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これっきりですか?|アマノ文筆クラブ作品

    waki

    その男は狂に取り憑かれていた。
    震える手にあるのは、丸く小さな木の器。
    中には、蛇のようによじれる半透明の細い紐が、粘り気のある汁に浸かって横たわっている。
    男はそれを一心不乱に、底なしの墓穴へと流し込み続けていた。

    「はい、じゃんじゃん」

    頭に響く感情の失せた女の呪詛が響き続けている。
    肉体が拒んでも、無慈悲に呪いは器へ注がれる。男は冷や汗が全身から噴き出し、視界は歪んでいた。もう限界だ。ここで終わらねば命が無い。

    男は最後の力を振り絞り、震える手で素早く器に蓋を叩きつけるように被せた!

    カツン、と乾いた音が静寂に響く。

    終わった。もう女の声は聞こえない。地獄からの生還だ。
    男に安堵の涙が流れた。
    血走った目でゆっくりと振り返る……。

    だが女はまだそこにいた。一歩も動かない。ただ冷徹な眼光で男を 見下ろし、不気味に微笑んだ。

    「……お客様、まだ三十杯ですが、これっきりですか」

    女はゆっくりと器を差し出した。

    (了)

    こちらに参加させていただきました。

     
     
     

    waki

     
     
    50代。 新聞販売店勤務を経て、体調不良から在宅ワークを模索中。 AIにノセられ、webライターや創作に挑戦しています。 ChatGPTと相談しながら、人生を少し立て直し中。 このnoteでは、50代の日常、AIとの付き合い方、働き方の不安や挑戦を、静かに書いています。

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