
BYDが大型EVトラックを欧州へ「欧州企業になる」宣言 世界自動車朝刊2026年9月15日
今日の結論
9月14日の世界自動車産業では、「技術がないから移行できない」のではなく、「技術はあるが経済条件が整わない」という問題が前面に出た。
欧州の主要トラック・バスメーカー7社は、EUが2030年に求める大型車CO2削減目標について、達成期限を3年間延期するよう要求した。
現行規則では、新車大型車のCO2排出量を2025年比で2030年に43%、2035年に64%、2040年に90%削減する必要がある。しかし現在、欧州で販売される大型車のうちゼロエミッション車はわずか2.4%である。メーカー側は、車両そのものではなく、充電網、系統接続、電力価格、運行採算が追いついていないと主張する。(Reuters)
ところが同じハノーバーでは、BYDが欧州向け大型EVトラックを発表し、将来的にトラックも欧州現地生産へ移すと表明した。「欧州で販売するものは、長期的にはすべて欧州で生産する」とし、車両だけでなく金融、充電、整備まで含む事業モデルを持ち込む。(Reuters)
そしてアメリカではWaymoがラスベガスで一般向けロボタクシーサービスへ進出した。数十台から始め、段階的に拡大する。(Reuters)
三つに共通するのは、技術競争がすでに次の段階へ進んでいることである。
EVを作れるかではなく、商売になるか。自動運転できるかではなく、都市単位で運行できるか。
2026年後半の競争軸は、技術性能そのものから実装コストと事業モデルへ移りつつある。
1. 欧州トラック大手、2030年CO2目標を「3年遅らせてほしい」
DAF Trucks、Daimler Truck、Iveco、Scaniaなど欧州の主要トラック・バスメーカー7社は9月14日、EUに対して2030年CO2削減目標への完全適合を3年間延期するよう求めた。現行制度では大型車メーカーに、
2030年:2025年比43%削減
2035年:64%削減
2040年:90%削減
を求めている。未達の場合は罰金も発生する。(Reuters)
メーカー側が指摘する最大の問題は、EVトラックを作れないことではない。
すでに各社は大型BEVを販売している。問題は買う側の経済合理性である。
現在、欧州で販売される新車大型車のうちゼロエミッション車は2.4%にすぎない。2030年目標を達成するために必要な水準とは大きな差がある。(Reuters)
「メーカーだけに責任を負わせても売れない」
トラックの電動化は乗用車より難しい。
大型BEVは高い。巨大な電池が必要になる。物流拠点には大容量充電設備が必要になる。
そして数十台、数百台を同時に充電するためには、単に充電器を置くだけではなく送電網への大規模接続が必要になる。
さらに物流企業にとっては、
車両価格
電力価格
有料道路料金
積載量
充電待ち時間
稼働率
を全部計算したうえで、ディーゼルより採算が良くなければ買い替える理由がない。そこでメーカー7社は、単純な規制延期だけではなく、
充電網の整備加速
送電網接続の迅速化
CO2排出量に応じた道路料金
排出量取引収入の充電インフラ・ZEV支援への再投入
を求めた。(Reuters)
この要求の本質は、「トラックメーカーだけに43%削減を課しても、市場全体が変わらなければ売れない」ということである。
乗用車より先に「EV移行の採算問題」が表面化
欧州では乗用車についても2035年規制の緩和が大きな政治テーマになっている。
しかし大型車はさらに厳しい。
個人がEVを買う場合なら、環境意識やブランド、走行性能も購入理由になり得る。
物流会社では基本的にそうはいかない。
1km走るコスト、1日何時間動かせるか、何年で償却できるか。
これが最優先である。
したがって大型商用車は、EV移行が本当に経済的に成立するかを試す最もシビアな市場でもある。
2030年目標を3年延ばす要求は、欧州の脱炭素そのものを否定するというより、車両技術と、それを使う社会インフラの速度差が限界へ近づいていることを示している。
2. BYD「欧州で売るものは欧州で作る」――大型トラックにも現地化を拡大
その欧州トラック業界に、新しい競争相手が本格的に入ろうとしている。
