「キラキラした同世代のInstagram」をそっとミュートし、日陰の静けさを手に入れる
夜、スマートフォンの画面を無意識にスワイプしていると、タイムラインに飛び込んでくる同世代たちの鮮やかな日常。
ホテルのアフタヌーンティーで楽しそうに微笑む同級生。
「夫と週末ドライブ」というコメントと共に投稿された、外車のステアリングと景色の写真。
お洒落なカフェで「素敵な仲間たちと刺激的な時間」を過ごしたと綴る元同僚。
孫の誕生や成長を、可愛らしい洋服と共に誇らしく報告する知人。
画面をスクロールする指を一瞬止め、写真を見つめる。
嫌悪感というほど激しいものではない。
しかし、心の中に「モヤッ」とした、小さく冷たい澱(おり)のようなものが沈殿していくのを感じる。
「みんな、なんて充実した人生を送っているのだろう」
「それに比べて、今日の自分は一体何をしていたのだろう……」
50代の私たちがSNSを見て感じる疲弊感の本質は、若い世代の派手な投稿に対する嫉妬ではない。
「自分と同じだけの年月を重ねてきたはずの同世代」が放つ、眩しすぎる輝きに対する漠然とした敗北感と疲労感だ。
今夜試してほしいのは、そうした比較の連鎖を自分の手で断ち切り、心地よい「日陰の静けさ」を取り戻すための、静かなスマホの作法である。
SNSに並ぶのは、他人の人生の「ハイライト」
まず冷徹な事実として認識すべきなのは、InstagramをはじめとするSNSの上に映し出されているのは、その人の人生の「最も映え(ばえ)ている上位0.1%のハイライト」に過ぎないということだ。
画面の向こうで優雅に紅茶を飲んでいるその人も、カメラのフレームから外れた場所では、夫婦関係の冷え込みに悩んでいるかもしれないし、親の介護の重圧に押し潰されそうになっているかもしれない。体調の悪化や、老後の資金に対する不安で眠れない夜を過ごしている可能性だって十分にある。
しかし、SNSというメディアの性質上、人々は「他人に羨ましがられる自分」「幸せな自分」の断片だけをトリミングし、彩度を上げて投稿する。
つまり私たちは、「他人の編集されたハイライト集」と「自分の泥臭く冴えない日常のすべて(NGカット含む)」を比較しているのだ。
勝負になるはずがないのである。
それにもかかわらず、画面を眺め続けることで、脳は勝手に比較を行い、余計なエネルギーを消費していく。
これほどコストパフォーマンスの悪い精神的自傷行為もないだろう。
「アンフォロー」ではなく「ミュート」という、大人の配慮と護身術
「だったらSNSなんて辞めればいい」というのは簡単だが、大人になれば付き合いというものもある。
アカウントを削除したり、突然フォローを解除(アンフォロー)したりすれば、「何かあったのかな」「怒らせてしまったかな」と余計な波紋を呼ぶリスクがある。
そこで活用すべきなのが、主要なSNSに備わっている「ミュート機能」だ。
相手との相互フォロー関係は維持したまま、自分のタイムラインにだけ相手の投稿が表示されないように遮断する。
相手にはミュートしたことすら通知されない。
豪華な外食や旅行の投稿が眩しすぎる知人。
やたらとリア充ぶりや自己啓発的なポエムを連投する同級生。
子供や孫の自慢が止まらない元同僚。
自分の心がざわつくのを感じたら、罪悪感を覚える必要は一切ない。
画面の右上にある「…」ボタンを静かにタップし、「投稿をミュート」を選ぶだけだ。
それは相手を拒絶することではない。「今の自分の精神衛生を守るために、一時的に目隠しをする」という、極めて健全な自己防衛なのだ。
「日陰」だからこそ味わえる、心地よい静けさと自由
気になるアカウントを片端からミュートしていくと、タイムラインは一気に静まりかえる。
そこに残るのは、街で見かけた猫の写真、好きな作家のつぶやき、あるいは料理のレシピ動画といった、誰の承認欲求も乗っていない淡々とした情報だけだ。
画面から「他人のキラキラした人生」が消え去った時、私たちは初めて、自分が立っている「日陰(ひかげ)」の心地よさに気づくことになる。
日向(ひなた)は眩しく、華やかだが、常に太陽の光に晒され、汗をかき、他人の目を気にし続けなければならない場所だ。
一方で、日陰は静かで、涼しく、誰の視線も気にすることなく、ゆっくりと腰を下ろして息をつくことができる場所である。
「他人に見せるためのキラキラした生活」など、50代の私たちにはもう必要ない。
自分の部屋で着古した部屋着を着て、温かいお茶を飲みながら、くだらない本を読む。
誰にも自慢できないような質素な夕飯を食べ、誰の評価も気にせずに早めにベッドに入る。
その「何でもなさ」こそが、誰にも脅かされない、最高に贅沢で静かな自由なのだ。
スマホの画面を閉じ、部屋の照明を少し落としてみる。
そこにあるのは、他人の人生のノイズから完全に遮断された、自分だけの穏やかな時間。
今夜はタイムラインをそっと掃除して、自分だけの上質な「日陰」へと非難してみてはいかがだろうか。
※TOP画像には、星凪 | なぎさんのイラストをお借りしました。
