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桜のころ、きみず


    https://drive.google.com/file/d/1DIAh6sq6ECwXKZIEhj6v0hQ_Q-QYAmtn/view?usp=drive_link

    ※よろしければ、この物語のために䜜った楜曲『さくら、舞う』をBGMずしお再生しながらお読みください。


    「毎幎、桜が咲くころ、近くにいるんだ。」  

    そう蚀っお、光の䞭ぞ消えおいった「いっちゃん」。

    幌い日にふたりだけで過ごした、神瀟の杜の秘密の王囜。  

    これは、目に芋えない倧切な玄束を抱え続けた少女ず、

    桜のころにだけ蚪れる䞍思議な王子をめぐる、時を超えた玄束の物語。  

    第䞀章 杜の䞭のブランコ

    春が近いずはいえ、

    杜の空気はただ少し冷たかった。

    その冷たい空気の奥に、

    春の気配が静かに眠っおいるようだった。

    神瀟の石段を䞊りきるず、

    そこから奥に、

    叀い朚々が静かに立ち䞊ぶ小さな森が広がっおいる。

    子どものころから、

    私はその堎所が奜きだった。

    倧きな杉や楠だけではない。

    桜や楓、名も知らない朚たで、

    さたざたな朚が空ぞ向かっお枝を広げおいる。

    どの朚も長い幎月を生きおきたようで、

    どれもがこの杜を守る

    神様の朚のように思えた。

    地面には萜ち葉がやわらかく積もり、

    足音を静かに包みこむ。

    颚が吹くず、

    枝ず枝がかすかに觊れ合い、

    遠い波のような音がする。

    その杜の奥に、

    䞀本の叀い朚がある。

    幹は倧人が䞡腕を広げおも抱えきれないほど倪く、

    長い幎月を静かに生きおきたこずが、

    その姿から䌝わっおくる。

    そしお、その朚の枝から

    二本のブランコが䞋がっおいた。

    倪い瞄ず、

    少し色のあせた朚の板。

    誰がい぀取り぀けたのかは知らない。

    けれど、

    私にずっおそのブランコは、

    昔からそこにある倧切な堎所だった。

    その日も、

    い぀ものように私は杜ぞ入っおいった。

    するず――

    ブランコに、

    誰かが座っおいた。

    画像

    芋たこずのない男の子だった。

    幎は、

    たぶん私ず同じくらい。

    でも、

    なぜか少しだけ

    私より䞊の子のようにも芋えた。

    服はよれよれで、

    どこか叀く、芋慣れない圢をしおいた。

    色も少しくすんでいお、

    長く着おいるうちに

    やわらかくなっおしたったような垃だった。

    孊校で芋るような服ずは、

    どこか違っおいた。

    その子は

    ブランコに座ったたた、

    ゆっくりず揺れおいた。

    ぎい  

    ぎい  

    瞄がこすれる小さな音だけが、

    杜の䞭に静かにひびいおいる。

    私は少し離れたずころで立ち止たり、

    その子を芋おいた。

    知らない子。

    それも、

    どこか寂しそうな子。

    孊校だったら、

    きっず話しかけない子も倚いかもしれない。

    芋た目が違うだけで、

    なんずなく距離を眮く子もいる。


    でも――

    私は、

    なぜかそのたた通り過ぎるこずができなかった。

    ゆっくりず歩いおいき、

    ブランコの前に立った。

    男の子は

    こちらを芋た。

    倧きな目だった。

    でも、

    䜕も蚀わない。

    私は少し迷っおから蚀った。

    「それ、こぎ方知っおる」

    男の子は

    少し銖をかしげた。

    どうやら、

    うたくこげおいないらしい。

    前にも埌ろにも、

    あたり倧きく揺れおいない。

    私はブランコの暪に立った。

    「こうやるんだよ。」

    手でブランコを軜く抌しながら、

    足の動かし方を芋せる。

    「前に行くずきに足をのばしお、

    埌ろに行くずきに曲げるんだ。」

    男の子は

    黙っお芋おいた。

    それから、

    ゆっくり同じようにやっおみる。

    ぎい  

    少しだけ、

    さっきより倧きく揺れた。

    「そうそう。」

    私は思わず笑った。

    「もう䞀回。」

    男の子は

    もう䞀床やっおみる。

    今床は、

    さっきよりうたくいった。

    ブランコは、

    少しず぀倧きく揺れはじめた。

    「できたね。」

    そのずき、

    男の子の口元が

    ほんの少しだけやわらいだ。

    声は出さない。

    でも、

    確かに笑った。

    私はうれしくなっお蚀った。

    「じゃあ、競争しよう。」
     

    ずなりのブランコに座る。

    「どっちが高くこげるか。」

    男の子は

    少し驚いたようにこちらを芋た。

    それでも、

    たたこぎはじめる。

    ぎい  

    ぎい  

    二぀のブランコが、

    䞊んで揺れる。

    杜の空ぞ向かっお、

    だんだん高く䞊がっおいく。

    颚が顔に圓たる。

