
Vengeance(リライト版)【第2話】妻を奪った男
中沢の破滅は、ルシフェルへの貢物にはなった。だが、俺の最愛の女の苦しみは消えなかった。この虚無感こそが、俺が復讐を続ける中で味わった、最初の大きな挫折だった。
業火の中で、俺は己の過去の痛みを噛みしめる。ルシフェルは、俺の苦悩こそが自分への最高の貢ぎ物だと笑う。奴はその愉悦を込めた目を細め、俺の復讐劇の続きに耳を傾けた。
俺が次に標的にしたのは、古賀という男だった。
古賀は、俺の大学時代からの知人だった。当時は、気の良い先輩風を吹かせていたが、俺の妻と初めて会ったときから、その目に異常な執着を宿していることに俺は気づいていた。
妻の祖母の死後、俺と妻の関係がぎくしゃくし始めた頃、奴は再び俺たちの前に現れた。
これが、俺の人生で最大の失態であり、最も深い挫折の始まりだった。
妻は、祖父母を守れなかった罪悪感と焦燥感から、深く落ち込んでいた。そんな精神的に弱った彼女の心の隙間に、古賀は巧みに罠を仕掛けた。
古賀は、妻のSNSの投稿や、共通の知人を経由して彼女の精神的なSOSを嗅ぎつけた。

古賀からの最初の接触は、SNSのメッセージだった。そのやり取りは、計算され尽くした「優しい配慮」から始まった。
古賀(SNS): 「大好きだったお婆さんがお亡くなりになったとの投稿見ました。寂しくなりますね」
妻はすぐに返事をしなかった。古賀は暫く時間を置いた。
古賀(SNS): 「度々スミマセン。お一人で悩んではいませんか?」
妻は依然として沈黙を守る。古賀は、ここで引き下がるフリをする。
古賀(SNS): 「ご迷惑…だったかもしれません。それともまだ見てないのかもしれませんね。ごめん、それじゃ…」
その「引き際」の優しさに、罪悪感から妻は思わず指を動かした。
妻(SNS): 「あ、あの、スミマセン。どう話して良いか判らなくて」
古賀は、この返信を待っていた。
古賀(SNS): 「良かった。ちゃんと食事や睡眠取れてますか?」
妻(SNS):「え、ええ、少しなら」
古賀(SNS): 「ご主人に話はしてます?」
妻(SNS):「いえ……」
古賀(SNS):「僕で良かったら聞きますよ」
古賀の言葉は、まるで理解者のフリをした悪魔の囁きだった。妻は、負担をかけまいと俺に話をせず、その孤独を古賀の『相談相手』という偽りに救いを求めた。
何度か会ううち、古賀は核心に迫る。
古賀は知り合いの医師から貰ったと言う『精神安定剤』を妻に渡した。
妻は朝・夕とそれを飲んだ。15〜20分ほどすると、食欲が湧き元気になった気がした。妻は言われた通り毎日それを飲み続け、古賀が仕掛けた『薬物の罠』に染まっていった。
そして妻は、知らず知らず、薬物に侵されていく…。
古賀は、徐々に薬物への渇望が妻の精神を支配するように仕向けていた。妻の心は、祖母の死の記憶と焦燥感と責任感によって、完全に理性を失っていった。
薬物への依存が強くなると、古賀は目的を露わにした。妻の支配だ。
ある日、薬物への渇望が全身を支配した妻を前に、古賀は冷酷に言い放った。
「欲しいか、これが? 薬物がないと、苦しくて堪らないだろ? フハハハ」
古賀は、薬物の袋を弄びながら、妻の屈辱的な姿を愉しんだ。そして、古賀の支配欲が剥き出しになる。
「お願い…薬を頂戴…薬を」
「あーはっは! なら脱げ! お前の身体も、心も、俺に捧げ、俺の女になるんだ! 亭主のことなど忘れて、俺に抱かれるんだ!」
妻は薬物に負け、古賀に抱かれた。
ただ抱かれただけじゃない。薬物の影響からか、獣のように乱れて古賀を求めた……。
抱かれたあと、妻の心は、『夫を裏切った』という自責の念と、薬物がないと、あの地獄のような苦痛に戻ってしまうという、恐怖の間で引き裂かれた。

