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Vengeance(リライト版)【第3話】毒親―妻にたかる者―

    古賀は、快楽を唯一の『生き甲斐』として生きてきた愚か者だ。
    その快楽を奪えば、残るのは生き地獄しかない。奴は悪魔のような断末魔を上げながらもがき続けるだろう。

    ​古賀の苦しみはやがて絶望となり、奴の魂は
    五蘊盛苦ごうんじょうくに苛まれ、ルシフェルの顔は愉悦に満ちていった。

    だが、俺の苦しみはこれだけでは終わらない。愛する者を地獄へ突き落とした奴らを、一人残らずこの手で裁くまでは……。

    ​俺は地獄の炎の中で静かに呟く。ルシフェルは、俺の復讐の動機が憎悪から救いへと変質していく過程を観察していた。奴の表情には、確信めいた冷酷な期待が滲んでいた。

    ​妻が古賀の罠にかかり、心と身体を蝕むしばまれたとき、俺は、家族の愛が彼女を支えてくれると信じていた……。だが、それは甘い幻想だった。

    ​妻の父『田所』と母『美代子』。彼らにとって、娘の病は、金と体面を汚す災厄でしかなかった。

    ​妻の病状が進行し、治療費が膨大になると、彼らは一転して俺を激しく非難し始めた。

    ​「お前がしっかりしていれば、こんなことにはならなかったんだ」

    「治療費は誰が出すんだ? 親の私たちに迷惑をかけるんじゃない!」

    ​彼らの態度は、俺が最も憎む
    「搾取者の傲慢さ」そのものだった。

    ​特に、妻が心身ともに衰弱し、入院が必要になった時のことだ。

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    彼らは病院に見舞いに来るたびに、妻の枕元で囁いた。

    「薬物依存症だなんて情けない。世間様に恥ずかしいったら、ありゃしない」

    「とにかく早く治して、また金を送ってくれよ」

    世間体を気にするばかりか、実の娘の「不始末」のせいで、自分たちの生活費が足りなくなったと嘆なげいている。

    娘から取れないならばと、俺に多額の援助を要求してきた。

    彼らは、娘の苦しみを『ATMが故障した』程度の認識でしか見ていない。娘の不幸を、自分たちの生活に関する不利益と見なし、俺から慰謝料すらも脅し取ろうとしたのだ。

    ​俺の憎悪は、極限に達した。

    俺が世の中に絶望したのは、妻を傷つけた古賀の裏切りだけではない。この親たちの、血縁をも上回る身勝手な欲望に触れたからだ。

    ​「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある」

    ​奴らには、自分の欲望のために、娘の人生と心を切り売りすることの重さを知ってもらわねばならない。

    ​田所夫婦のアパートへと向かった俺は、憎悪の念を込めて契約の力を呼び出し、居間に足を踏み入れるなりその力を解放した。

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    ​「ルシフェル。血の契約の下、復讐のための『闇の力』を俺に宿すが良い」

    ​ルシフェルが、肩をすくめるようにして応じる。

    ​「ああ、人間関係の破綻はいつ見ても面白い。特に家族愛という幻想が崩れ去る瞬間は最高だ。
    親の愛情を偽った汚らしい魂は、いずれ私のもとに訪れる。存分に絶望させろ。魂が汚けがれれば汚れる程に、悪魔にとっては褒美ほうびになるからな。……それに、家族さえ地獄に落とすお前の魂もまた、同じように汚れていくのだ」

    ​悪魔の力は、彼らが「親」としての愛情と、他人から受ける「敬意」を剥奪した。

    ​翌朝、田所は近所の人間に挨拶をしようとしたが、相手は露骨に顔を顰しかめ、道の反対側へ渡る。

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    田所の衣服からは、腐敗した鼻を突き刺すような異臭が漂い、その眼光は犯罪者の如く濁っていた。

    ​美代子が友人たちに連絡しても、誰も電話に出ない。かろうじて繋がっても、美代子の発する言葉はすべて『卑しい金の話か、娘の不幸な話』として相手の耳に届き、忌々しげに電話を切られるばかりだった。

    ​彼らは、自分の存在が、周囲の人間にとって「居てはいけない醜い怪物」
    に見えていることに気づき始めた。

    何を言っても、周囲の人間には
    「醜い嘆きか、金の無心」にしか聞こえない。

    ​そして、最も彼らを苦しめたのは、娘(妻)の存在だった。

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    彼らが病院の妻に会いに行くと、妻は激しく怯え、彼らを拒絶した。娘の目にも彼らの姿は、異臭を漂わせる怪物にしか見えていないのだ。

    「来ないで!あなたたちは誰なの?」

    ​娘から拒絶され、社会から忌避きひされ、彼らは自らが「人と接する事さえ拒絶される存在」となったことを思い知った。

    彼らの周りには、金も、愛情も、そして僅かな敬意すら残っていなかった。誰からも必要とされない孤独の中で、彼らは自宅に籠こもり、精神を病んでいった。

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    ​俺は、彼らが崩壊していく姿を冷酷に見届けた。

    ​「お前たちが奪ったのは、娘の愛情と信頼。その代償として、お前たちは誰からも愛される事も、接する機会すら許されない『忌まわしい存在』として生きるのだ」

    ​復讐は終わった。
    だが、俺の心は鉛のように重かった。どれほど憎かろうと、彼らは妻をこの世に送り出した親なのだ。かつては彼らに感謝すら抱いていたが、金と体裁という自分本位の浅ましさは、復讐を果たしたあとも、俺の心をも削り取っていた。

    ​そして、俺は、次の復讐の標的に向かうため、愛する女の眠る部屋へと帰った。その寝顔を見つめながら、妻の苦しみが、俺の心を深く、深く突き刺すのを感じていた。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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    60代で恋愛小説とダークファンタジーを書いています。 高校生の恋、不倫の恋、神と吸血鬼、日本百名山の頂、定年後のいま。 忘れられない“あのとき”を、今も言葉に残しています。

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