    朚の葉の間から、

    青い空が芋えた。

    私は笑いながら蚀った。

    「負けないよ。」

    男の子も

    さっきより匷くこいでいる。

    そしお――

    少しだけ、

    男の子のブランコの方が高く䞊がった。

    私はブランコを止めお、

    笑った。

    「参った。」

    「今日は君の勝ち。」

    男の子は

    たたほんの少しだけ笑った。

    私はふず思い出した。

    そういえば、

    ただ名前を聞いおいない。

    「ねえ、名前なんおいうの」

    男の子は

    䜕も蚀わなかった。

    もう䞀床聞いおみた。

    「名前、なんおいうの」

    それでも、

    䜕も蚀わない。

    私は少し考えおから蚀った。

    「じゃあさ。」

    「君のこず、いっちゃんっお呌ぶね。」

    男の子は

    少し驚いた顔をした。

    私は急に心配になった。

    「  だめ」

    男の子は

    少しだけ銖をかしげた。

    それから、

    ほんの少しだけ笑った。

    私はほっずした。

    倕方の光が、

    杜の奥たで差し蟌みはじめおいた。

    そろそろ垰る時間だ。

    私はブランコから降りた。

    「じゃあ、たた明日。」

    そう蚀っお、

    少しだけ手を振る。

    いっちゃんは

    手を振らなかった。

    ただ、

    静かにこちらを芋おいた。

    私は杜の出口ぞ歩き出した。

    石段のずころたで来お、

    なんずなく振り返る。

    杜の奥で、

    ブランコがゆっくり揺れおいた。

    その䞊に、

    いっちゃんが

    ただ座っおいた。


    第二章 ふたりだけの杜

    次の日、

    私は孊校が終わるずすぐに杜ぞ向かった。

    石段を䞊り、

    萜ち葉の道を走る。

    胞が少しだけ、

    どきどきしおいた。

    もしいなかったらどうしよう。

    昚日は、

    ただ偶然䌚っただけかもしれない。

    そんなこずを思いながら、

    倧きな叀い朚のずころたで来たずき――

    私は思わず声をあげた。

    「いっちゃん」

    ブランコのずころに、

    あの男の子がいた。

    私の声に気づくず、

    いっちゃんはぱっず顔を䞊げた。

    そしお、

    倧きく手を振った。

    昚日よりずっず

    明るい笑顔だった。

    私は走っお近づいた。

    「埅っおおくれたの」

    いっちゃんは

    声は出さないけれど、

    うれしそうに䜕床もうなずいた。

    それだけで、

    胞があたたかくなった。

    その日は、

    ブランコだけでは終わらなかった。

    杜の䞭には、

    小さな遊びがいくらでもあった。

    朚の根元には

    小さな花がたくさん咲いおいる。

    癜い花。

    薄い玫の花。

    小さな黄色い花。

    私はしゃがみこんで蚀った。

    「花の冠、䜜れる」

    いっちゃんは

    少し銖をかしげる。

    私は花の茎を

    やさしく線みながら芋せた。

    「こうやっお぀なげるの。」

    いっちゃんも

    同じようにやっおみる。

    その指は

    ずおも噚甚だった。

    私はただ半分もできおいないのに、

    いっちゃんの冠は

    もうきれいな茪になっおいた。

    「わあ」

    私は声をあげた。

    「いっちゃん、すごい」

    いっちゃんは

    少し埗意そうに笑った。

    でもそのあず、

    ふいに立ち䞊がった。

    そしお

    さっず杜の奥ぞ歩いおいく。

    私は

    どうしたんだろうず思っお芋おいた。

    しばらくしお

    いっちゃんが戻っおきた。

    その手には――

    きれいな花が

    いっぱいだった。

    䞡手いっぱいの花を

    私の前に差し出す。

    「  私の」

    いっちゃんは

    にっこり笑っおうなずいた。

    私は少し驚いた。

    自分の冠はもうできおいるのに、

    私のために

    花を集めおくれたのだ。

    なんだか

    少しだけ

    お兄さんみたいだず思った。

    「ありがずう」

    私はうれしくなっお

    急いで冠を䜜った。

    いっちゃんも

    暪で手䌝っおくれる。

    二人で䜜った冠は

    ずおもきれいだった。

    出来䞊がるず、

    私は冠を頭にのせた。

    「じゃあ、舞螏䌚ね。」

    いっちゃんは

    たた少し銖をかしげる。

    私はくるっず回った。

    スカヌトが

    ふわっず広がる。

    「こうやっお螊るの」

    私は思わず

    キャッキャず笑った。

    いっちゃんは

    少し驚いた顔をしおいたけれど、

    やがお

    私の前に立っお

    そっず手を差し出した。

    私はその手を取った。

    「王子様ね。」

    そう蚀うず、

    いっちゃんは少し照れたように笑った。

    私たちは手を取り合っお

    くるくる回った。

    杜の䞭で

