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カセットテープ時代に作った「自分だけのベストテープ」の選曲を、今Spotifyで再現する

部屋の片付けや引っ渡しの折、あるいは実家の押し入れの奥底から、プラスチックのケースに入ったカセットテープが出てくることがある。

インデックスカードを開くと、そこには丸文字や丁寧な手書きの文字で、ぎっしりと曲名が並んでいる。
『MY BEST '93 AUTUMN』『夜に聴くドライブ用』『FOR MY SISTER』。

1980年代から90年代にかけて、青春時代を過ごした世代にとって、「自分だけのベストテープを作ること」は単なる音楽の保存作業ではなかった。
それは、自らの感性やその時々の青い情熱を1本のテープに注ぎ込む、極めて個人的で濃密なクリエイティビティの儀式だったのだ。

当時を思い返してみてほしい。
ラジオのエアチェックで、ノイズが入らないよう祈りながら録音ボタンを押した緊張感。
CDレンタルショップで何時間も悩みながらアルバムを選び、レンタル料金をやりくりした日々。

そして何より、「46分」や「60分」という限られたテープの尺に、いかに美しく曲を収めるかというタイム計算の苦心。

A面の最後にピッタリ収まる数分の曲を探し出し、B面の1曲目にはどんな印象的なイントロを持ってくるか。
曲間の秒数までこだわり抜いて作られたそのテープには、当時の自分の「好き」という感情や、言葉にできなかった思いが完璧なストーリーとしてパッケージ化されていた。

今夜試してみたいのは、あの頃の情熱をそのまま現代の音楽サブスクリプション(SpotifyやApple Musicなど)に持ち込み、「当時のベストテープのプレイリスト」を自らの手で再現してみるという静かな遊びである。


制限があったからこそ美しかった「46分間の物語」

サブスクリプションサービスが開花した現代、数千万曲もの楽曲が指先ひとつで瞬時に再生できるようになった。
シャッフル再生やAIによるおすすめプレイリストは極めて優秀で、私たちは探す手間もなく音楽を消費している。

しかし、便利さと引き換えに失われてしまったものもある。
それは「1曲目から最後の曲までを、順番通りに聴き通すという深い没入感」だ。

カセットテープの時代には「スキップ」や「検索」といった概念は手軽に存在しなかった。
早送りや巻き戻しにはキュルキュルという物理的な時間がかかり、基本的には作られた順番通りに音に耳を傾けるしかなかった。

だからこそ、選曲には物語が必要だったのだ。

激しいアップテンポの曲で心を揺さぶった後、静かなバラードでクールダウンさせ、最後に少し切ない余韻の残る曲で締めくくる。

今、スマホの画面上でプレイリスト作成ボタンを押し、記憶の底や昔のノートを頼りに曲を1曲ずつ追加していく。
かつて暗記するほど繰り返し聴いたあの曲順を画面の上に並べていく作業は、まるでタイムカプセルの蓋を30年ぶりに開けるような感覚をもたらしてくれる。

荒い音質のノイズの向こうに透けて見える「10代・20代の自分」

プレイリストが完成したら、お気に入りのイヤホンを耳に装着し、静かに「1曲目」の再生ボタンを押してみる。

デジタル処理されたクリアな音源であるにもかかわらず、脳内ではあの頃のテープ特有の「サー」というヒスノイズや、曲が切り替わる瞬間のカチャッという機械音が勝手に再生されるような錯覚に囚われる。

音質は格段に良くなっているのに、立ち上ってくる空気感は当時のそのままだ。

  • テスト勉強をしながら、深夜ラジオの声をBGMに聴いていた自室の机の匂い。

  • 初めてのドライブで、助手席の雰囲気にドキドキしながらカーステレオに差し込んだ時の冷や汗。

  • 誰にも言えない失恋の痛みを抱え、夜のバスの窓に額を押し付けて聴いたあのサビのフレーズ。

当時のプレイリストを再現して気づかされるのは、自分がどんな旋律に救われ、どんな歌詞に憧れ、どんな感情を大切に抱えて生きていたかという「心の原風景」だ。

50代になった今の生活の中で、私たちは日々のタスクや責任に追われ、自分の感情を後回しにすることに慣れすぎてしまっている。
しかし、かつてのベストテープの曲順を辿ることで、「自分にはこんなにも繊細で、情熱的な感情があったのだ」という事実を、理屈抜きで思い出すことができるのだ。

誰にも見せない、大人のためのパーソナルな宝物

現代のSNSのように、「誰かに見せるため」「いいねをもらうため」に作ったプレイリストではない。

かつての自分が、ただ自分のためだけに(あるいは特定の誰かのためだけに)時間をかけて編み上げた、純度100%のパーソナルな作品。

それをデジタル空間にそっと復刻させ、日常の通勤電車や、夜の静かなリビングで耳を傾ける。

「やっぱりこのA面最後のつなぎ、天才的だな」と、自画自賛しながら小さく口元を緩める。

1曲目から最後の曲まで流し終えた時、そこには高価な買い物や大げさなイベントでは決して味わえない、深くて優しい充足感が広がっているはずだ。

押入れの奥に眠るカセットテープは再生できなくなっていても、そこに込められた情熱は、今のスマホの中でいつでも息を吹き返す。
今夜は手元の画面で、自分だけの「青春の46分」を組み直してみてはいかがだろうか。

※TOP画像には、すずのまるさんのイラストをお借りしました。

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