彼女は泣き叫びながら、薬物を欲し続け、その渇望から古賀の要求を拒否できなくなった。彼女の心は、性奴隷という屈辱の中で、完全に壊れていったのだ。
古賀の目的は、妻の心を完全に支配すること。奴は、薬物によって妻を『自分の管理下にある、壊れた人形』へと変えていった。
太陽のような妻の光が失われ、その魂を泥濘に引きずり込まれていく様を、俺はただ見ていることしかできなかった。
俺が手を差し伸べようとすれば、薬物依存という鎖が妻を古賀に引き戻す。
古賀は、妻を単なる性奴隷として見下し、薬物依存という鎖で繋ぎ、彼女の肉体を搾取していた。そして、俺の憎悪は、奴の背後にいるルシフェルに劣らない、卑劣な古賀に向けられた。
俺は警察に訴えたが、主立った犯罪歴のない古賀は、短期間の内偵調査を行ったが、薬物犯罪に関する物証は出ず、調査は終了した。
事情聴取で奴は妻から誘われ、妻と不倫しただけだと証言した。逆に妻は『麻薬及び向精神薬取締法』に抵触していたため、事情聴取を受ける事になってしまった……。
古賀は巧妙に証拠を隠滅しており、警察の目には、妻が自ら薬物に溺れ、古賀を誘惑したかのように映ったのだ。
「誰にも裁かれない罪がある。誰にも救われない悲しみがある」
奴には、愛する者が苦しむ姿を、己の身をもって知ってもらわねばならない。
俺は再び、契約の力を呼び出した。古賀への復讐には、裏切りと嫉妬が混ざった、最も個人的な憎悪が渦巻いていた。
俺は古賀の前に立ち、全身に電流が走る感覚と共に力を解放した。
「ルシフェル。血の契約の下、復讐のための『闇の力』を俺に宿すが良い」
その瞬間、ルシフェル、お前が俺の目の前に現れ、嘲笑を浮かべたんだ。
「ああ、その嫉妬と憎しみの感情、素晴らしい。古賀への憎悪は、奴の『快楽の喪失』を生むだろう。そして、奴の魂を地獄に堕とし永遠の苦痛を与える。だが、人間よ、これでお前の魂はまた、私の下に近づくのだ」
悪魔の力は、古賀の脳内の報酬系を永遠に破壊した。

古賀は、その夜から地獄を見た。
翌朝、奴は目覚めてすぐに朝食を口にしたが、何の味もしない。
酒を飲んでも、ただの苦い液体。女を抱いても、ただの無機質な摩擦。
俺の妻を支配することで得ていた歪んだ優越感さえも、もはや快楽としては成立しない。
その夜からは、まともに眠ることさえできなくなった。人間の三大欲求、その全てから「悦び」が剥奪されたのだ。

奴は、自らの部屋で四肢を痙攣させながら床を這いずり回った。身体は睡眠を求めているのに、脳は永遠と思える覚醒を続ける。叫んでも、誰からも助けは来ない。
(俺は、どうすれば眠られるんだ!? 満腹感は? 女を抱いても永遠に果てない。どこだ、あの感覚はどこへ消えた!?)
古賀は知ることとなった。人が生きる希望が、一夜にして『永遠に満たされない渇望と苦痛』という砂漠に変わり果てる絶望を。
それは、彼自身が、妻に味わわせた
「救いのない渇望と苦痛」の反復だった。
俺は、その絶望的な光景を見届けた。
「お前の人生が続く限り、生そのものが、お前自身の永遠の苦痛になるのだ」
それが、俺が古賀に与えた裁きだ。俺は再び、愛する女の待つアパートへと静かに戻った。彼女はまだ、苦しみに耐えている。

その安らぎのない寝顔を見つめるたびに、俺の心が癒されることはない……。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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