
Vengeance(リライト版)【第5話】真実なきネットの誹謗
前回、学校という密室の悪意を断罪した。
だが、悪意の根はもっと深い。顔と名前を隠し、責任から逃れる『奴ら』を、俺は見過ごすことはできない。
地獄の業火の中で焼かれながら、俺はネット中傷者たちの末路を振り返った。
ルシフェルは無関心を装いながら、至福の笑みを浮かべていた。
学校でのいじめ問題を解決した後、俺は悟った。妻の苦しみは、古賀や毒親、学校の大人たちといった個人の悪意だけが生み出したのではない。「無責任な悪意が蔓延する社会」そのものが、俺たちの人生を破壊したのだと。
今回俺が裁こうとしているのは、ある若い女性の人生を破壊し、彼女の死後も「正義を果たした」と高笑いしていた匿名の中傷者たちだった。

「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある」
名前を名乗らず、欲望のまま人を傷つける者たちよ。お前たちの平穏を、俺が地獄へ引きずり落としてやる。
彼らは、俺の妻を直接苦しめてはいないし、俺たち家族にも被害者はいない。しかし、その無責任な暴力は、いつか必ず俺の家族にも牙を剥く。
俺の復讐は、もはや個人の裁きではなくなった。愛する者を守るために、世の中に蔓延る『悪意のシステム』そのものへの報復にまで至ったのだ。
俺は契約の力を呼び出した。憎悪は、極限に達していた。
俺はネットを彷徨いながら、妻や子どもたちへの中傷と同じような、だが悪意にみちている中傷を主導した3人に辿り着いた。
悪意を持つ奴等の背後にはルシフェルの影が蠢いており、居場所を突き止めるのに時間は掛からなかった。
俺は三人の居場所を遠隔で捉え、力を解放した。
「ルシフェル。血の契約の下、復讐のための『闇の力』を俺に宿すが良い」
その瞬間、ルシフェルが、俺の背後、影の中から姿を現した。
「待て、人間よ」
ルシフェルの瞳が、冷酷に光を増した。
「その女は、お前の妻や家族ではない。私との契約は『お前自身の復讐』に限定される。これは、契約の掟だ。お前は血の契約を破るのだな?」
俺は、燃え盛る憎悪をそのまま奴に叩きつけた。
「黙れ! この復讐は、俺自身の復讐だ! 妻の精神を蝕み、子供を傷つけたのは、中傷という名の『無責任な悪意』だ。
この悪意の根源を断たなければ、俺の復讐は完遂しない。これは、俺の家族の安全を取り戻す為の、『俺自身の』裁きなんだ!」
ルシフェルは、その主張に、一瞬だけ沈黙した。そして、不快な笑みを浮かべた。
「フフッ……面白い。だが、その強引な正当化こそが人間の業というもの。いいだろう、その『嘘』に免じて力を貸してやろう……。
せいぜい、その脆い論理を盾にして、己の破滅への道を突き進むがいい。次にお前が掟を破る時、お前の魂は、私の手中に収まるのだからな」
ルシフェルはそう言い捨てると、再び影の中へと消えた。奴の言葉は、俺の行為が、「自己の破滅へと続く一本道」であることを再確認させた。
しかし、俺は止まらなかった。
悪魔の力は、彼らの「言葉の認識」を歪めた。
翌朝から、3人の匿名の中傷者の日常は、音を立てて崩壊し始めた。彼らがキーボードで文字を打つたび、あるいは口から言葉を発するたびに、彼らの脳内では、被害者が最後に味わった『絶望と苦痛の感情』が、生々しい映像と痛みとしてフラッシュバックするようになった。

会社員Aは、出勤後、上司に業務報告をするためにキーボードに触れた。人差し指が『Enter』を打鍵した瞬間、脳の奥で「終わらせてくれ」という被害者の最後の叫びが木霊した。その音と同時に、内臓を強く握りつぶされるような激痛が胃に走り、彼はその場に嘔吐した。彼にとって、文字を打つことは、物理的な拷問となった。
学生生Bは、大学のカフェテリアで友人と笑いながら「昨日見た動画が面白い」と口にした。その「面白い」という言葉の裏側で、被害者の魂が断たれる瞬間の苦悶と、SNSに寄せられた無数の「死ね」という文字の残像が響き渡った。全身が硬直して呼吸が止まり、彼は過呼吸に陥った。彼は言葉を発するたび、他人の絶望の重みに喉が焼かれるようになった。

主婦Cは、日常の出来事をSNSに投稿しようとした。文章の一文字一文字が、被害者の流した涙と血の重さとなって、指先から脳へ逆流してくる。彼女が『楽しい』と打てば、被害者の苦痛、悲しみが強烈な映像として頭に浮かび、精神的なパニックを引き起こすようになった。

彼らは、言葉を使うことそのものが、最も恐ろしい拷問となった。言葉を発すれば、絶望の痛みに焼かれる。言葉を断てば、社会から孤立する。彼らは、自分たちが殺した見ず知らずの相手の亡霊に取り憑かれ、永遠に苦しむことになった。
俺は、彼らが発する言葉の無責任さの代償を、彼ら自身の人生で払わせた。
俺は、この裁きに満足した。だが、ルシフェルは、俺に最後通牒を突き付けた。
血の契約にある『自分の復讐のためだけに使う力』を自分に牙を剥いていない者に使ってしまったからだ。
この時、俺の命脈はもはや尽きていた。
愛する女の眠る部屋へ帰る道すがら、俺は、ルシフェルとの契約の終わり、そして地獄での代償が迫っていることを肌で感じていた。
次にこの力を使う時は、もはや「俺自身の復讐」という言い訳は通用しない。俺は、最後の力の全てを懸けて、愛する者の救いのために使うことにした。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。
#スキしてみて
#私の作品紹介
堕天使との契約
#世の中には復讐したい奴等がいる
#悪魔の力を得た男
#欲望にまみれた愚かな人間
#無関心が無意識の悪意ある攻撃となる
#ダークファンタジー
#Vengeance