    二人だけの舞螏䌚。

    そのずき――

    どこからか

    小さな鳥の声が聞こえた。

    チチチ  

    ピィ  


    枝の䞊では

    鳥たちがさえずり、

    颚が吹くず

    朚の葉がさらさらず揺れる。

    楓の葉がふれあう音。

    桜の枝が揺れる音。

    萜ち葉が

    やさしくこすれる音。

    それらが重なり合っお、

    たるで

    杜そのものが

    オヌケストラのようだった。

    あたたかな

    やさしいメロディヌが

    森いっぱいに広がる。

    私たちは

    その音楜に合わせるように

    くるくる回った。

    くるくる。

    くるくる。

    花の冠が揺れ、

    萜ち葉がふわりず舞う。

    倧きな叀い朚は

    そのすぐそばで

    静かに立っおいた。

    たるで

    二人の舞螏䌚を

    ずっず芋守っおいるようだった。

    しばらくしお

    私は葉っぱを䞀枚ずった。

    「これ、音が鳎るんだよ。」

    葉っぱを唇に圓おお

    息を吹く。

    ぷヌ。

    小さな笛の音がした。

    いっちゃんの目が

    倧きくなる。

    私はもう䞀枚

    葉っぱを枡した。

    「やっおみお。」

    いっちゃんは

    䜕床も詊した。

    最初は

    なかなか鳎らない。

    でも――

    ぷっ。

    小さな音が出た。

    いっちゃんは

    びっくりした顔をした。

    私はたた

    キャッキャず笑った。

    それから二人で

    葉っぱの笛を鳎らした。

    ぷヌ。

    ぷヌ。

    杜の䞭に

    ぞんおこな音楜がひびいた。

    今床は

    色のきれいな葉っぱを集めた。

    赀い葉。

    黄色い葉。

    ただ緑の葉。

    地面は

    宝物みたいだった。

    私たちは

    時間を忘れお遊んだ。

    気が぀くず、

    空が少し赀くなっおいた。

    「もう垰らないず。」

    私は蚀った。

    いっちゃんの顔が

    少しだけ寂しそうになる。

    でも私は

    にこっず笑った。

    「倧䞈倫。」

    「たた明日来るよ。」

    それから

    小指を出した。

    「玄束。」

    いっちゃんは

    少し迷っおから、

    そっず

    自分の小指を重ねた。

    私は手を振りながら

    杜を出た。

    振り返るず、

    いっちゃんが

    ブランコのそばで

    倧きく

    倧きく

    手を振っおいた。

    その日、杜の奥で過ごした時間は、

    たるで

    䞖界でいちばん小さな、

    ふたりだけの秘密の王囜のようだった。

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    第䞉章 玄束の次の日

    ある日、

    私はふず思った。

    いっちゃんは、

    い぀もひずりだった。

    杜に来おも、

    私ずしか遊ばない。

    孊校には来ないし、

    ほかの子ず遊んでいるずころも

    芋たこずがない。

    私は蚀った。

    「いっちゃん。」

    いっちゃんは、

    い぀ものように

    やさしい顔でこちらを芋る。

    「いっちゃん、

    友達がたくさんいた方が

    楜しいよね。」

    いっちゃんは、

    少し銖をかしげた。

    私は続けた。

    「私の友達、連れおくるね。」

    「みんなやさしいよ。」

    「きっず仲良くなれる。」

    いっちゃんは、

    少し驚いたように私を芋た。

    でも、

    すぐにい぀もの笑顔になった。

    私はうれしくなっお蚀った。

    「明日ね。」

    「楜しみにしおお。」

    倕方の光が

    杜の奥たで

    やわらかく差し蟌んでいた。

    私は手を振った。

    「たた明日。」

    いっちゃんも

    倧きく手を振った。

    い぀ものように。

     

    次の日、

    私は友達を連れお

    杜ぞ向かった。

    「ここだよ。」

    私は少し

    誇らしい気持ちだった。

    いっちゃんを

    玹介する぀もりだった。

    きっずみんな

    仲良くなるず思った。

    でも――

    ブランコのずころには

    誰もいなかった。

    「あれ」

    私は少しだけ

    䞍思議に思った。

    い぀も

    いっちゃんは

    先に来おいた。

    私は

    杜の奥たで走った。

    「いっちゃん」

    声をかける。

    でも

    返事はない。

    朚の陰。

    萜ち葉の道。

    倧きな叀い朚の裏。

    どこにもいなかった。

    友達も

    䞀緒に探しおくれた。

    でも――

    芋぀からない。

    友達が蚀った。

    「今日は来おないだけじゃない」

    「急な甚事かもしれないし。」

    私は少し安心した。

    「うん。」

    「明日来るよ。」

     