BYDは9月14日、ハノーバーのIAA Transportationで大型EVトラック「ETT 44」を披露し、2027年に欧州市場へ大型トラックを投入する方針を示した。
さらにBYDの李柯・執行副総裁は、「長期的には、欧州で販売するものはすべて欧州で現地生産する」と述べた。(Reuters)
これは乗用車だけの現地化ではない。
BYDはハンガリー・セゲドで乗用車工場を建設中で、量産開始は2027年の予定である。
今度は商用車まで同じ方向へ持っていく。
車を売るだけではない
さらにBYDが興味深いのは、トラック単体を輸入販売するだけの計画ではないことである。物流事業者に対して、
車両金融
太陽光を組み合わせた充電設備
整備工場ネットワーク
移動式ロードサービス
まで含めた一体型サービスを提供する考えを示した。(Reuters)
これは欧州既存メーカーが先ほど主張した問題への、一つの企業側の回答でもある。
既存メーカーは、「充電網が足りないからEVトラックが売れない」と言う。
BYDは、「ならば充電や金融まで含めて売る」方向へ進む。
もちろんBYDだけで送電網問題まで解決できるわけではない。
しかし競争の単位が「車両」から「運行システム」へ変わっていることは明確である。
欧州メーカーが恐れているのは乗用車の再現
MANなど欧州の大型商用車メーカーはすでに、EUに対して中国製電動トラックにも、中国製BEV乗用車と同様の追加関税を求めている。(Reuters)
理由は分かりやすい。欧州メーカーは現在、
高い電池コスト
厳しいCO2規制
充電インフラ不足
を抱えながらEVトラックへ投資している。
その市場へ、中国の巨大な電池・EVサプライチェーンを持つメーカーが低コスト商品を持ち込めば、乗用車市場と同じ価格競争が起こる可能性がある。
しかしBYDもその関税リスクを理解している。
李氏は追加関税について「望ましくない」としながらも、現地生産へ移れば短期的な問題にすぎないという考えを示した。(Reuters)
ここは今週ずっと追っている「現地化の深さ」とつながる。
関税を上げる、すると中国メーカーは欧州へ工場を建てる。
完成車だけでなく部品にも現地調達を求める、するとサプライヤーまで欧州へ移す。
市場を守ろうとすればするほど、中国企業自身が欧州企業化する圧力が強くなるという逆説が生まれている。
「European company」という言葉
李氏は最終的に、「すべてを現地生産へ移せば問題ない。われわれはEuropean companyになる」と述べた。(Reuters)
かなり象徴的な言葉である。
中国メーカーか欧州メーカーかという区別が、本社所在地なのか、株主なのか、工場所在地なのか、部品調達なのか、雇用なのか、徐々に曖昧になる。
BYDの大型トラック参入は、電動商用車競争だけでなく、「欧州自動車産業とは何か」その定義まで揺らす可能性がある。
3. Waymo、ラスベガスへ――ロボタクシーは「何都市で営業するか」の競争へ
アメリカではWaymoが9月14日、ラスベガスで一般向け自動運転配車サービスを開始すると発表した。
Nevada州では初の一般向け展開となる。
開始時は数十台規模で、そこから段階的に増やす。(Reuters)
車両にはWaymoの第6世代自動運転システムを搭載した「Ojai」を使用する。ベースとなる車両プラットフォームはGeely傘下Zeekr製である。(MarketScreener Italia)
WaymoはすでにCalifornia、Texas、Florida、Arizonaなどで展開し、9月初めにはDenver、San Diego、Tampaへの進出計画も示していた。
つまり注目点は、ラスベガスという一都市そのものではない。都市展開の再現性が出始めていることである。
自動運転の性能競争から「複製」の競争へ
これまでロボタクシーでは、何マイル無人走行したか、事故率はどうか、人間より安全か、という技術指標が中心だった。
現在のWaymoでより重要になってきたのは、一つの都市で成立した運用モデルを、別の都市へ何カ月でコピーできるかである。新しい都市へ入るには、
地図・道路環境への対応
行政との調整
