エレベーターと掃除のおばちゃま
私はおばちゃまのファンだ。
おばちゃまは、私が働くビルの清掃員である。
「お疲れ様です、いつもありがとうございます」と声をかけるとニコニコして挨拶を返してくれるおばちゃまはとても優しく、愛嬌に溢れている。
私が事務室内のゴミを捨てにいく時、おばちゃまは「重そうねぇ」と言って、一緒にゴミ袋を持ってくれたことがあった。
すれ違った時には、私の手提げカバンに付いたマスコットが可愛いと褒めてくれたこともあった。
そんな上記の経験を勝手にファンサと呼び、私は掃除のおばちゃまを密かに推している。おばちゃまのチェキやアクスタがあれば購入したいが、何処に売っているのか皆目検討がつかない。
ある日、エレベーターで掃除のおばちゃまと乗り合わせることができた。おばちゃまに話しかけたいが、ファンですと声をかけるのも変なので、静かに心をときめかせていた。
他にも何人か乗ってきて、私は彼らの行きたい階数を聞いてはボタンを押していく。エレベーターの行き先を示すボタンはいくつも光っていた。
しかし、各階へ止まるごとに降りていく人々の流れを見守りながら、私は何かがおかしいと感じていた。
降りた人達は心ここに在らずと言った表情で、ぼうっとしながら降りていく。
しかも各階に一人ずつ降りるはずだったのに何故か二人一緒に降りていく階があることや、ドアが空いてしばらく間が空いた後にフラフラと降りる人がいた。
そのエレベーターは何階まで上がったのかアナウンスしないもので、今どこにいるのかがわかりづらい。そう言うわけで、彼らが何階かわからないけどとりあえず降りているのではないかと不安に感じたのである。
上昇するエレベーターの中で、7階へ向かうおばちゃまと9階へ向かう私は二人きりになった。
しかし、光っているボタンは「6」「7」「9」の3つである。
明らかに一人足りない。
私に6階へ行くと伝えてボタンを押させた人はどこへ消えたのだろうか。
6階でドアが開き、降りる人を待ってみたが虚しく時が過ぎるだけであった。人が消えたという事実に不安になった私はおばちゃまに話しかけた。
「ここで降りたかった人はどこへ行ってしまったんでしょうね、、。間違って降りちゃったなら、気づいて教えてあげられれば良かったです、、。」
おばちゃまは落ち込む私を励ましてくれた。
「いいのよ、みんな自分で承知して降りたんだから。職員に報告もしなくていいからね、二人の秘密よ。」口元に人差し指を添えてにっこりと笑いながら去っていく、サービス精神旺盛なおばちゃま。
彼女はそのまま6階で降りていった。
おばちゃま、7階で降りるって言ってたのに。
あんたも間違えるんかい。
気づいた時にはもう遅かったので、少しの罪悪感に心を痛めながら、奥へと消えていったおばちゃまを思い、ドアの「閉」ボタンをそっと押した。
「いいのよ、みんな自分で承知して降りたんだから。職員に報告もしなくていいからね、二人の秘密よ。」と、おばちゃまの言葉が頭の中で優しくこだました。
おばちゃまも自分で承知して降りていったのだろう。大丈夫だ、きっと。
おばちゃまは優しいだけでなく、面白い存在なのかと、より一層好きになった出来事であった。
次会った時は、ファンですと声をかけたい。