「昔通っていた原宿・渋谷のあの場所」を、YouTubeの街歩き動画で夜な夜な探訪する
夜も更けた23時。
家族が寝静まったリビングで、あるいはベッドの中でスマホの画面をタップする。
YouTubeの検索窓に入力するのは、流行のタレントの名前でも、ニュースのキーワードでもない。
「原宿 街歩き 4K」「渋谷 センター街 散歩」「裏原宿 WALKING TOUR」。
画面上に現れるのは、カメラを片手に街をただ淡々と歩くだけの、音声の解説すら入らない高画質の散歩動画(Walking Video)だ。
視聴者は画面越しに、あたかも自分がその街を歩いているかのような目線で、現在の街並みを体験することになる。
1980年代後半から90年代にかけて、青春時代を過ごした世代にとって、原宿や渋谷という街は特別な磁場を持っていた。
学校の休み時間、ファッション誌『Olive』や『anan』、『MEN'S NON-NO』のページを擦り切れるほどめくり、地図を頼りに探した裏原宿の小さなショップ。
放課後や週末、背伸びをして歩いた竹下通り、明治通り、そして公園通り。
今夜試してほしいのは、わざわざ休日に電車を乗り継いで人混みの中へ出かけることではない。
夜の静寂の中で、動画を通じて「あの頃自分が通り過ぎた場所」の現在地を訪ね歩く、大人のためのデジタル散歩である。
変貌を遂げた街並みと、変わらない「地形の骨格」
画面の中のカメラは、原宿駅から竹下通りを抜け、明治通りへと向かって進んでいく。
映像に映し出される店舗の看板は、ほとんどが自分の知っているそれとは異なっている。
かつて足繁く通ったレコードショップ、小さな古着屋、輸入雑貨の店、たむろしていたカフェ。
それらの多くは時代の波に押し流され、外資系のファストファッションブランドや、海外観光客向けのインバウンドショップへと姿を変えている。
「あそこにあった店、何だっけ……」
記憶の糸を手繰り寄せながら画面を見つめる作業は、まるで地層の発掘作業のようだ。
しかし、どれほど店舗が入れ替わり、ビルが建て替えられようとも、街の「地形の骨格」そのものは驚くほど昔のまま残っている。
表参道から一本裏に入った「裏原宿」の緩やかな坂道の傾斜。
キャットストリート(旧渋谷川遊歩道)の独特な蛇行のカーブ。
渋谷の宮下公園周辺から道玄坂へと至る、地形の窪みと路地の狭さ。
カメラがその角を曲がった瞬間、脳内の古い記憶と現在の4K映像がぴったりと重なり合う。
建物は変わってしまっても、その場所を歩いた時の体の感覚、上り坂で少し息が切れた記憶、あの路地に入ると急に静けさが広がった空気感は、驚くほど鮮明に蘇ってくるのだ。
現場へ行かないからこそ味わえる「感傷と快適さのいいとこ取り」
実際問題として、50代になった今の私たちが、休日に原宿や渋谷の真っ只中へ出かけるのは想像以上にハードルが高い。
押し寄せる若い世代や観光客の人波、絶え間ない騒音、歩き疲れてもどこも満席で入れないカフェ。
無理をして現地を訪れても、体力を削られ、「もう自分の知っている街ではないな」という寂しさと疲労感だけを抱えて帰宅することになりかねない。
しかし、夜のYouTube散歩であれば、そうしたストレスは一切存在しない。
混雑に揉まれることもなく、人混みの圧力に疲弊することもない。
自分の好きなタイミングで一時停止し、気になる路地を拡大して観察できる。
足の痛みを心配する必要もなく、手元には温かいお茶や大人のためのお酒がある。
「ノスタルジーの美味しいところだけを、圧倒的に快適な環境で安全に摂取する」。
これは、大人だからこそ知っている、知的な現実逃避の作法と言える。
画面の中の歩行者は、若者たちとすれ違いながら淡々と歩を進めていく。
自分自身がかつてその若者の一人だったという事実を、客観的な視点で静かに噛みしめる。
そこには、過去を無理に懐かしむのではない、一歩引いた心地よい寂しさと納得感がある。
「街の記憶」を辿り終えたあとに訪れる、静かな肯定感
動画のカメラが渋谷駅前のスクランブル交差点に差し掛かり、信号が青に変わる。
画面いっぱいに広がる現代の眩しいネオンと、交差する人々の群れ。
かつてその交差点の真ん中で、これからの人生に理由のない焦りや期待を抱いていた20代の自分がいた。
それから30年が経ち、街は変わり、自分自身もまた歳を重ね、多くの出来事を経験して今ここにいる。
「あの街で過ごした時間があったから、今の自分がいるのだな」
画面を閉じ、部屋の明かりを元の明るさに戻す。
遠い記憶の街を旅したあとの心には、どこか遠出をして帰ってきた時のような、静かで穏やかな余韻が残っているはずだ。
かつての自分と現在の自分が、画面を隔ててそっと握手を交わすような時間。
今夜はスマホを片手に、青春の足跡が残るあの路地へ、静かに散歩に出かけてみてはいかがだろうか。
※TOP画像には、れいさんのイラストをお借りしました。
