
Vengeance(リライト版)【第1話】金を騙し取る詐欺師
「さて、どの物語を語るとしようか。俺が契約の力を使い、復讐を果たしてきた 『奴ら』の話をな……」
業火の中で笑う俺の問いかけに、ルシフェルはニヤリと笑った。
「ふむ、私は全て見ていたから、単にお前の復讐劇だけではつまらん。どんな感情があったかを話せ」
「……まあいいだろう。奴等の痛みを思い出す事で、この炎の匂いも和らぐしな」
俺が悪魔と契約を結んでから、最初に標的にしたのは、中沢という男だった。
中沢は、老人を狙った特殊詐欺グループの首魁だった。
奴等は『フィッシング詐欺』や『通販業者サイト』への不正アクセスによる個人情報の入手。『訪問販売』を装い性格を含めた人物像を把握し、闇名簿の中から『カモ選別』をしていた。
そして『カモ』と認定された老人たちから徹底的に金をむしり取る。
奴が詐取した金は、単なる紙切れではない。
それは、年老いた夫婦が、長年汗水垂らして築き上げ、病気や老後に備えて少しずつ積み立てた、『未来の安心』そのものだった。
俺は他人事だと思っていたが、奴は俺の妻の祖父母に手を出した。
奴のグループによって騙され、彼らが長年大切に守ってきた老後の資金、全財産に近い額が、たった一本の電話で消え去る事になったのだ。
希望を失い、祖母はショックで寝たきりとなり、数ヶ月後に静かに息を引き取った。
この出来事は、妻の心を打ち砕いた。
彼女は、僅かな援助しか出来なかった事が、祖父母を守れなかった原因だと自分を責め続けた。元々、繊細な性格だった妻は、この一件で精神のバランスを崩し始めた。
俺の憎悪は、中沢だけに向いたのではない。
「なぜ、こんな残酷な目に遭わなければならないのか」
世の中そのものに対する、深い挫折と絶望が、俺を悪魔の元へ向かわせたのだ。
警察は動いた。だが、詐欺の手口は巧妙で、実行犯はトカゲの尻尾切り。中沢は常に法の網をすり抜け、高級マンションで高笑いしながら、騙し取った金で贅沢三昧の日々を送っていた。
「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある」
奴には、未来も希望も奪われた絶望を知ってもらわねばならない。
俺は、中沢が祖父に仕掛けた一連のやり口を聞き、そして徹底的に調べ上げた。
それは、まさに老人の堅実な生活と、法的な無知を悪用する、最も汚いな手口だった。
中沢は、ターゲットの資産状況を調べ上げた上で、「堅実な老後のための、低リスク・安定配当の少額投資」を装って祖父母に接触していた。
彼は、信頼できる金融機関の専門家を名乗り、祖父母に対し、「物価高の今は、銀行に預けるだけでは、資産価値が減ってしまいます。これは資産を増やすのではなく『資産価値を守る』ための手段です」と、巧みに不安と安心を使い分けた。
祖父母は、「僅かな額なら」と老後資金の一部を、中沢が仕立てた投資会社へ託すことに同意した。

悪質なのはここからだ。中沢の部下は、投資契約の書類に、『(その会社が負う)債務の連帯保証人』としての条項を、専門用語として、巧妙に紛れ込ませた。
奴等は契約に関わる『不利益事項の説明』は口頭ではせず、全てのチェック欄に印とサインを入れさせていた。
祖父母は、書類のほとんどを「投資に関する規約」だと信じ、内容を吟味することなくサインしてしまったのだ。
そして数ヶ月後、中沢が仕立てたその株式会社は、計画通り意図的に倒産した。
中沢は、弁護士(偽)を装って祖父母に連絡してきた。
「奥様、残念ですが、会社は倒産しました。そして、連帯保証人であるあなたのご主人に、法的に全額返済の義務が生じました。
これは、投資額をはるかに超える数千万円の負債です。本日中に、全額を弁済しなければ、法的手続きに入ります」
祖父母は、少額の投資を始めたつもりが、一夜にして巨額負債の連帯保証人にされていたという事実に、打ちのめされた。
祖父が長年の苦労で築いた老後の安心は、法的な恐怖と、「自分の愚かなサインのせいだ」という自責の念によって、全てが消え去った。
祖母はショックで寝たきりとなり、数ヶ月後に静かに息を引き取ってしまった。
