
Vengeance(リライト版)【第4話】毒の連鎖―子供を苛む者たち―
前回、妻の両親である『田所』夫妻への復讐を果たした……。親の愛情を偽った奴らの末路は、ある意味俺の中に虚しさを覚えさせていた。
だが、俺が本当に許せないのは、罪なき子供の心を踏みにじる奴らだ。
俺が味わった苦痛の連鎖を、奴らにも必ず返してやる。奪われた平穏は、奪った者自身に返す。これが、俺の復讐の論理だからだ。
ルシフェルによって焼かれ続ける今、地獄の業火の中で、思い出すだけでも俺の心は煮え滾っていた。
そんな俺を見て、ルシフェルは満足そうな笑みを浮かべ、愉悦に浸っている。
「俺の復讐は全部見てきたはずだろう?」
「勿論…だが、復讐したはずの今現在も、露わになるその憎しみの残滓はどこから来るのだ? 満足したのではないのか?」
「ああ満足したさ。だがな、思い出すだけであの時の怒り、憎しみ、やるせなさが込み上げてくるんだよ。……そう思い出すだけでな……」
それは、幼い、悲しみに満ちた子供の顔。そして彼らを取り囲む冷酷な大人たちの姿だった。
数ある復讐の中でも、これほど私的な憎悪を叩きつけた裁きはない。古賀の毒牙に侵された妻。その悲劇に追い打ちをかけるように、俺たちの幼い子供までもが社会の悪意に晒されたのだ。

「お前のママは頭が狂ったんだろ? 変な声あげてたって、ママが言ってたぞ」
「病気がうつるぞ……みんな近寄るなよ〜」
親たちの勝手な好奇と悪意の言葉が、その子どもたちを経由し、そのまま無防備な子どもの心に叩きつけられた。中には直接暴力に訴える子どももいた。
そして、その状況を放置、あるいは助長した大人たち。
学校は
「センシティブな問題なので介入できない」
と責任を回避。
担任教師は
「家庭で解決してください」
と冷たく言い放った。
父兄たちは自分たちの「健全な家庭」を守るためだけに、俺たちの子供を孤立させた。
俺は、妻の病で挫折したのではない。
この大人たちの冷酷な無関心と真実とは関係ない罵りや蔑み。自分たちだけの保身のために、他人の子供を攻撃にする姿を見たとき、俺の心の奥底にあった「希望」は完全に砕け散り、世の中への憎悪が爆発したのだ。
許せなかった……。子どもを犠牲にする大人たちが。
奴らには、無実の子供の心を傷つけた代償と、自分たちの冷酷な無責任さが、どれほどの重みを持つかを知ってもらわねばならない。
「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある」
俺は、いじめを主導した子供たちの親、いじめを無視した担任教師、そして無責任な学校の管理体制を、まとめて標的に定めた。
俺は、憎悪に全身を震わせながら、力を解放した。
「ルシフェル。血の契約の下、復讐のための『闇の力』を俺に宿すが良い」
ルシフェルは、俺のその憎悪に満ちた顔を見て、満足そうに口角を上げた。
「素晴らしい感情だ。お前の子供への愛が、憎しみを増大させている。
人間の集団的な無関心が生み出す『保身』は、無意識の悪意ある攻撃になるのだ。奴らは地獄の門を叩いた事すら理解していないだろう。さあ、奴らの平穏を根こそぎ奪え!」
悪魔の力は、彼らが享受している『安全と平穏』という認識を、『不安定な脅威』へと置き換えた。
翌日から、彼らの日常生活の全てが、極度の不安と被害妄想に支配されるようになった。

担任教師は、生徒たちの視線が、自分を軽蔑し、陰で嘲笑っているように感じ始めた。教室に入るたび、子供たちの集団から発せられる『集団的な悪意のオーラ』に全身を震わせ、耐えきれなくなり、うつ病で休職した。
父兄たちは、自分たちの『安全な家庭』が、突如として外からの脅威に晒されていると感じ始めた。近所の視線が、自分たちを『不道徳な人間』として監視しているように感じる。『信頼に値しない家』『自分勝手で非協力的な家』そんな噂が絶えず聞こえてくる。彼らは疑心暗鬼に陥った。夫婦は責任をなすり合い、家庭内は常に喧嘩とヒステリーで満たされた。
イジメをした子どもたちは、不仲になる両親の下で不安に囲まれた日々を過ごす事になった。

彼らは、俺の子供に与えた
『安全な場所を奪われる恐怖』と
『集団から向けられる悪意の重圧』を、
そのまま自分たちの身で味わうことになったのだ。
彼らは自らが生み出した
『無責任と傍観』という無言の攻撃の中で、
永遠に怯えながら生きることを強いられた。
俺は、彼らの末路を見届けた。
「お前たちが奪った子供の平穏は、お前たち自身の平穏をもって償うがいい」
この裁きは、俺の憎悪を一時的に鎮めた。しかし、この事件は、俺に
「悪意は、日常のあらゆる場所に潜んでいる」
という、更なる絶望を植え付けた。
学校という閉じた空間には救いがない。
ならば、顔の見えないインターネットの世界は、どれほどの悪意に満ちているのだろうか?
俺は、次の復讐の標的に向かうため、愛する女の眠る部屋へと帰った。俺の心は、より広大な、そして匿名性の闇に潜む「奴ら」へと向かっていた。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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