
午後五時の呼吸
夕方になると息苦しくなる。
世界がわたしからぼやけていって、窓の外の音が遠くなる。
4週間前に離婚が決まった。
望まない離婚だった。
けれどこの1年、どれだけ一緒に暮らしたいと言っても、夫は首を縦に振らなかった。
6歳の息子は夫のもとにいる。もう1年会えていない。
午後5時を過ぎるころ、マンションのどこかで夕飯を作る音がする。
包丁の音。
子どもの笑い声。
「いただきます」と聞こえてきそうな気配。
わたしだけが、その時間から取り残されている。
白いベッドの上で、わたしは膝を折り曲げ、背中を丸める。生まれたての赤ちゃんのような格好で、浅い呼吸を繰り返す。
頭の中では、たったひとつの言葉だけが、繰り返し波のように襲ってくる。
それでも。
そんな夕方が、こうして文章になって、誰かのもとへ届くなら。
離婚やうつ病や失恋で泣いている人に、わたしだけじゃないと思ってもらえるなら。
わたしは今日一日を生きよう。
明日生きるかどうかは、明日決めればいい。
今日の夕方の景色が、美しいと思えるその日まで、わたしはわたしの感じたことを、言葉にするのだ。