俺の憎悪は、老人の堅実さという美徳を裏切り、法的な無知を悪用する中沢の卑劣さに、全身の血が逆流するほど燃え上がった。
奴には、未来も希望も奪われた絶望を知ってもらわねばならない。
俺はルシフェルと交わした契約の力を初めて使った。悪魔の力は、物理的な破壊だけではない。それは、「人の運命」と「人の認識」を歪める力だった。
悪魔は汚い奴等が自らの糧なのだ。だから、中沢はルシフェルに監視されていた。
俺はルシフェルの力を利用し中沢のアジトに向かった。草木も眠る深夜、復讐の刻限だ。
「ルシフェル。血の契約の下、復讐のための『闇の力』を俺に宿すが良い」
俺がそう呟くと、全身に電流が走ったような感覚が走り、力が満ちた。俺の影が悪魔の意匠を帯びて揺らめく。
その瞬間、俺の耳元でルシフェルの冷たい声が響いた。
「『闇の力』を使うがいい、人間。お前の憎悪が強いほど、私の力はお前に強く宿る。
絶頂にいる奴の魂が味わう絶望は、極上の肴になるだろう。復讐を遂げよ。そうすれば、お前の魂の報われるだろう」

ルシフェルは、その声の中で初めて、微かに 歓喜の音を響かせた。その憎たらしさに、俺は鳥肌が立った。
翌朝
中沢は目覚めた瞬間、全身に走る奇妙な悪寒に襲われた。
いつもなら柔らかな高級シルクのシーツのはずが、肌触りの悪い化学繊維の寝具に変わっている。慌てて周囲を見渡した彼の視界が、ぐにゃりと歪んだ。
「なんだ、これ……!?」
豪華なタワーマンションの広大な寝室は消え、そこには、壁紙が剥がれ落ち、カビ臭い六畳一間のアパートが広がっていた。窓の外は排気ガスの匂いがこびりついた薄汚れた景色。
「玲香! おい、玲香はどこだ!」
彼は叫んだが、返事はない。既に秘書である玲香が来る時間だと言うのに誰もいない。腹を立てながら、愛用のスマホを探すが、手に触れたのは安っぽいプラスチックの、古いガラケー。
自分の着ているもの、手に触れるもの全てが、粗末なものに替わっている。それはまるで、彼が詐欺師として君臨する以前の、貧相な生活を送っていた頃そのものだった。
「な、なんだこれは…!?」
慌てて部屋を見渡すが、六畳一間の安アパートでしかない。
「まさか……全部、夢だったのか? 金も女も、全て幻だったのか……?」
中沢は、豪華なタワーマンションにいるという現実そのものを、
「全てを失った過去の悪夢」として認識させられていた。
彼はパニックに陥り、そのアパートから飛び出した。目の前を走る高級車も、きらびやかなブティックも、彼には「全てが、自分とは無縁の幻」に見えた。
彼の頭の中では、借金取りの幻聴が絶えず響き、警察のサイレンの音が、自分を追い詰めているように聞こえていた。
「嘘だ! 俺は成功したんだ! 金は持っている!」
彼は何度も叫んだが、通報で駆けつけた警察官には、ただの精神異常をきたした危ない男にしか見えない。結局、彼は錯乱状態で保護され、精神病院に送られた。
病室で、中沢は窓の外を眺めていた。彼の網膜に映るのは、ボロボロに朽ちた廃墟と、自分を嘲笑う人々の影。
彼は自分が持っていたはずの金、自分が奪った金、その全てが消え去ったという「絶望」の中で生かされることになった。
俺の復讐は完遂された。
金を奪う者は、金を失う恐怖の中で生きるべきだ。
だが、中沢が破滅したところで、妻の心は晴れなかった。
祖父母への罪悪感と、自分を責める気持ちは、癒えるどころか日増しに彼女を苦しめていった。
俺の復讐は、彼女を救うことには全く繋がっていなかった。
この虚しさこそが、俺が復讐を続ける中で味わった、最初の大きな挫折だった。
俺は、中沢の破滅を見届け、静かにアパートへ帰った。今は精神を病んでいるが、愛する妻が待つ、小さな、けれど温かい空間へ。あの夜の安らぎこそが、俺が地獄に堕ちる前の、唯一の救いだった。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。
#スキしてみて
#私の作品紹介
#堕天使との契約
#世の中には復讐したい奴等がいる
#悪魔の力を得た男
#欲望にまみれた愚かな人間
#無関心が無意識の悪意ある攻撃となる
#ダークファンタジー
#Vengeance