
司書語り|さよならを綴じる日
─ 図書館で過ごす小さな別れの記録 ──
図書館の片隅で、私は今日も一冊の本に
「除籍」の印を押した。
ページの端はすこし黄ばんで、
表紙の角はやわらかく丸くなっている。
たくさんの人の手を渡り歩いてきたその本は、
静かに「役目を終えた」ことを
受け入れているように見えた。
除籍とは、本にとっての
「終わり」の儀式だ。
新しい版が出たりページが破れすぎたり、
もう読まれなくなってしまったり。
理由はさまざまだが、どんな時も
そこには少しの寂しさがある──
私はそのたびに、
ページを指先でそっと撫でてしまう。
開くたびに漂う紙の匂い。
ページの間に挟まっていた誰かの栞。
鉛筆で小さく書かれた印──。
それらを見つけるたびに、
この本がここで過ごしてきた時間を感じた。
リサイクル本として、
もう一度誰かの手に渡る本もある。
けれど破れが深く背が割れてしまったものは、
最後まで静かに図書館に残る。
そして、ある日ひっそりと
段ボールの中に収められていく。
その瞬間、
私はいつも小さく心の中で呟く。
「ありがとう」と。
この本が語ってきた時間は、
確かにここにあった。
読み継がれてきた言葉のひとつひとつが、
静かに空気の中に溶けていくように。
人は新しい本に心を寄せながらも、
古い本の中に「自分の時間」を
見つけているのかもしれない。
ページを閉じる音が、
やさしい別れの音に聞こえた──
「命をつないできた本たちへ 」
何度も借りられ、何度もページをめくられ、
誰かの涙や笑顔といっしょに過ごした本たち。
その一冊一冊が、
この場所を静かに支えてきた。
除籍という言葉の裏にあるのは、
「ありがとう」という祈りだと私は思う。
今日。箱に詰めた本たちも、
確かにここで生きていた。
それを忘れないことが、
私のいちばん大切な仕事なのかもしれない──
また、次の投稿でお会いしましょう。📚✨