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Vengeance(リライト版)【第0話】地獄に座す男

    あらすじ
    詐欺師に全財産を奪われ、卑劣な知人に薬物漬けにされた妻。そして周囲の無関心といじめに晒された我が子。法も神も救わぬ絶望の中、男は悪魔ルシフェルと「復讐以外に力を使えば地獄に堕ちる」という血の契約を交わす。男は闇の力で、家族を蹂躙した悪人どもを次々と生き地獄へ突き落としていった。 だが、復讐を果たしても妻の壊れた心は戻らない。男は最後に契約の掟を破ることを決意。己の魂の永劫の破滅と引き換えに、全ての力を妻の悲惨な記憶を消し去る「救済」へと捧げた。 魂を地獄の業火で焼かれ続ける男。しかし、最愛の家族が平穏を取り戻した光景を前に、その心は満ち足りた解放感に満ちていた。(全8話)

    俺は今、焼かれている。地獄の業火に。

    皮膚が爛ただれ、骨が軋きしみ、細胞の隅々まで熱に侵されている。
    死ぬことすら許されないこの場所で、永遠にこの痛みを味わい続けなければならない。
    魂が悲鳴を上げ、肉体が灰になってもすぐに再生させられ、そしてまた焼かれる。

    この地獄こそが、俺がルシフェルと交わした契約の代償だ。だが、後悔はない。

    奴らに復讐できた悦びと、愛した女の苦しみを消せたこと。それこそが、俺が今焼かれている意味なのだから。


    全身を焼く業火のただ中で、俺は顔を上げ、玉座に座すルシフェルを睨みつけた

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    ​ルシフェルは、漆黒の影のような姿でありながら、その瞳は冷酷な愉悦をたたえて俺を見つめている。

    奴は、俺の苦痛を最高の肴として、悠然とそこにいる。

    ​「人間の浅はかな愛と、醜い憎悪が織りなす物語ほど、私にとっての愉たのしみはないのだよ」

    ​ルシフェルは、皮肉めいた笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。

    ​「お前が選んだ道は、ここに辿り着いた。お前が満たされて笑うたび、その魂は地獄へと導かれていたのだ。

    愚かな人間よ……己の愛の代償が、永遠の拷問だと判っていたはずだろう?」

    ​ルシフェルの口から漏れる、哀れみにも似た台詞が滑稽だった。
    慈悲を装いながら、その実、愉悦に浸っているのが見え透すいている。

    ​「騙されたなんて思っちゃいないさ。お前と契約した時から地獄に落ちるのは分かっていたからな……。
    さあ、俺の魂を……、復讐で満たされたその全てを、記憶ごと喰らうがいい」

    ​
    かつての俺は、どこにでもいる冴えない男だった。愛する妻と二人の子供。貧しくとも、そこには確かな幸せがあった。

    しかし、その日常はあまりにあっけなく崩壊した。

    ​老いた義祖父母は詐欺師に全てを奪われて絶望の中に果て、妻は知人の裏切りによって薬物の泥沼へ突き落とされた。幼い子供たちの瞳からは、未来への光が消えた。

    ​法も、社会も、あまつさえ神すら、俺の憎しみを救ってはくれなかった。

    俺に残されたのは、愛する者を蝕むしばんだ世界への強い憎しみと、言いようのない挫折感だけだった。

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    ​「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある。俺は、その両方を知った…」

    ​その底なしの闇の中で彷徨っていた俺は、ルシフェルの囁きに耳を傾けてしまった。

    ​『お前の憎悪に、私が力を与えよう。どうだ、私と血の契約を交わすか?
     
    但し…与えた力は憎む相手への復讐のためだけに使うのだ。もし自分以外の誰かのために力を使えば、代償として、お前の肉体と魂は永遠に地獄に閉じ込められ焼かれ続けるだろう。(愚かな人間はそうなるのだがな……)』

    ​迷いはなかった。
    俺はこの力で、愛する者を踏みにじった「奴ら」を一人残らず裁きたかった。

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    金の亡者、卑劣な裏切り者、無責任な悪意を持つ者たち。

    俺が味わった苦しみを奴等に与えるため、俺はルシフェルと血の契約をしたのだ。
    俺の魂と引換えに……。

    神に見放された悪人たちは悪魔に魅入られる。奴等の所業により苦しむ人たちの苦痛は、悪魔の喜びであり、また悪人たちの腐った魂は、地獄で彼等の慰なぐさみ物となるのだ。

    俺がもたらす復讐。奴らが味わう絶望と苦痛。

    悪人たちのそれは、やがてルシフェルの力となり、愉悦となり続け、その契約は重みを増していった。

    ​だが俺の復讐は、全ての恨みを晴らしたあと、最後に契約の掟を破るという形で完結する。

    ​俺は、俺の命の全てを懸け、復讐の力すべてを、愛する女の救いのために使ったのだ。

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    ​その代償として、俺の魂は今、ここで焼かれている。

    『……お前が最後にその指先を誰かの涙を拭うために使った瞬間、この炎は約束されたのだ。それこそが私の最も待ち望んだ『結末』だったのだよ』

    ルシフェルは、俺の自己犠牲の結末を、最高のゲームの結末として楽しんでいる。

    ​「さて、どの物語から語るとしようか? 俺が契約の力を使い、復讐を果たしてきた 『奴ら』の話をな……」


    ​これは、一人の男が、愛のために全てを懸け、悪魔に抗あらがった、愚かで、しかし、魂が充足された復讐譚ふくしゅうたんである。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
    著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


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    60代で恋愛小説とダークファンタジーを書いています。 高校生の恋、不倫の恋、神と吸血鬼、日本百名山の頂、定年後のいま。 忘れられない“あのとき”を、今も言葉に残しています。

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