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Vengeance(リライト版)​【第7話】解放された心

    妻を蝕むどす黒い記憶を消し去った代償に、
    俺の魂はルシフェルに囚われた。

    そして、今。

    ​俺は地獄の業火に焼かれている。
    だが、焼かれながらも笑っていられる。魂の根底から焼かれる痛みも苦しみもある。だが、​妻を、家族を苦しめた奴らに復讐できた。そして何より愛する者の心を救うことができたのだ。

    その喜びと満足感が俺を支配している。その満足感が地獄の業火に焼かれる痛みを和らげるのだ。

    ​業火に照らされた地獄の空間で、ルシフェルが、興味深そうに俺を見つめている。

    ​「お前は、本当に愚かなのか、それとも……」

    ルシフェルは、不思議そうに俺を眺めている。

    ​俺は、燃え盛る痛みの中で、奴に問いかけた。

    ​「ルシフェル」

    ​「なんだ、愚かな人間」

    ​「俺が最後に使った力。あいつの記憶は、本当に消えたのか?」

    ​ルシフェルは、その冷酷に輝く瞳を俺に向け答えた。

    「お前の心の安寧あんねいを保つ話を私がすると思うのか? 私はお前が苦しむ姿こそが楽しみなのだぞ?」

    「ああ、分かっているさ。だが、人間の愛の深さは相反する憎しみを生む。お前は分かっているはずだ。人間の悪の根源が『愛』にあるのだと」

    「……だがお前に憎しみの心はない。故にお前の問いに答えることは、私には無意味でしかないのだ」

    「そうかな? 愛と相反する憎しみは『悪』だ。ならば、憎しみ、悪行を糧とする『地獄』は、同等の感情を持つ『愛』も糧になるんじゃないのか?」

    「……貴様の屁理屈は全くもって面白い。確かに『愛』は憎しみを生む。『悪』に匹敵する熱量もある……。まあいいだろう。お前の魂は私を飽きさせない。その褒美だ」

    「……悪魔にも『仏の涙』か……?」

    ルシフェルは呆れたような顔をし、妻に関する情報を話し始めた。

    ​「お前の妻の悪しき記憶は消えたよ。お前は彼女の脳から、薬物依存、古賀、親、中傷、……お前の復讐の対象となった全ての記憶を消し去った。まるで、病巣だけを切り取った外科医のようにな」

    ​「もう一つだけ教えてくれ……」

    俺は、かすれた声で尋ねた。

    「彼女は、俺を失ったことに悲しんでいるか?」

    ​ルシフェルは、その質問が最も人間的で愚かだとでも言うように、嘲笑った。

    ​「お前の自己犠牲の代償として、そこまで便宜を図ったわけではない。しかし彼女の心に残ったのは、お前を愛したという『感情』……そして、お前との暮らしの『温もり』だけだ」

    ルシフェルは、俺が問いかけるよりも先に、妻の心の奥底までをも語り始めた。

    ​「彼女は、お前を失った悲しみを感じている。だが、彼女に残ったのは、愛する人間を失ったと言う純粋な『哀しみ』だ。そして、その哀しみは、やがて時間と共に癒える。
    それがお前の望みだったのだろう?」

    ​俺は、地獄の炎の中で、心から安堵した。彼女は、過去の穢けがれのない、純粋な心と幸せな記憶だけを抱えて生きられる。俺が居なくなった悲しみはあると言うが、それはいつか癒える。

    ​ルシフェルは、燃え盛る業火の中に、俺の家族の現在の映像を映し出した。

    ​【妻と子供たちの今】

    ​映像に映し出されたのは、俺たちがかつて住んでいた小さなアパートだった。

    ​妻は、一部の記憶をなくし、かつての太陽のような輝きを取り戻したわけではない。

    だが、その顔には、薬物依存や過去の苦痛の影はない。彼女は、俺という夫を失った悲しみを抱えながらも、前を向いて歩き始めていた。

    ​彼女は、俺との過去の温かい生活の記憶だけを頼りに、幼い子供を抱きしめている。

    ​「パパはね、遠いところに行ってしまったの」

    ​妻は、真実を知らない。彼女は、俺がなぜいなくなったのか、どうして自分たちが今、平穏を取り戻したのかを知らない。

    ​しかし、彼女の心に残った「夫からの限りない愛情」という確信だけが、彼女を支えていた。

    ​子供もまた、父の不在に寂しさを感じながらも、いじめられることのない学校で、屈託なく笑っている。

    ​彼らの周りには、もう、古賀の影も、毒親の搾取も、無責任な悪意も、何一つ存在しない。

    ​妻たちは、俺が命を懸けて作り出した
    「安全な場所」で、愛という名の記憶だけを頼りに生きている。

    「それがお前の望みだったのだろう?」

    ルシフェルの問いが頭をよぎった…。

    ​「そうだな……できりゃ生きて共に歩きたかっがな」

    俺は地獄の炎の中で答える。

    「俺は、俺の人生を全うした。俺は地獄の住人だが、心は解放されている」

    ​俺の魂は、ルシフェルの力の源となり、また苦しむ姿は恰好かっこうの慰み物になるだろう。だが、俺は後悔していない。

    ​俺は、愛のために、神に抗い、悪魔に魂を売り渡した男だ。

    ​そして、その愛は、永遠に、地獄の炎の中で、俺を焼き続けるだろう。

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    地獄の業火に焼かれた男の心は解放された。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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    60代で恋愛小説とダークファンタジーを書いています。 高校生の恋、不倫の恋、神と吸血鬼、日本百名山の頂、定年後のいま。 忘れられない“あのとき”を、今も言葉に残しています。

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