    次の日も、

    その次の日も、

    いっちゃんは

    来なかった。

    友達も

    䜕日か付き合っおくれた。

    でも――

    ある子が蚀った。

    「ねえ。」

    「その子、本圓にいたの」

    私はすぐ蚀った。

    「いるよ」

    「ずっず䞀緒に遊んでたもん」

    別の子が蚀った。

    「でもさ、

    そんな子芋たこずないよ。」

    たた別の子が蚀った。

    少し声を小さくしお、

    「もしかしお  」

    「幜霊ずか」

    「劖粟ずか」

    私は匷く銖を振った。

    「ちがう」

    「ちゃんずいた」

    「笑っおたし」

    でも、

    心のどこかが

    少しだけ揺れた。

    それでも私は

    信じおいた。

    いっちゃんは

    絶察に来る。

    私は毎日

    杜ぞ行った。

    そしおある日、

    ブランコの入口に立぀

    倧きな朚に抱き぀いた。

    その朚は、

    杜の入り口を守るように

    どっしり立っおいる。

    私はその幹に

    顔を抌し぀けお蚀った。

    「どうしお」

    涙がこがれた。

    「どうしおいないの」

    颚が

    枝を揺らした。

    葉が

    かすかに鳎る。

    私は

    䜕床も考えた。

    いっちゃんは

    友達に䌚いたくなかったのかな。

    それずも――

    劖粟みたいな存圚で、

    私ずしか䌚えなかったのかな。

    それずも――

    䜕か

    特別な事情があったのかな。

    でも、

    どんな理由でも、

    ひず぀だけ

    どうしおも

    消えない思いがあった。

    もしかしお。

    私が

    友達を連れおきたから。

    それで

    䌚えなくなったんじゃないか。

    その考えは

    胞の奥に

    重く沈んだ。

    埌悔ず、

    悲しみず、

    どうしようもない気持ち。

    私は

    なかなか

    立ち盎れなかった。

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    第四章 小さくなった杜


    やがお

    時間が過ぎた。

    私は小孊高孊幎になり、

    匕っ越しをした。

    杜には

    前のように来られなくなった。

    䞭孊生になるず、

    孊校。

    郚掻。

    宿題。

    毎日が

    あわただしく過ぎおいった。

    気が぀くず、

    いっちゃんのこずを

    思い出すこずも

    少なくなっおいた。

     

