおかずそんなに美味しかった?」と嬉しそうだった。

    私でいう、何これ!?うっまー!って今すぐ伝えたくなるあの驚きが、夫が言うおかずクレープの日だったのだろうか。

    「夫、初めてのおかずクレープの日」を例にあげてくるということは、あれ以来、おかずクレープを超えるものがないってことだろうか?私は夫が作ってくれたここ最近の料理をあげられるのに。

    私の料理の腕は、やる気と元気の有無によって前進と後退を繰り返し、今どの辺にあるのか、いまいちわからない。夫と一緒に料理を作りながら、お互いの手腕を比べ、あ、負けたなと思った揚げ物は素直に白旗を振った。夫がせっせと揚げ物をする横で、私は揚げたてを食べるのを楽しみにしている。


    ある昼休み、いつも通りお昼ごはんを食べ終え、すぐ食器を洗う。お昼休みはあと35分ほど、今日は何をして過ごそうかなと考えを巡らした。にゃんこは珍しく、窓からプランターに一房生えている雑草が、ゆらゆら揺れているのを食い入るように見ている。たまに見ているから、雑草は抜かずにそのまま、いつの間にかにゃんこの背を超える高さまで伸びた。

    この時間、いつもだったらバナナのおもちゃ箱から猫じゃらしを持ってきて、遊べと言わんばかりに足に戯れてくるのに、今日は自分時間を堪能している。

    これはまたとないチャンス!!頭の片隅で、作れたら作りたいとほんのり思っていた、かぼちゃのニョッキを作ることにした。ニョッキの生地まで作っておいたら、夜は丸めて茹でるだけ。レシピをスクロールすると途中で出てくる、生地を3時間寝かすという言葉に絶望しなくて良い。

    思い立ったら即始める。かぼちゃの皮を切り落とし、1口大に切る。レシピのかぼちゃの量より100gほど多いけど、多く作って残ったら、お弁当のおかずにしようと全て使うことにした。シリコンボールに入れて蓋をして、電子レンジでチン。柔らかくなったかぼちゃを、フォークでじわーっとつぶす。マッシャーやら、ミソマドラーやら、専用の洒落た料理器具が欲しいけど、私は使いこなせる気がしない。興味本位で購入し、1回使ってなんか違った捨てようとなりがちなので、夫に購入を止められている。このニョッキが上手くいったら、ついにマッシャーを購入するかもしれない。

    そして、塩と小麦粉を分量通り入れて丸め、ラップでピッチリ包む。ここまでできたら、冷蔵庫で5時間寝てもらう。いいな、私も寝たい。

    時計を見るとお昼休み残り10分を指している。急いで洗い物をし、仕事に戻った。


    時刻は18時5分。定時間際に電話がかかってくるというピンチはあったが、なんとか仕事終了。そそくさと片付け、にゃんこと遊ぶ。100円の猫じゃらしで家中を走り回って激しく遊んだ後、猫じゃらしを咥えて床に寝っ転がったら満足した合図。すかさず夜だけの特別メニュー、ウェットフードをあげて、私は夕飯作りに取りかかる。

    5時間ぶりのニョッキの生地は、水分がよく馴染み、少しベタついていた。そこで、まな板と手に強力粉を気持ち多めにつけて、表面に粉をはたき、どうにかやり切ろうと試みた。生地を細長く伸ばし、1cm幅で切る。それを手で丸め、人差し指で判を押すようにくぼみをつける。ズラーっとまな板に並んだニョッキを見てもうやりがいを感じた。

    お湯を沸かしている間に同時並行でソースを作る。今日は、得意のクリームソースにする。フライパンに油を引き、にんにくチューブを気持ち多めにぷにゅっと出す。火をつけて1cm角に切ったじゃがいも、凍ったままのシーフードミックスを入れて炒める。じゃがいもがうっすら透明になったら、小麦粉を入れて炒め、牛乳を入れて伸ばしていく。分量を計らずともいつも美味しくできる適当クリームソースだ。

    続いてニョッキを茹でる。沸騰したお湯にニョッキを入れ、3分経ったら取り出す予定だった。

    ソースを作っている間に、表面だけ小麦粉をつけて誤魔化した水分は、まな板まで滲み出て、ニョッキをまな板から離さない。それでもどうにか引き剥がそうと、無理やり取ったら、形は簡単に崩れた。結局1つ1つまた形を整えるはめになった。

    分量以上のかぼちゃに、小麦粉を増やさなかったことが悔やまれる。しかし、時間との勝負。ここでしょんぼりする暇はない。気持ちを切り替え、今度は大丈夫!と背中を押すように人差し指で判を押し、ぐつぐつとマグマのような熱湯の中へと送り出した。1つ1つ入れるのに時間がかかるので、送り出しと並行して茹で上がったニョッキをフライパンに移動する。

    上に浮かんできたら茹で上がりとは、なんてわかりやすい。不幸中の幸いとはこのこと。最後のニョッキをフライパンの中の、ニョッキの山の天辺に置く。白いクリームの上に、鮮やかなオレンジ色がきれいで一瞬躊躇したが、沸々したクリームとニョッキを絡め、仕上げに取りかかった。

    ふと、そろそろ夫が帰ってくるころかなと、スマホを見るが、まだ連絡がない。ということは今日は残業である。このままお皿に盛り付ければ1番美味しい出来立てだったのに、今日に限って残業とは、人生はそう上手くはいかない。


    19時20分。夫帰宅。ニョッキを食卓に並べる。ニョッキが出てくるなんて、1mmも予想していない夫は、驚いているのか驚いていないのか、よくわからない顔をした。「あなたの発想は、斜め上をいくから!」と、褒めているのかこれまたわからない言葉をいただく。

    かぼちゃのニョッキは、柔らかくかぼちゃの甘みが感じられて、美味しかった。シーフードの旨みが凝縮され、ニンニクがガツンとくるクリームソースとの相性も抜群だった。最後にチーズを入れるかどうか迷ったけど、入れなくて正解、そのままでも濃厚で美味しかった。

    こんな感じで味の感想を言ってくれると嬉しいんだけどね、なんて夫に言うと、いや、無理だわと、おでこにシワを寄せ、手をひらひらする。

    やっぱり夫は、作り手を喜ばせるリアクションが足りない。いっそのこと、リアクションは私に任せて、料理に専念してはどうかと提案した。それが嫌なら、夫は大声で「うまーーーーーい!」と叫ぶしかないが、さぁ、どうする?


    そんな茶番を繰り広げる食卓の下で、にゃんこは気持ちよさそうに眠っていた。


     
     
    夫とにゃんことの日常を、 その日の気分で綴っています。

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