車庫
充電設備
清掃・整備
遠隔支援
保険
まで整えなければならない。AIが動くだけでは商売にはならない。
Waymoは今年2月に160億ドルを調達し、企業価値は1,260億ドルと評価された。
その巨額資金を何に使うのかという問いへの答えが、都市数の拡大として見え始めている。(Reuters)
Las Vegasはロボタクシーの競争都市になる
ラスベガスにはすでにZooxが商用サービスを展開し、UberとMotionalもサービスを開始している。
そこへWaymoが入る。
TeslaもRobotaxi事業を拡大中である。
つまりラスベガスでは今後、Waymo、Zoox、Motional、Teslaなどの方式を比較できる市場になる可能性がある。
自動運転そのものの技術だけでなく、
料金
待ち時間
サービス地域
車両稼働率
運営コスト
という普通の交通サービスとしての競争が始まる。
ロボタクシーは「未来の実験」から、都市交通市場のシェア争いへ移り始めている。
今日の小さな変化
pony.aiも9月14日のIAA Transportationで、GACと共同開発したL4自動運転大型EVトラックを公開した。
2026年中に量産を開始し、今後2年以内に欧州と中東へロボトラック事業を展開する計画である。すでに欧州の複数政府や港湾と公道試験について協議を始めている。(Reuters)
pony.aiは中国ですでに数百台のL4トラックを運行しており、一部は安全員なしの完全無人運行も行っている。
欧州で狙うのは特に、人件費が高い市場、ドライバー不足が深刻な市場である。(Reuters)
Tesla Semi、BYD、pony.aiが同じ時期に欧州大型商用車市場へ向かっていることを考えると、今後のトラック競争は、電動化だけでなく、電動化+自動運転へ進む可能性がある。
ただし欧州ではL4公道試験を認める制度が整っている国はまだ限定的であり、現段階では主軸ではなく観測案件とする。
もう一つ、中国ではGACがFAWの自動車JV持分の一部取得に向けた意向書を締結した。対象JV名は正式には非公表だが、中国国営メディアは一汽トヨタだと報じている。(Reuters)
報道通りなら、トヨタが50%、FAWとGACが各25%を保有する統合販売会社を作り、現在別々の一汽トヨタと広汽トヨタの販売・サービス網を統合する構想が具体化していることになる。(Reuters)
まだ正式契約前であり、中国固有のJV再編案件でもあるため今日は主軸に置かない。
ただし、中国市場で外国メーカーが二つの合弁会社を別々に維持する従来モデルそのものを見直す動きとして、成立すれば重要である。
今日の読み筋
9月15日版のキーワードは、「技術より、その周りを誰が作るか」である。
欧州メーカーにはEVトラックがある。しかし売れない。
原因は車両の性能だけではない。充電網、送電網、電力価格、道路料金、物流会社の投資回収。
これらが揃わなければ2.4%から一気に普及させることは難しい。そこでメーカーは2030年CO2目標を3年遅らせるよう求めた。
同じ場所へBYDがやってくる。
BYDは車両だけを持ってくるのではない。金融、充電、太陽光、整備。そして最終的には欧州生産。
車を売るために、その周囲の仕組みまで自分で作ろうとしている。
Waymoも同じである。自動運転AIだけを作れば終わりではない。都市ごとに車庫を作り、充電し、清掃し、行政と調整し、車両を稼働させる。
そこで初めてロボタクシーが事業になる。
2020年代前半まで、自動車の次世代競争は、
電池容量
充電速度
AI性能
LiDAR
演算能力
といった技術指標で語られることが多かった。
現在は違う。良い技術を作ることは前提になった。
その次に、それを社会で安く、大量に、継続的に使える仕組みを誰が作れるかが競争になる。
9月14日は、欧州トラックメーカーの規制延期要求、BYDの欧州現地化、Waymoの都市拡大という三つのニュースから、次世代モビリティのボトルネックが「技術」から「実装する産業システム」へ移ったことが鮮明になった一日である。
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