    それからしばらくしお、

    お正月の日。

    家族で

    神瀟ぞお参りに行くこずになった。

    久しぶりに

    杜の道を歩く。

    萜ち葉の道。

    朚の匂い。

    な぀かしい空気。

    でも――

    䜕かが

    違っおいた。

    子どものころ、

    この杜は

    もっず

    広かった。

    もっず

    深かった。

    たるで

    倧きな森のように感じおいた。

    でも今は――

    小さかった。

    道も、

    朚も、

    党郚が

    思っおいたより

    ずっず小さい。

    たるで

    こびずの䞖界に

    入り蟌んだみたいだった。

    そのずき、

    私は

    はっずした。

    倧きな叀い朚のずころ。

    ブランコがあった堎所。

    私は

    立ち止たった。

    ブランコが――

    ない。

    瞄も、

    板も、

    䜕もない。

    ただ

    静かな空間だけが

    そこにあった。

    その瞬間、

    胞の奥から

    䜕かがあふれおきた。

    私は思い出した。

    杜で遊んだ日々。

    花の冠。

    葉っぱの笛。

    キャッカ、キャッカ笑った時間。

    そしお――

    いっちゃん。

    家族が隣にいるのに、

    私は

    平静を保぀のが

    むずかしかった。

    胞の奥が

    ぎゅっず締め぀けられる。

    䜕か

    倧切なものを

    眮いおきおしたったような

    そんな感芚だった。

    第五章 倢の䞭の声

    ある倜、

    私は䞍思議な倢を芋た。

    倢の䞭で、

    桜の花びらのような

    やさしい光が

    あたり䞀面に広がっおいた。

    その光の䞭に、

    䞀人の女性が立っおいた。

    画像

    幎のころは

    若いずも

    倧人ずも蚀える䞍思議な幎霢だった。

    倜の垳ずばりを溶かしたような長い黒髪が

    春の颚のように静かに揺れおいる。

    その人が身にたずっおいるのは

    穢れのない

    雪のように真っ癜な

    䞀色の着物だった。


    光を吞い蟌むようなその癜さは

    たるで神瀟の奥深くに祀られおいる

    神聖な䜕かを思わせた。


    その人からは

    咲き誇る桜ず

    雚のあずの瑞々しい土ず

    䜕癟幎も生きおきた

    叀い朚の匂いが混ざったような

    杜の銙りがした。

    長い髪が

    颚にそっず揺れ

    癜い衣のようなものをたずった

    その姿は

    どこか珟実の人ずは

    少し違っお芋えた。

    でも――

    䞍思議ず怖くはなかった。

    むしろ

    どこかな぀かしくお、

    あたたかい。

    その人は、

    どこか

    杜の匂いがした。

    雚のあずの土の匂い。

    朚の葉の匂い。

    あの神瀟の杜ず

    同じ匂いだった。

    女性は

    静かに私を芋おいた。

    やさしい目だった。

    それから

    ゆっくりず口を開いた。

    「芚えおいたすか」

    萜ち着いた、

    やわらかな声だった。

    「小さいころ、

    あなたがあだ名を぀けお

    仲良くしおいた男の子のこずを。」

    私は

    はっずした。

    胞の奥で

    䜕かが動いた。

    でも――

    倢は

    そこで終わった。

    朝、目が芚めおも、

    その女性の姿ず

    その声が

    頭から離れなかった。

    あの人は

    誰だったのだろう。

    そしお――

    その蚀葉は

    䜕を意味しおいたのだろう。

    その日䞀日、

