メインコンテンツへスキップ
見出し画像

Vengeance(リライト版)​【第6話】妻の幸せを願って

    「ルシフェル、そろそろ俺の復讐話は終わりそうだ。お前の楽しい時間が終わってしまうが寂しいか?」

    業火の中で笑う俺の問いかけに、ルシフェルはニヤリと笑った。

    「……いやそうでもないぞ、ここからが一番面白いところではないか?お前が我が手に落ちる瞬間の話なのだから」

    奴は愉悦を隠そうともせず、静かに耳を傾けた。

    「では続きを話していくとしようか……」

    画像

    妻の祖父母を貶め、祖母を死に追いやった『中沢』。妻を薬物で壊した『古賀』。病に伏せる妻に群がった強欲な『両親』。子どもたちへのイジメとそれを助長した『大人』たち。

    そして、顔を隠したまま言葉の刃を振りかざす『匿名攻撃者』たち。

    俺は…俺の家族に手を出した奴らに復讐してきた。
    だが俺の復讐は、個人的な怨恨を超え、自分とは無関係なはずの『匿名の中傷者』たちへの報復にまで至ったのだ。

    奴らは、永遠に癒されることなく、もがき、苦しみ、それでも生かされ続け、苦痛を纏い、ルシフェルが好む上質の魂を生み出していく。そして遠くない将来、その魂はルシフェルの手の中に落ちるのだ……。

    俺の復讐は終わった……もういい。

    俺は、血の契約にある『自分の復讐のためだけに使う力』を他人のために使ってしまった。

    …今、俺はルシフェルの手に落ちようとしている。だが、完全に囚われる前に、やり残したことが一つだけある。



    妻は古賀に虐げられた屈辱、そして自分を責め立てた親や世間の視線という、暗い記憶の鎖に縛られ続けていた。夜ごと、悪夢にうなされ、罪悪感に苛まれる彼女を見るたび、俺の復讐には何の意味もなかったと痛感した。

    ​彼女の苦しみの根源は、
    「薬物依存…そして性奴隷となった記憶」
    そのものだ。

    その記憶を消し去ることができれば、彼女は解放される。

    ​しかし、それはルシフェルとの契約の掟に、真っ向から反する行為だった。

    ​『他人のために、ルシフェルの力を使って
     はならない』

    ​俺がこの力を使えば、彼女は解放される。だが俺は、死ぬことすら許されない、永遠の苦痛が待つ地獄へ堕ちる。​

    画像

    俺は、眠る妻の顔を見つめた。その寝顔は、安らかさとは程遠く、歪んでいた。

    ​「俺の魂の全てを代償にしても、お前を救いたい。俺の人生は、お前を愛するためにあったのだから」

    ​俺は、最後の選択をした。

    ​夜中の3時。俺は、妻の眠る枕元に跪いた。

    ​「ルシフェル。契約に基づき、力を貸せ。これは、俺の全てを懸けた、俺自身の選択だ」

    ​その瞬間、ルシフェルが、地獄の業火をまとった影の中から、静かに姿を現し、満足そうに輝く瞳を細めた。

    画像

    「血の契約違反を黙って見逃し、力を貸せとは、随分身勝手な言い分だとは思わぬか、人間」

    「……ルシフェル。『もし自分以外の誰かのために力を使えば、代償として、俺の肉体と魂は永遠に地獄に閉じ込められ焼かれ続ける』それが契約のはずだ。他人のために『使うな』とは言われてない。代償さえ払えば、この力、最後にどう使おうが俺の勝手なはずだ。お前こそ力の契約を破るのか?」

    ​「……掟を破るか…それもよかろう。
    お前がその力を彼女の安寧のために使えば、お前の魂は、私の元で永遠の慰みものとなる。お前が得た全ての復讐の満足感と妻への愛と悦びは、お前を焼く苦痛の炎を更に激しく燃やすことになるのだ。
    永遠に……、永遠にな!」

    ​「望むところだ」

    ​俺は、奴の憎たらしくも悦に満ちた顔から視線を外し、妻に向けた。​

    画像

    俺の力が、妻の心へと注ぎこまれていく。これまでの復讐とは比べ物にならない、愛と集中を必要とする力の行使だった。

    俺は、彼女を蝕むどす黒い記憶……薬物の陶酔、古賀の卑劣な指先、親たちの強欲な声……それら全てを、彼女の魂から優しく、丁寧に剥ぎ取っていった。それは復讐に染まったこの手で行う、最初で最後の救済だった。

    ​彼女の顔が、僅かに苦痛に歪んだ後、深い安堵へと変わった。彼女の魂から、重い鎖が解き放たれたのが、手に取るようにわかった。​

    画像

    その瞬間、俺の身体に、雷が落ちたような激痛が走った。

    ​「血の契約を破ったな…貴様の魂は
     今、この瞬間から私のものだ!」

    ​ルシフェルの咆哮が、アパートの壁を打ち破るように響き渡った。

    ​俺の胸に焼き付けられた裏切りの烙印が、真っ赤に燃え上がり、魂を焼き始めた。肉体が崩壊するような、耐えがたい苦痛。

    ​俺の肉体は、黒い闇に引きずり込まれ、意識が遠のいていく。

    画像

    消え去る間際、俺は安らかに眠る妻の顔に、そっと手を触れた。

    ​「……これで、良かったんだ…幸せになれ」

    ​俺は、満ち足りた思いと共に、深い、深い闇へと堕ちていった……。




    「そして貴様の魂は我が手中に落ちたと言う訳だ……。フハハ、人間とは愚かな生き物だ。永遠の苦しみが待っているのが分かっていながら、自ら引き金を引いたのだからな」

    「俺は…いや、俺の復讐は、俺のためじゃない。妻の幸せ、家族の笑顔…そのためのものだ」

    ​地獄の業火の中で、俺の心は澄んでいた。

    画像

    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
    著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


    #スキしてみて
    #私の作品紹介
    #堕天使との契約
    #世の中には復讐したい奴等がいる
    #悪魔の力を得た男
    #欲望にまみれた愚かな人間
    #無関心が無意識の悪意ある攻撃となる
    #ダークファンタジー
    #Vengeance

     
     
    60代で恋愛小説とダークファンタジーを書いています。 高校生の恋、不倫の恋、神と吸血鬼、日本百名山の頂、定年後のいま。 忘れられない“あのとき”を、今も言葉に残しています。

    あなたへのおすすめ