【短編小説】 九頭
私はクズだ。
それは本当にどうしようもない程のクズだ。
というのも、
同時に複数の女性を愛しているから。
しかしそれはどうしようもない事だ。
私はクズなのだから。
そんな私の話をしよう。
まず1人目。
彼女はとても寡黙な女性だ。
それに対し私はとても情熱的。
いや。感情の起伏が激しいと言った方が
正しいのかもしれない。
先日も彼女の愛情表現の無さに苛立ってしまい、
つい手が出そうになるほどだった。
というのも彼女は、
二人で同じ空間にいる時でさえ
「好き」だの「愛してる」といった言葉を
口に出さない。
そんな彼女に私は苛立ちを覚えてしまった。
私はこんなにも彼女に愛を伝えているのに。
次に2人目。
彼女は明朗快活な女だ。
明るく、正直で、生き生きとしている。
私はあまり表に立つことが得意ではない。
そんな中、彼女はいつも集団の中心にいる。
そしてその集団の中の人間達から、
分かりやすい称賛を受けている。
「君がいると場が明るくなるよ」
「君のおかげで皆が仲良くなれた」
私はそんな彼女に劣等感を感じていた。
その劣等感を彼女に
ぶつけてしまうことさえあった。
私は最低のゴミクズ野郎だ。
次に3人目。
彼女は聡明な女性だ。
思慮深く、頭の回転も速い。
しかし私は真逆で、
いつも衝動や欲望に身を任せて行動してしまう。
それが正解なのならば良いが、
九割五分間違っている道だ。
私が衝動的に間違った道に進もうとしてしまう
そんな時、 彼女は私を諭してくれる。
気遣ってくれる。
許してくれる。
私はそんな彼女を愛している。
4人目。
彼女はよく笑う女性だ。
その笑いは軽く、どこか無責任で、
だからこそ救われる瞬間があった。
だが私は、その笑いを信じきれなかった。
本当に楽しいのか。
私がいなくても、
その笑いは同じ形をしているのではないか。
私は彼女の笑顔に苛立つようになった。
5人目。
彼女は静かな夜のような女性だ。
多くを語らない。
私はその隣にいると、妙に落ち着く。
——はずだった。
心臓の音が遠くなる。
呼吸が浅くなる。
何も感じなくていい。
何も選ばなくていい。
何も、間違えなくていい。
それは恐怖ではなかった。
むしろ安堵だった。
私は彼女といると、
生きていることをやめたくなる。
私はそんな彼女を愛している。
6人目。
彼女は私を求める女性だった。
「会いたい」
「声が聞きたい」
「会いたい」
そう言われるたび、私は満たされた。
だが次第に、それは重さに変わる。
私は逃げる。
満たされるほど、逃げたくなる。
7人目。
彼女は残酷なほど正直な女性だ。
その言葉は鋭く、私を抉る。
だが私は、それに救いを感じていた。
優しさよりも、
その痛みの方が本物のように思えたからだ。
8人目。
彼女は私に、
どこか壊れたものを見せる女性だった。
笑うべきでないところで笑い、
泣くべきところで泣かない。
いや、違う。
それを“そう感じている”のは
私の方なのかもしれない。
彼女はただ在るだけで、
壊れているのは私の見方の方なのかもしれない。
私は彼女に似ていると思った。
だからこそ、目を逸らした。
そして9人目。
私は私を愛している。
どの女にも満たされないものを、
私は自分で埋めようとしている。
だがそれは埋まらない。
どれが誰だったのか、分からない。
最初から、分かっていなかったのかもしれない。
これは愛ではない。
私はクズだ。
私は一人ではない。
私は、
私達は、
九頭だ。