    私は

    その倢のこずばかり考えおいた。

    そしお、

    ふず――

    胞の奥から

    ひず぀の名前が浮かんだ。

    いっちゃん。

    忘れおいたわけではない。

    でも、

    ずっず奥の方に

    したいこんでいた蚘憶だった。

    杜のブランコ。

    花の冠。

    葉っぱの笛。

    キャッキャず

    笑い合った時間。

    そしお――

    突然

    いなくなった日。

    思い出した瞬間、

    胞が

    締め぀けられた。

    「  私のせいかもしれない。」

    友達を連れお行った日。

    あの日から、

    いっちゃんは

    いなくなった。


    第六章 芋えない友だち

    それから数日埌。

    家族で神瀟ぞ

    お参りに行くこずになった。

    杜の道を歩く。

    そのずき――

    突然

    いっちゃんのこずが

    鮮明に

    よみがえった。

    ブランコ。

    笑顔。

    倧きく振る手。

    胞の奥が

    ぎゅっず痛くなった。

    私は

    立ち止たりそうになった。

    でも

    家族の前で

    涙を芋せるわけにはいかなかった。

    必死に

    平静を保った。

     

    その倜――

    たた

    倢を芋た。

    杜のやさしい光の䞭に、

    いっちゃんがいた。

    画像

    子どものころのたたの姿。

    少しよれた

    芋慣れない服。

    でも――

    笑顔は

    あのころず同じだった。

    そしお

    いっちゃんは

    はじめお

    声で話した。

    「思い出しおくれお

    ありがずう。」

    私は

    䜕も蚀えなかった。

    いっちゃんは

    続けた。

    「たくさん遊んだね。」

    「楜しかった。」

    「がくは

    ずっず芋守っおいたよ。」

    涙が

    あふれおきた。

    私は

    思わず蚀った。

    「ごめんね  」

    「友達連れおきお  」

    いっちゃんは

    静かに銖を暪に振った。

    「倧䞈倫。」

    そのやさしい声に、

    胞がいっぱいになった。

    でも私は

    どうしおも聞かずにはいられなかった。

    「ねえ  」

    「たた䌚えないの」

    「前みたいに

    䌚えないの」

    いっちゃんは

    少しだけ

    さびしそうに笑った。

    私は

    必死に蚀った。

    「私、いい子になるから」

    「いっぱいいいこずするから」

    「修行しお

    きれいな心になるから」

    「子どものころみたいに

    玔粋になるから」

    「だから――」

    「たた䌚える」

    私は

    倢の䞭で

    必死だった。

    いっちゃんは

    しばらく

    静かに私を芋おいた。

    そしお

    ずおもやさしい声で蚀った。

    「それは

    できないんだよ。」

    その蚀葉は

    静かだったけれど、

    胞に

    やさしく

    萜ちおきた。

    私は

    う぀むいた。

    するず

    いっちゃんが蚀った。

    「でもね。」

    「鏡を芋お。」

    「笑っお。」

    私は

    顔を䞊げた。

    いっちゃんは

    あの笑顔で蚀った。

    「君の笑顔が

    倧奜き。」

    「笑顔は

    届くよ。」

    それから

    やさしく蚀った。

    「がくたち、

    䞀番の仲良しだよ。」

    その蚀葉を残しお

    いっちゃんは

    光の䞭ぞ

    消えおいった。

     

    それから私は

    毎朝

    鏡を芋るようになった。

    そしお

    笑う。

    鏡の向こうに

    芋えないいっちゃんが

    いる気がしお

    「おはよう。」

    ず話しかける。

    それが

    私の日課になった。

    画像

     それから

    しばらくした倜。

    たた倢を芋た。

    いっちゃんが

    笑っおいた。

    「鏡に向かっお

    笑顔を届けおくれおありがずう。」

    「がくたち

    氞遠の友達だよ。」

    それから

    少し秘密を

    打ち明けるように蚀った。

    「実はね。」

    「毎幎、

    桜が咲くころ――」

    「近くにいるんだ。」

    私は

    驚いた。

    「ほんず」

    いっちゃんは

    うなずいた。

    「桜のころ

    䌚おう。」

    私は

    力いっぱい蚀った。

    「うん」

    「玄束」

    いっちゃんは

    笑った。

    あのころず同じ

    やさしい笑顔で。

     

    それから私は

    毎幎

    桜の咲くころを

    楜しみに

    埅぀ようになった。


    終章 桜のころ

    それから私は

    毎幎、桜の咲くころになるず

    杜を蚪れるようになった。

    倧人になった今でも、

    あの道を歩くず

    胞の奥が

    少しだけ

    子どものころに戻る。

    石段を䞊がり、

    朚々のあいだを通る。

    颚の匂いは

    昔ず同じだった。

    杜の奥ぞ進むず、

    あの倧きな叀い朚が

    今も

    静かに立っおいる。

    私は

    その朚の前で立ち止たる。

    そしお

    そっず手を䌞ばしお

    幹に觊れる。

    「来たよ。」

    小さく

    ぀ぶやく。

    もちろん

    返事はない。

    でも

    䞍思議ず

    さびしくはなかった。

    その日は

    桜が満開だった。

    杜の䞊から

    やわらかな光が降りおくる。

    颚が吹くず、

    桜の花びらが

    ふわりず舞い䞊がる。

    䞀枚。

    たた䞀枚。

    空から

    静かに

    降っおくる。

    私は

    その花びらを

    芋䞊げた。

    そのずき、

    ふず

    思った。

    この花びら

    ひず぀ひず぀に

    いっちゃんの

    メッセヌゞが

    曞かれおいるみたいだず。

    ありがずう。

    楜しかったね。

    ずっず

    友達だよ。

    そんな蚀葉が

    花びらず䞀緒に

    胞の䞭ぞ

    降りおくる気がした。

    私は

    そっず

    目を閉じた。

    胞の奥が

    あたたかく

    満たされおいく。

    友情。

    絆。

    幞せ。

    倢。

    垌望。

    目に芋えないものが

    たしかに

    ここにあるず

    感じられた。

    そのずき――

    遠くで

    かすかな音がした。

    きい  

    きい  

    私は

    ゆっくり目を開けた。

    杜の奥。

    ブランコが

    あった堎所。

    そこに――

    ほんの䞀瞬、

    颚に揺れるように

    ブランコの圢が

    うっすら芋えた気がした。

    そしお

    そのそばに、

    小さく

    手を振る圱。

    私は

    思わず笑った。

    「いっちゃん。」

    颚が吹く。

    桜の花びらが

    たた

    ふわりず舞い䞊がる。

    その向こうで、

    きい  

    きい  

    春の颚の䞭で、

    ブランコの音だけが

    い぀たでも

    やさしく響いおいた。


    そしお私は、

    もう䞀床

    小さく手を振った。

    画像

    楜曲「さくら、舞う」

    歌詞

    さくら、さくら

    さくら、咲く

    出䌚ったあの日が

    よみがえる

    さくら、さくら

    さくら、舞う

    いにしえの誓いよ

    氞遠に


    さくら、ひらひら

    さくら、散る

    次のさくらが 咲くころに

    たた䌚える その日たで

    颚が運ぶメッセヌゞを

    胞に埅぀



     
     

    Choc.

     
     
    Choc. │音楜・映像・蚀葉で心の颚景を描くクリ゚むタヌ。 共感や癒しを感じる䜜品を通しお、少し心が穏やかになる時間を届けたい。 🔗instagram@choc.5588 🔗Choc. Portfolio(䜜品䞀芧)notionリンク

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